大規模修繕工事の工事写真が重要な理由 /工事を知らないと撮影できない

管理組合が大規模修繕工事を発注し、工事を行なってもらいます。工事が終わった際に書類をもらうのですが、工事写真を提出する業者としない業者があります。可能なら工事写真をもらう方が良いです。今回は見落とされがちな、工事写真について書いてみたいと思います。

工事写真とは何か

工事の着工前から完成までの施工状況や経過の様子、使用材料などを各工程ごとに記録したものです。時々、工事写真の提出を求めたら工事をしている職人さんの様子を写した写真をパラパラと送ってくる業者がいますが、それはあまりに低レベルです。それじゃ役に立たないんですよ。

工事写真の撮り方とまとめ方は、国土交通省官庁営繕部が出している「営繕工事写真撮影要領」が基本になります。これは官庁工事のために作られた要領書ですが、民間工事でも広く使われていて、工事写真撮影の基本になっています。ただ、この要領書だけではわかりにくいので、一般社団法人公共建築協会が、この要領書を元に「工事写真撮影ガイドブック」を出しています。こちらが多くの工事現場で使われています。

手間がかかる工事写真

このガイドブックに従って工事写真を撮り始めると、かなり大変です。ゼネコンに入社して1年目の私は、この本とカメラと黒板を渡され、文字通り朝から晩まで工事写真を撮っていました。朝8時から工事が始まりますが、その前から写真を撮り始め、昼休みも撮影していることがありました。とにかく撮影する量が多く、撮るかどうか迷ったら撮れと言われていたので、汗だくになりながら写真を撮っていました。

※コニカが発売していた工事現場用カメラ「現場監督」

このように手間が掛かるので、マンションの大規模修繕工事で「工事写真撮影ガイドブック」通りに写真を撮るように要求したら、かなりの金額を見積書に書いてくる業者もいます。そのため大規模修繕工事では、あまり工事写真の提出を要求しないケースを多く見かけます。

なぜ工事写真を撮影するのか

そんな手間とお金をかけて工事写真を撮影することに、何の意味があるのでしょうか。私は施主の立場としてマンション建設に関わったこともありますが、何千枚もの工事写真を提出されても見る機会はさほどありません。見ないなら撮影しなくても良いような気がします。しかし工事写真には、重要な意味があるのです。

工事写真は隠れて見えない部分が、どのように施工されたかを確認することができます。完成してからではわからない部分が、どのように工事されていたのかを写真だけが教えてくれます。写真がなければ完成するまでにどんな工事をしたのかわからず、また本当に設計図通りの材料が使われたかわからなくなります。そのため工事写真は設計図通りに正しい工事をしたという証明になり、引渡し後にトラブルが発生した場合の検証資料にもなるのです。

工事写真を撮影するのは当たり前

上記のように使った材料の記録や、見えない部分の施工状況を知る重要な資料ですから、工事写真を撮影するのは施工業社として当たり前のことになります。引渡し後にトラブルが起こった際、自分たちはキチンと施工したという証拠になるからです。そのため提出するかしないかは別にして、施工業社は工事写真を大量に撮っておくものなのです。自分たちを守る資料になるのですから、撮らない理由はありません。

しかし現実には工事写真の提出を要望すると、それを嫌がる業者がいます。大規模修繕工事の場合はよほど大掛かりな工事でない限り、現場代理人や現場監督は常駐しません。他の物件も含めて巡回管理なので、現場で写真をとり続けることが難しいのです。しかし慣れている業者は、作業している職人に写真を撮ってもらうなど工夫をしています。工事写真は自分達を守るためのものでもあるので、撮影するのは当たり前なのです。真面目に施工していればしているほど、きちんと行った証拠を残したいと思うのも当然のことでしょう。

工事写真の撮り方を知らない業者は工事の仕方を知らない

工事写真の撮影は、工事の流れに沿って行われます。そして工事の重要なポイントを撮影し、記録することになります。なぜゼネコンでは新卒社員が工事写真の撮影をやらされるかと言うと、工事の流れを把握して重要なチェックポイントがどこかを学ぶのに最も良いからです。逆に言うと、工事写真の撮影方法を知らない人は工事の流れを把握しておらず、どこをチェックするべきか分かっていないことになります。

※工事写真用の黒板の例

また工事写真を撮る際に一緒に写す黒板も同様で、何が重要か分かっている人は黒板に何を記載するべきか分かっています。工事の流れとチェックポイントを理解している人は、何を書くべきかで悩むことはありませんし、情報量が不足するということもありません。そのため大規模修繕工事で工事写真の提出をお願いした際に「どういう写真を提出すれば良いですか?」とか「どうやって撮影するんですか?」といった質問を受けることがありますが、こういう業者は工事が分かっていないので、管理組合や修繕委員会にお勧めしないことにしています。

まとめ

修繕であれ工事であれ、工事写真は重要です。工事写真を撮るということは、工事の流れや重要なチェックポイントが分かっているということです。また工事写真はきちんと施工していることの証明になるので、正確な工事をしている業者ほど撮影して残しておこうとします。そのため工事写真があるかないかというのは、単に工事の記録があるかないかというだけでなく、その業者の質も見えてきます。そういった意味で工事写真は重要だと思います。

大規模修繕工事の工事写真が重要な理由 /工事を知らないと撮影できない” に対して3件のコメントがあります。

  1. 読書好きα より:

    いつも拝読し、勉強させてもらっております。以前、液状化問題の記事にコメントした者です。今回も大変勉強になりました。建設業界のことはほとんど何も知らず、工事写真の重要性も、まったく理解しておりませんでした。
     ところで、こちらの記事に関連して、1つ質問をさせてください。修繕工事ではなく、新築マンションの建設工事の工事写真一式の提出を、管理組合が売主に求めることに意味はあるとお考えでしょうか。また、そもそもそのようなことは可能でしょうか、あるいはわざわざ管理組合から要求しなくても施工図などの図面一式と一緒に工事写真も売主から自発的に提出されるべきものでしょうか。(仮に後者だとすると、私は理事をしておりますがそのような資料の存在は承知していませんので、確認してみたいと思っております。)
     よろしくお願いします。

    1. TaCloveR Tokyo より:

      コメントありがとうございます。
      工事写真を引き渡すデベロッパーもあるかもしれませんが、私の知る限りではないです。それだけレアケースだと思います。

      私がデベロッパーにいた頃、何度か工事写真全ての引き渡しを要求した管理組合がいくつかありましたが、渡さないことになりました。理由はマン管法施行規則102条に定められた図書以外には、引き渡し義務がないからです。ただ本音の部分ではデベロッパーとしては、面倒なことになる可能性があるので排除したという面が大きかったです。

      デベ側で懸念するのは、工事写真で粗探しをされることです。コンサルタントをしている私が言うのもなんですが、重箱の隅を突いて揚げ足をとるコンサルが多いのも事実で、そういう人が出てきて面倒なやり取りが発生するのを嫌がります。そのため法的に引き渡し義務がない工事写真を渡すように要求しても、断られる可能性が高いと思います。ですが何らかのトラブルが生じ、その原因を解明するために写真の提出を求めると出てくることが多いと思います。

      このように管理組合として提出を要求しても出てくる可能性は低いですが、管理組合として所有しておく意義はあります。特に多くのデベロッパーでは保管期間が10年程度なので、数十年経過してから起こったトラブルの原因究明時に使えないというのがあります。特にトラブルがなければ、デベの瑕疵担保責任が終わる10年を目処に引き渡してもらうように交渉してみてはどうでしょうか。

      1. 読書好きα より:

        お返事どうもありがとうございました。
        なるほど、デベとしては躊躇してしまう気持ちもよく分かります。おっしゃるように、瑕疵担保責任の期間が切れる時期に引き渡してもらうよう交渉するのがいいのかもしれません。いずれにしてもダメ元でしょうが、仮に実行する場合は、話の持っていき方にも細心の注意が必要であるように感じました。むやみにデベ側を警戒させないように、先にしっかりと良好な関係を築いた上で、丁寧にお願いしなきゃいけないですかね。
        いろいろとご教示ありがとうございました。引き続き、勉強させていただきます。よろしくお願いします。

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