コロナと円安で起こった修繕工事の職人不足 /外国人労働者がマンションに与える影響
少し前に大規模修繕業者がいなくなった、仕事を請けてくれなくなったという記事を書きました。この時の主な原因は2008年のリーマンショック前後にあちこちに建設されたタワーマンションが、大規模修繕工事の時期に来ているということを書きました。その後に建設業者と話をしている中で、大規模修繕業者に限らず建設業者の多くが人手不足により仕事があっても請けられない状況があることを知りました。今回のキーワードは、外国人労働者です。
関連記事
・なぜ建設業界は人手が不足しているのか /人手が減って急に必要になった事情
建設業界の高齢化
建設業界では急速な高齢化が進んでいます。団塊の世代と呼ばれる1947~49年のベビーブームに生まれた人達が、2025年には後期高齢者と呼ばれる75歳になるため深刻な人手不足が訪れると言われています。2025年問題とも呼ばれるこの問題は今後の建設業を大きく変えると言われており、深刻な人手不足が加速度的に進むと考えられます。現時点でも若手の不足は深刻で、建設業界で働く20代は全体の11%しかいないのに加えて60歳以上は26%に達しています。
これは職種にもより、塗装屋は現場で塗料の色合わせを行うのですが、歳をとると目が悪くなって色の違いがわからなくなるので、引退するのが早めです。その一方で造作大工などは高齢化が顕著で、50歳代の大工が若手と呼ばれる現場もあります。かつて建設業界は学歴がなくても、それこそ前科があっても本気で取り組めば稼げる職場として不良少年の更生装置としての役割も担っていました。しかし今では辛いばかりで稼げない業種になってしまい、若い人は建設業界を敬遠するようになっています。
関連記事
・不良息子の親孝行が消えた建設業界
こうなってくると、建設業界は外国人労働者に頼るしかなくなって行きます。私が現場監督をやっていた1990年代は、たまに外国人を現場内で見かけるという程度でした。しかし2015年頃になると外国人がいない現場の方が珍しいという状況になります。外国人労働者は貴重な労働力になっているのです。
外国人労働者の雇用状況
外国人労働者は年々増えていて、特に製造業は外国人労働者が多く働いています。建設業も例外ではなく令和2年10月末時点で製造業、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業に続いて11万人が働いています。今や多くの産業で、外国人労働者が不可欠になってきているようです。
不法就労助長罪の減少
多くの産業で外国人労働者が必要とされており、そのため不当に働く外国人労働者がいるのも事実です。資格外の就労や期間外の就労などの不法就労が増えていました。例えば今月で期間が終わる外国人労働者に対して、来月も仕事があるからと、こっそり働いてもらうケースがあったのです。こういうケースでは雇う側も罪に問われることになります。
しかし近年になり不法就労の取締りが厳しくなったそうで、不法就労が減っているそうです。雇用側も滞在期間を過ぎてから外国人労働者を使うことが減り、検挙数も減っています。他の業界はわかりませんが、建設業界は小規模事業者が多いので、罰金を食らうと1つの現場の利益が吹き飛ぶこともあり、厳格に法律を守る業者が増えたと聞いています。
コロナによる外国人労働者の減少
2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスの集団感染が確認された際に、後の影響を予想した人は少なかったはずです。西側諸国の中には「アジア人だけが感染する」と楽観していた政府もあったぐらいで、日本でもかつての鳥インフルエンザなどと同様に一定期間が過ぎれば収束すると考える人が多かったと思います。しかし2020年3月に東京オリンピックを延期する決定が下される頃には、世界は深刻な状況に陥っていました。そして日本からの渡航制限、日本への入国制限が始まりました。
東京ではアジア系だけでなく欧米からの来日外国人を多く見かけていましたが、入国制限が始まったことで外国人を見かけなくなりました。これは2011年に発生した東日本大震災の後の福島第一原発危機の時以上で、本当に外国人を見ることが減りました。ちなみに東日本大震災の時は東京が放射能汚染されると噂が広まったため、一斉に外国人が帰国しました。日本で活動している外国人モデルらが急に帰国したため、ファッション雑誌のモデルに日本人が増え、知り合いのハーフのモデルが「これからは俺の時代だ」と呑気なことを言っていたのを覚えています。そんな状況下でコンサートを続けて募金を呼びかけたシンディ・ローパーや、大勢のメディアを引き連れて居酒屋や寿司屋を巡って東京の現状を世界中に発信したレディ・ガガには、今でも感謝しきれません。
話を戻すと、コロナ禍が進み2021年には外国人の入国を事実上断念することになります。こうして外国人労働者が日本から減りました。日本に残った外国人労働者の多くは、母国の入国制限で帰れなかった人達です。新たな外国人労働者が入ってくることがなく人手不足になるかと思いましたが、経済活動が停滞していたこともあって大きな話題にはなりませんでした。
円安による外国人労働者の減少
ようやくコロナ禍が落ち着いたら、今度は円安が進行し始めました。日本では長い間デフレが続いているためデフレ対策を行なっていますが、アメリカを中心に急速なインフレが進んでおりインフレ対策を実施しています。このギャップが急速な円安を生んでいきました。そのため訪日観光客からするとコロナ禍前に来日した時と比べると日本全国で3割引の状態で、爆買いという言葉が再びニュースを賑わすようになっています。観光客が安く買い物ができるということは、日本で働くと給料が安くなるということになります。不法就労の取締りが厳しくなったこともあり、日本で期限が来て国に帰った労働者が日本に戻ってこなくなっています。
日本ではドルに対する円安ばかりが報じられていますが、円相場はベトナムをはじめ東南アジアの複数の国の通貨に対しても下落しています。そのため東南アジアの国々の労働者にとって、日本に行くと以前より給料が2割から3割安くなっており、日本では稼げなくなっているのです。こうなると日本に行く意味がなくなってしまい、彼らは働き口を他に求めることになりました。
では日本に来なくなった労働者はどこに向かったのかと建設業者に尋ねると、東南アジアの労働者の間ではオーストラリアが人気なのだそうです。調べてみるとオーストラリアの男女合計の平均年収は784万円と日本よりはるかに高く、最低賃金を比較しても東京の1,072円/hに対して、オーストラリアは約2,010円/hと2倍近い差があります。これに為替格差が加わるので、日本で働くよりオーストラリアで働く方が、身入りが断然良いのだそうです。こうして外国人労働者は日本にやって来ることがなくなり、国内では労働力が不足することになってしまいました。
まとめ
コロナ禍による渡航制限により外国人労働者が来日できなくなり、それが終わると円安によって外国人労働者が来なくなってしまいました。少子高齢化が進む日本では、すでに外国人労働者に頼らないと厳しい産業があり、建設業もその1つです。働き手が減った建設業界は、今後は工事価格の上昇が起こることが予想されますし、マンションの日常的な修繕工事なども費用が上がる可能性があります。ますます修繕積立金や管理費が重要になってきますし、気がつくとお金がなくて修繕したくてもできないマンションが出て来るでしょう。今後も外国人労働者と工事費用の動向は追いかけていきたいと思います。