「令和2年の刑法犯に関する統計資料」に見るマンションの防犯対策

「刑法犯に関する統計資料」は、警察庁が毎年8月頃に発表しています。これは犯罪の種類、手口別に犯罪の状況や検挙数などをまとめたもので、以前は「○○年の犯罪情勢」というタイトルで発表されていました。今回は「令和2年の刑法犯に関する統計資料」を見ながら、マンションでの犯罪を考えてみたいと思います。

侵入窃盗の種類

住宅での犯罪といえば、最初に思いつくのは住宅に侵入する侵入窃盗です。この侵入窃盗は主に3つの種類があります。これから紹介する表は、これらの分類で書いていくので覚えておいてください。

空き巣・・・留守中に侵入して窃盗を働くこと
忍込み・・・就寝中に侵入して窃盗を働くこと
居空き・・・在宅時に侵入して窃盗を働くこと

令和2年の侵入窃盗発生件数

令和2年に発生した侵入窃盗事件は、44,093件です。このうち住宅で発生した件数は22,299件です。侵入窃盗事件の約半数が住宅で起こっていることがわかります。そしてこのうちの7割以上が検挙されています。ただし令和2年はコロナ禍によりリモートワークなどが増え、自宅に人がいる時間が増えています。そのため令和2年は侵入窃盗が減っていると考えることができますが、以下のグラフのように侵入窃盗は年々減ってきており、コロナ禍がなくても減少していたと予想できます。

侵入窃盗はかなりの確率で捕まることがわかります。そして以下はこの侵入窃盗の手口ごとの発生件数になります。

①空き巣の発生件数

空き巣は留守になっている家に侵入する窃盗です。このグラフでは共同住宅(マンション)を4階建て以上と3階建て以下に分けて記載しています。警察が発表する資料にある共同住宅は、分譲マンションも賃貸マンションも同じ括りになっています。またアパートなども含まれています。そして発生件数ですが、侵入窃盗が年々減っていることから分かるように、空き巣も減っています。

令和2年の発生件数は4階建て以上で1417件、3階建て以下で3151件です。平成23年はそれぞれ4765件、13102件ですから、10年で7割以上減ったことになります。

②忍び込みの発生件数

忍び込みは住民が寝ている間に侵入する窃盗です。家主が在宅中の窃盗なので、戸建てに比べて共同住宅での発生件数は少なくなっています。忍び込みも空き巣と同様に、この10年で大幅に減っています。

令和2年の発生件数は4階建て以上で236件、3階建て以下で481件です。平成23年がそれぞれ688件、1784件ですから、こちらも10年間でかなり減っていることがわかります。

③居空きの発生件数

居空きは家主が在宅中に侵入する窃盗です。忍び込みと違うのは忍び込みは家主が寝ている間に侵入するのに対し、居空きは家主が起きている最中に侵入します。そのため戸建てに比べて共同住宅での発生は少なくなっています。

令和2年の発生件数は4階建以上の共同住宅で101件、3階建以下で148件です。平成23年がそれぞれ295件、609件ですから減少しているのがわかります。

侵入窃盗の侵入場所と侵入方法

では窃盗犯は、どのような場所からどのような方法で入ってくるのでしょうか。それぞれの侵入場所と侵入方法を見てみましょう。

④空き巣の侵入手口

令和2年の空き巣の侵入場所と侵入方法は以下の通りです。

3階以下の共同住宅と戸建ては、窓からの侵入が最も多くなっています。3階以下の共同住宅では、「無締まり」すなわち鍵のかかっていない窓からの侵入が最も多く、次にガラスを割って侵入されケースが目立ちます。4階建以上の共同住宅では、表出入口からの侵入が最も多くなっています。表出入り口からの侵入は「施錠破り」となっていて、なんらかの方法で鍵を開けて侵入しています。この施錠破りの方法については、後で詳しく記載します。

⑤忍び込みの侵入手口

令和2年の忍び込みの侵入場所と侵入方法は以下の通りです。

こちらも共同住宅では鍵がかかっていない表出入口からの侵入が最も多くなっています。就寝する前に鍵を閉め忘れることは、大きなリスクになることがわかります。また低層マンションでは戸締りされていない窓からの侵入が多いのも特徴です。深夜に侵入する泥棒の手口といえば、そっと鍵を開けて入ってくるイメージがありますが、実態とは大きく違うことがわかりますね。

⑥居空きの侵入手口

令和2年の居空きの侵入場所と侵入方法は以下の通りです。

こちらも共同住宅では鍵がかかっていない表出入口からの侵入が最も多くなっています。家にいる時も、玄関の鍵をかけておくことが防犯につながることがわかります。表出入口の次に多いのが戸締りされていない窓からの侵入で、家にいる際にも換気の時以外は窓に鍵をかけておく方が安全だとわかります。

施錠開けの方法

4階建て以上の共同住宅での、施錠開けの手口は以下の通りです。かつてはピッキングが話題になりましたが、実際にはほとんどの場合は合鍵を使っています。難しい技術を使うのではなく、合鍵を使うというシンプルなことなのです。

3階建て以下の共同住宅での施錠開けの手口は以下の通りです。こちらも圧倒的に多いのが合鍵です。施錠開けは共同住宅の階数に関係なく、合鍵の使用が最も多いのがわかります。

合鍵とは何なのかというと、住民がパイプスペースなどに隠して置いてある鍵のことです。鍵を無くした時のため、子供が先に帰ってくる時のためなどにポストやパイプスペースに隠している人は多いと思います。それを使って泥棒は侵入しているのです。隠している人は絶対にバレないと思っていますが、泥棒からすると一般の人が思いつくような隠し場所はすぐに見つけてしまうのです。

マンションの防犯対策とは

これらのデータを見ていくと、マンションで最も重要な防犯対策は玄関だとわかります。低層階では窓も重要になりますが、階数を問わず玄関の戸締りが重要だと言えます。。そして玄関の鍵を閉めることが最も重要だとわかります。次に重要なのは、鍵をメーターボックスやポストなどに置かないことです。マンションの防犯対策を考える場合、これは最も重要な点になることがこれらのデータからわかります。

防犯カメラはどの程度の効果があるのか

マンションの防犯対策というと、真っ先に防犯カメラを思いつく人は多いと思います。それでは防犯カメラがどの程度の効果を上げているのか、データから見ていきましょう。以下のデータはマンションに限ったものではなく、あらゆる場所で起こった事件を全てが対象です。犯人特定のきっかけになったものが何かを示したのが以下の表です。

防犯カメラの割合は4割に満たない程度です。この割合をどのように見るかは個人によって違うとは思いますが、マンションに防犯カメラを設置すると、必ず犯人が突き止められると期待する住民が多くいます。しかし全国的に見ると防犯カメラが必ず犯人を突き止めるわけではないことがわかります。

防犯カメラを設置する際には、証拠能力ばかりを求めるのではなく抑止効果も十分に検討するべきでしょう。抑止効果が高い防犯カメラは犯罪を映しません。撮影されていると自覚しながら犯罪行為を働くことは滅多にないからです。

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マンションで防犯カメラが10年以上活躍することがなかったけど、古くなったから更新しようという話が持ち上がります。その際に、最新の高機能カメラに変えようという話になりがちですが、何も映すことがなかったということは抑止効果が発揮されていた可能性もあります。むしろ機能を下げることも検討に加えることも考えて良いと思いますし、機能だけでなく防犯カメラの形状などの存在感も検討するべきだと思います。

まとめ

マンションの防犯対策は、まず戸締りです。在宅中も施錠をするように心がけましょう。そして玄関の鍵をポストやメーターボックスに入れることを止め、家族一人一人が鍵をしっかり保管するようにしましょう。これだけで防犯効果は大幅に向上します。そして防犯カメラは犯人を撮影することばかりに固執せず、抑止効果の側面を見ることも重要です。そしてマンションの防犯対策を考える際には、住民同士の挨拶も重要です。これは「最強のマンションセキュリティを目指せ /防犯カメラを増やす前に考えること」に書いたので、こちらも御一読ください。

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