なぜ日本のマンションはユニットバスなのか
現在、マンションのお風呂といえばユニットバスが標準になっています。ユニットバスではなく在来工法で作られたお風呂をマンションで見ることは、まずありません。これは戸建てでも同様で、日本の家庭のお風呂と言えばユニットバスが定番になっています。今回は、なぜこれほどユニットバスが定着したのかを解説したいと思います。
ユニットバスとは何か
ユニットバスとは、浴室の床・壁・天井・浴槽などを工場で製造したものを指します。これらをバラバラにして運搬し、現地で組み立てることでお風呂が完成します。ユニットバスと言うと、トイレとお風呂が一体になっているものを指す人がいますが、トイレが一緒であろうがなかろうが工場で製造したお風呂をユニットバスと呼んでいます。
2点式・3点式のユニットバス
ユニットバスにもさまざまな種類がありますが、浴室内の設備によって2点ユニットや3点ユニットといった呼び名があります。
2点ユニット
お風呂と洗面が一緒になったユニットバスを2点ユニットと呼びます。新築のマンションで、2点ユニットを見ることはまずないでしょう。しかし古い分譲マンションでは、見かけることもあります。新築では賃貸マンションやアパートで見かけることがあります。ビジネスホテルでは、よく見かけますね。
3点ユニット
お風呂・洗面・トイレが一緒になったユニットバスを3点ユニットと呼びます。新築の分譲マンションで見かけることはなく、賃貸アパートやビジネスホテルで見かけます。3室を同じ空間に入れることで、狭い室内を効率よく使うことができるのが特徴ですが、それぞれのスペースが狭いため使い勝手が良いとは言えません。
東京オリンピックのユニットバス
ユニットバスの誕生は、1964年の東京オリンピックに遡ります。その2年前、政府とオリンピック委員会は東京に外国人来訪者が3万人を超えると予想して、ホテル建設を急ピッチで進める必要があると判断しました。財界に政府が打診すると、大谷重工業の社長が快諾して千代田区の私有地にホテルを建設することを決めます。場所は東京都千代田区紀尾井町で、その敷地は約2万坪でした。
しかしオリンピック開幕まで時間がありませんでした。計画では2万坪の敷地に1000を超える客室を備えたホテルを建設することになっていましたが、オリンピックに間に合わせるには17ヶ月で建設する必要がありました。従来の適性工期は36ヶ月程度ですから、半分以下の工期で完成させなくてはなりません。施工を担当する大成建設は頭を悩ませます。
大成建設はさまざまな方法で工期短縮を図りますが、その1つにお風呂の施工の短縮がありました。お風呂は床と壁に防水工事を行ってから浴槽を設置したりタイルを貼ったりするので、時間がかかる作業でした。そこで予め工場で浴室を作り、バラバラにして現場に持ち込んで組み立てるプレハブ式のお風呂の製作をTOTOに依頼しました。
TOTOはこの依頼に応えてプレハブ式のお風呂を完成させます。軽量化のために陶器をFRP(繊維強化プラスチック)に置き換えるという大胆な手法で軽量化を実現し、在来なら1年はかかる1000室へのお風呂の設置を2ヶ月で実現しました。これが今日のユニットバスの原型になります。こうして紀尾井町のホテルニューオータニは完成し、オリンピック観戦で来た外国からの訪問客の宿泊先となりました。
マンションへの進出
プレハブ式のお風呂を開発したTOTOは、ホテル用のお風呂としてリリースします。さらに当時、急ピッチで建設が進められていた集合住宅用のお風呂の開発にも着手しました。当時の集合住宅は住宅不足を解消するために、1つの敷地になるべく多くの住宅を作ることが重要でした。そのため1室の面積が狭くなっており、狭い面積を有効活用するにはTOTOのプレハブ式のお風呂は最適でした。こうして1966年、TOTOは集合住宅向けのお風呂UB-1をリリースします。これがユニットバスの第1号といって良いと思います。
ユニットバスは当時のマンションのニーズに合致し、マンションのお風呂はユニットバスが主流になっていきます。TOTOはユニットバスは全て内側から組み立てられるように作られていたため、作業性が高く多くの ゼネコン に歓迎されました。そして戸建て業界からもユニットバスの需要が出てきました。夏に工事が集中する北海道から、後期短縮のために戸建てにもユニットバスを使いたいという声が挙がったのです。1977年にTOTOは戸建て用のユニットバスをリリースしました。
その後、ユニットバスはさまざまなニーズに合わせてバリエーションが増えていき、今日のマンションや戸建てのお風呂の標準になっていきました。在来工法でお風呂を作るというのは、戸建ての中でも高級物件の一部だけになっています。新築住宅のほぼ全てにユニットバスが使われていると言っても良いでしょう。
蛇足:なぜ戸建てとマンションで色が違うのか
ユニットバスメーカーの方が「住宅メーカーは淡いカラーを求めるのに、マンション デベロッパー は濃い色を採用するのはなぜでしょう?」と言うので、あちこちの戸建てのモデルハウスを見に行ったことがあります。ほとんどが薄いピンクや黄色、水色が主流で、マンションのように濃紺や濃いグレイなどは使われていませんでした。
恐らくですが、戸建てのモデルハウスとマンションのモデルルームの環境に夜のだと思います。戸建てのお風呂は大抵の場合、窓がついています。モデルハウスは昼間に営業しているので、窓から差す自然光でお風呂を見ることになります。自然光の中では、淡い色がとても映えるのです。しかしマンションのお風呂はほとんどの場合、窓がありません。そのため照明の光でお風呂を見ることになります。お風呂の照明はリラックス効果もある、オレンジがかった電球色を使います。このオレンジの光に濃い色のお風呂は重厚感と高級感を与えるので、濃い色が好まれるのだと思います。
まとめ
ユニットバスは工場で製造されたお風呂を指します。中にトイレがあろうがなかろうが、工場で製造されて現場で組み立てられるのがユニットバスです。このユニットバスは東京オリンピックのホテル建設のために開発され、その後に集合住宅、戸建て住宅に広まりました。ユニットバスは戦後建築の歴史の1ページですし、メーカーの知恵が詰まった優れた建材なのです。今ではリフォーム工事も含めて、ユニットバスはマンションになくてはならない存在になっています。