天井からコンクリートが落下するマンション/管理組合がゼネコンを提訴

三重県にあるリゾートマンションで、発生した施工不良が話題になっています。ロイヤルヴァンベール志摩大王崎というマンションで、天井からコンクリートの塊が落下してくるそうです。深刻な状態になっているとのことですが、売主と施工会社側が修繕を中断しており、管理組合は2億8000万円の損害賠償請求を起こす予定だと報じられました。今回はこのマンションで何が起こっているのか、新聞記事などの情報から見ていきたいと思います。

ロイヤルヴァンベール志摩大王崎の概要

  • 住所:三重県志摩市大王町波切
  • 構造・規模:鉄骨鉄筋コンクリート造 14階建
  • 総戸数:120戸
  • 竣工:1997年11月
  • 施工会社:住友建設(現 三井住友建設
  • 売主:大和ハウス工業
  • 管理:大和ライフネクスト

事件の概要

1997年11月に竣工し、4〜5年目に廊下やベランダで爆裂が発生したようです。コンクリートがボロボロと剥がれる爆裂の発生は問題になり、売主の大和と施工会社の住友建設で調査が行われました。その結果、コンクリートと鉄筋の「かぶり厚」が不足しており、それが原因で爆裂が発生したと結論づけられました。そこで2009年に大和と住友が修繕を行いました。これで一件落着だったはずでした。

しかし2020年頃から、再び爆裂が発生しました。住友と大和が調査を行い、数十ヶ所の危険箇所が見つかりました。大和、住友側と管理組合が協議を行いましたが、無償修繕を求める管理組合に対して大和が反発して修繕工事を中断したそうです。民法の除斥(じょせき)期間の20年が過ぎていることが理由だったそうです。こうして管理組合は2億8000万円の損害賠償を求めて裁判を起こす方向だそうです。

鉄筋コンクリートとは何か

ここで問題になっているコンクリートの爆裂を説明する前に、鉄筋コンクリートについて簡単に説明します。鉄筋コンクリートは鉄筋とコンクリートでできているのですが、この二つはそれぞれの短所を補う関係で強い耐震性を誇っています。コンクリートは圧縮に強く引っ張りに弱いという特性があり、鉄筋は引っ張りに強く圧縮に弱いという特性があります。この2つを組合わせることで、引っ張りにも圧縮にも強い構造体になります。

また鉄筋の最大の弱点はサビることです。錆びるとは酸性化することですが、コンクリートはアルカリ性なのでコンクリート内部の鉄筋がサビることはありません。今は建設現場の様子もYouTubeなどで見ることができますが、錆びたままの鉄筋にコンクリートを打設している様子を見ることもあります。大丈夫なのかと心配する人もいるようですが、コンクリートがアルカリ性なのでサビが進行することはないのです。むしろ少しぐらいサビている方が、鉄筋の表面の油が取れているのでコンクリートへの食いつきが良いと言われています。

ちなみに鉄筋コンクリートの歴史は古く、19世紀のフランスまで遡るようです。最初の鉄筋コンクリートが使われたのは、植木鉢だと言われています。陶器に代わりコンクリート製の植木鉢が目新しさから流行するのですが、重い割に陶器同様に割れやすいという欠点がありました。そこで庭師のジョゼフ・モニエという人物が、コンクリートの中に金網を入れる工法を考えました。モニエはこの植木鉢をパリ万博に出品すると特許を取得し、それを見たエンジニアのフランソワ・エヌビックが橋梁に利用して近代的な鉄筋コンクリート造に近づくことになりました。エヌビックはラーメン構造を提唱した人物で、近代建築の基礎に大きく関わった人物でもあります。

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コンクリートの爆裂とは何か

上記のように鉄筋コンクリートは、サビやすい鉄筋をアルカリ性のコンクリートで覆っています。しかしコンクリートにクラック(ひび割れ)が入り、コンクリート内に雨水などが侵入してくると鉄筋がサビていきます。鉄はサビると体積が2倍以上にも増えるため、膨張した鉄筋がコンクリートを壊していくのです。古い建物の壁などに、ひび割れから茶色いサビ汁が垂れている様子を見たことがある人も多いと思います。これが爆裂になります。

放っておくと鉄筋のサビは広がるので、コンクリートのひび割れもどんどん広がっていきます。爆裂が広がることで鉄筋コンクリートの強度が下がり、やがて建物に深刻な被害を与えることになります。耐震性は低くなりますし、美観のうえからも好ましくない状態になってしまいます。爆裂はなるべく早く補修するのが好ましいのですが、ロイヤルヴァンベール志摩大王崎では2020年に爆裂が再発してからそのままになっているようです。爆裂の進捗がどの程度かによりますが、このまま放っておくのは建物にとって良くないのは明らかです。

コンクリートが爆裂を起こす原因

爆裂を起こす原因は複数あります。以下に主な原因を列記しますが、どれか1つが原因ではなく複合要因になっていることもあります。そのため爆裂の原因を特定するのは難しく、安易な決めつけは問題を複雑化することになりかねません。

①コンクリートの乾燥収縮

コンクリートはセメント、砂利、砂を水で混ぜて生コンを作り、それを型に流し込んで乾燥させます。つまり水を入れてから乾燥させるため、生コンの時と乾燥した時では体積が変わってしまうのです。そのためコンクリートは乾燥する時にひび割れが発生しやすく、そのひび割れから雨などが侵入して爆裂を発生させます。コンクリートの水分は何年もかけて抜けていくため、建物が完成してからも乾燥収縮によるひび割れが発生する可能性があります。

②コンクリートの中性化

コンクリートが空気中の二酸化炭素に触れると、水酸化カルシウムと化学反応を起こします。水酸化カルシウムは中性の炭酸カルシウムと水へと変化するため、コンクリートがアルカリ性を失う「中性化」が起こります。コンクリートがアルカリ性であるため鉄筋のサビを防いでいたのですが、中性になった

③気温の大きな変化

マンションは気温変化によって伸び縮みしていると言っても、ピンとこない人が多いかもしれません。しかし冬の早朝と昼間に建物の長さを測ると、数値が変化していることがわかります。特に横長のマンションでは顕著で、温度変化による膨張と収縮はかなりの頻度で起こっています。そのため収縮目地などを設けてひび割れが発生しないようにしているのですが、コンクリートが熱膨張と収縮を繰り返しているのですからひび割れは発生してしまいます。そこから雨水が入ることで、爆裂を発生させてしまいます。

④塩害

海岸線から近いマンションでは、塩害による爆裂も発生します。潮風が建物に当たることで、コンクリートの塩化イオン濃度が上がり、鉄筋が腐食しやすい環境になってしまいます。

⑤かぶり厚不足

かぶり厚とは、コンクリート表面から鉄筋までの深さのことです。かぶり厚は部位ごとに決められていて、それを守ることは鉄筋コンクリートの寿命を維持するうえでとても重要になります。例えば外壁のかぶり厚は3cmですが、上記の②で書いたコンクリートの中性化は20年ごとに1cm進むと言われています。3cmのかぶり厚があれば60年は中性化から鉄筋を守ることができます。多くはありませんが、施工不良により鉄筋が曲がり、一部のかぶり厚が数mmになっていることもあります。そうなるとひび割れが発生しやすく、爆裂も起こりやすくなってしまいます。

⑦地震

建物全体を大きく揺らす地震は、建物のあちこちに多くのひび割れを発生させます。現在の建築基準法は震度7でも倒壊しない建物を目指した基準になっていますが、建物はダメージを負いますしひび割れも発生します。建物に大きな被害がなくとも、小さなひび割れがあちこちに発生しているケースは多く、地震から数年後にあちこちでサビ汁が垂れているのが目撃されることも珍しくありません。

かぶり厚不足が原因なのか

ロイヤルヴァンベール志摩大王崎の場合、外廊下の天井部分に爆裂が発生しており、その爆裂の原因はかぶり厚不足だと報じられています。バルコニーの床のかぶり厚は30mmか40mmだと思いますが、かぶり厚さを確保するためにサイコロと呼ばれる樹脂製のスペーサーを設置して鉄筋を配筋しています。鉄筋を適切に加工し、適切に鉄筋を組み、適切なスペーサーを使用すればかぶり厚は確保されているはずです。

しかしコンクリートを打設する時に鉄筋の上に土工やポンプの配管が乗ることで、鉄筋が曲がってしまってかぶり厚が無くなってしまうことがあります。こういうことが起こらないように鉄筋の上にメッシュロードを敷くのですが、階段部などメッシュロードが置けない場所では鉄筋が踏まれてグチャグチャになりがちです。またメッシュロードを適切に敷かなかったり、コンクリート打設の段取りが悪いと職人が右往左往することになって配筋が乱れることもあります。そのため施工不良によるかぶり厚不足の可能性も捨てきれませんが、先に書いたように爆裂にはさまざまな原因があるので、報道された内容だけではかぶり厚が不足したのが爆裂の原因かどうかは私にはわかりません。

ただ報道の写真を見る限り、かなりの範囲で爆裂が発生しており、落下したコンクリートも大きなもののようです。竣工してから26年目でこのような事態になるのは珍しく、施工不良を疑うには十分な状況だというのも加えておきます。

除斥期間20年の壁とは

ロイヤルヴァンベール志摩大王崎の管理組合は、これらの爆裂は施工不良が原因として、施工した三井住友建設らに補修代金と将来的な補償を求めたようです。しかし住友側は除斥(じょせき)期間の20年が過ぎていることを理由に拒否し、管理組合は裁判に訴えることになりました。除斥期間は旧民法が定めていたもので、権利を行使せずに一定期間が過ぎると権利が消滅する制度です。時効とは異なり、停止や中断がないのが特徴となっています。

まとめ

三重県のリゾートマンションで、天井からコンクリートが剥落しています。管理組合側はコンクリートの爆裂による落下で、その原因は施工不良だとして将来的な補償を求めています。しかし施工した三井住友建設は剥落した部分の補修は行うものの、除斥期間の20年を過ぎていることを理由に将来的な補償は拒否しています。爆裂が発生する原因は多岐に渡り、報道内容からだけでは施工不良が原因かはわかりません。しかし管理組合も長きにわたってこの問題に悩まされており、調査をしたうえで施工不良が原因と判断したのでしょう。判断材料が少ないので私の方からどちらが正しいとは書けませんが、今後の裁判の推移を注視したいと思っています。

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