マイアミのマンション倒壊 /何が起こったのか 原因は?

2021年6月24日午前1時頃、12階建てのマンションの一部が崩壊しました。同日午後の時点で102人の安否と、1人の死亡が確認されています。鉄筋コンクリートのマンションが突然崩壊するショッキングなニュースは、数日前に中国でも起こりました。しかし今回はアメリカのフロリダ州マイアミで起こったことで、大きな衝撃を与えました。事故発生直後ということで情報も少ないですが、わかっていることをまとめてみたいと思います。

倒壊した物件の概要

  • 物件名:Champlain Towers(シャンプランタワーズ)
  • 竣工:1981年
  • 構造・規模:鉄筋コンクリート12階建て
  • 総戸数:136戸

住所は以下の地図の通りです。観光名所としても有名な、マイアミビーチにあることがわかります。

※グーグル ストリートヴューより

物件は分譲マンションのようです。不動産サイトを見ると、150㎡前後の部屋が65万ドル(1ドル110円換算で7200万円)ぐらいで売られています。マイアミの物件としては高級とは言えないまでも、決して安価な物件ではありません。ヒスパニック系住民が多い地域との報道もあり、低所得者向けの集合住宅ではないかという憶測もありましたが、不動産業者のサイトを見る限りそうではないようです。以下の写真はこのマンションの内装です。

(2021年6月26日追記)
アメリカのCNNによると、販売価格は29万5000ドルから98万ドルで最上階のペントハウスは4ベッドルームで290万ドル(1ドル110円換算で3億2000万円)で販売されたそうです。さらに建物にはクラブルーム、テニスコート、フィットネスセンター、サウナ、プライベートビーチ、温水プール、地下駐車場、24時間セキュリティなどが備わっているそうです。

bestofluxuryrealty.comより転載
bestofluxuryrealty.comより転載

このエリアは何度も映画やドラマの舞台になっているので、日本でも見覚えのある景色と感じた方は多いでしょう。2002年から2012年まで放送されたドラマ「CSI:マイアミ」はマイアミデイド署警察を舞台にしたドラマで、事故現場の周辺が何度も映っています。

またウィル・スミスをスターにした映画「バッドボーイズ」も、マイアミが舞台でマイアミビーチが何度か映っています。この他にもドラマ「マイアミ・バイス」、映画「スカーフェイス」など、マイアミは数々の映画やドラマの舞台になっています。

(2021年6月26日追記)
サーフサイドの人口は5700人で、米国国勢調査局によると居住者の約54%が非ヒスパニック系白人で、45%がラテン系またはヒスパニック系だそうです。また約2,500人の正統派ユダヤ人居住者が住んでおり、イスラエル政府も安否を心配する声明を発表しています。

事故の概要

24日の午前1時頃に、突如としてマンションの一部が倒壊しました。監視カメラが倒壊の瞬間を記録しています。以下の映像はトルコの国営放送が報じた監視カメラの映像です。

事故現場の近くにいた人の証言には「大きな音がしてオートバイか何かだと思って振り返ったら、大きな埃の雲がやってきた」「大きな爆発音がして地震が起こったと思った」「その様子は、まるで911テロを見ているようだった」というものがあります。

事故の原因

現在は調査中で、事故原因は不明です。事故当時、屋根の修理中だったという情報もありますが、それが事故と関係しているのかは不明です。現地の消防当局も、原因は調査中というのが公式見解です。

(2021年6月26日追記)
屋根の工事は1992年に襲ったハリケーン「アンドリュー」の被害を教訓に建築基準法が改正され、その基準に基づいた工事だったそうです。検査により修繕が必要と判断され、屋根の交換工事が行われていたそうです。この工事は公的に認められたものであり、工事そのものに問題はなかったという意見が出ていました。

倒壊の様子を見ると、突然倒壊が始まり短時間に完全に潰れている様子が見て取れます。その様子はビル爆破現場を彷彿させるもので、コンクリートの柱や梁に粘りが全く見られません。現段階で何も断定できることはないのですが、この倒れ方からしてなんらかの施工不良や設計不良の可能性は検証されるべきだと思います。

マイアミは比較的地震が少ないエリアです。2020年の1月にジャマイカ沖でマグニチュード7.7の地震があった際に、マイアミも揺れて金融街の人達が避難したというニュースがありました。もし施工不良が原因なら、この時になんらかの異常があったのかもしれませんが、そういったニュースは見つかりませんでした。

(2021年6月26日追記)
CNNによると、昨年の調査で1993年から1999年の間に建物が年間約2ミリメートルの割合で沈んでいることがわかっていたそうです。沈没はこのマンションだけではなく、埋め立てられた湿地に建てられた近くのマイアミビーチ西部の特有のものだったようです。このことを語ったフロリダ国際大学環境研究所のシモン・ウドウィンスキー教授は「それが何か異常であるとは思わなかった」としつつも、教授は建物の一部が動くと、建物にストレスが加わり亀裂が生じる可能性があるため、これが要因となる可能性があると語ったそうです。

私はこの意見に、やや懐疑的です。確かに地盤沈下が起こり建物の一部が下がると、コンクリートに亀裂が入ります。しかし年間2mmの沈下ということは10年間でも2cmです。この程度の地盤沈下であれば、日本にも相当数の地域で起こっています。環境省が出している「令和元年度 全国の地盤沈下地域の概要」には、マイアミ同様かそれ以上の地域があることが確認できます。また首都圏ではさいたま市の地盤沈下がよく話題になりますが、こちらではマイアミ以上の数値がいくつも確認できます。日本であれアメリカであれ地盤沈下が起こる地域はあちこちにあり、それだけが原因で建物が倒壊するというのは考えにくいのです。

地盤沈下より私が気になるのは、救助の映像や写真をみているとあちこちから長い鉄筋が飛び出していることです。鉄筋は引っ張りに強いのですが、建物が倒壊するほどのエネルギーに耐えられるほど強くはありません。大抵の場合は引きちぎられます。しかし事故現場を見ると、長い鉄筋があちこちに見えています。

これら長い鉄筋があるということは、倒壊する際にコンクリートから鉄筋が引き抜かれたことを意味します。古い建物が地震で倒壊する際に、このような現象が多くみられました。以前の鉄筋は丸鋼と呼ばれる表面がツルツルの鉄筋だったため、強い力が加わるとスポッとコンクリートから抜けていたのです。そこで現在では異形棒鋼と呼ばれる表面が凸凹した鉄筋が使われ、簡単に引き抜けなくなっています。そのため鉄筋は引き抜けるのではなく、引きちぎられることが多くなったのです。

※異形棒鋼

このマンションでも異形棒鋼が使われていたようで、現地の映像からそれが見て取れます。しかしこれほど多くの鉄筋が引きちぎれるのではなく引き抜かれていることを考えると、コンクリートと鉄筋の付着に問題があったのではないかという気がします。単に付着の問題か、それともコンクリート強度の問題なのかはわかりませんが、レスキュー現場が映るたびに長い鉄筋がはみ出している姿には疑問を抱いてしまいます。

コンサルタントの指摘(2021年6月28日追記)

ニュースサイトGlobal Newsによると、このマンションは以前から重大な構造上の問題が指摘されていたようです。構造エンジニアリング会社のMorabito Consultantsは、大規模な修理の必要性を指摘していたそうです。ただしMorabito Consultantsも差し迫った危険があるとは指摘していなかったそうですし、今回の崩壊の原因になったかどうかは現時点では不明だそうです。

問題はマンション1階のプールの下にあるスラブ(コンクリートの床)だったそうで、それ以外にも駐車場のコンクリート(柱・梁・壁を含む)に大量のひび割れや剥離があったと指摘されています。プール下のスラブに関しては、この記事から何が問題だったのかはよく分かりません。おそらく記事を書いた人が建築の構造の詳しいわけではないため、要点が見えてこないのです。

防水の失敗はコンクリートスラブに大きな構造的損傷を引き起こしており、近い将来、防水の交換を怠ると、コンクリートの劣化の程度が指数関数的に拡大するだろうと報告書に書かれていたそうですが、スラブにどういった問題があったのかは分かりません。

同じくEYEWITNESS NEWSによると、この報告書を受けて2018年に修理の見積もりを行ったところ、建物全体で910万ドル(約10億円)の費用が必要だったことが報じられています。この報道によると駐車場の柱の一部はひび割れにより鉄筋が露出した状態で、エポキシ接着剤を注入して補修工事を行っていましたが、技量が不足していたため失敗に終わったそうです。また駐車場のスラブについても「スラブにエポキシが注入されたプールデッキの下では、最初に修復された亀裂から新しい亀裂が放射状に広がっていた」と報告書に記されていたようで、建物の損傷に加えて補修工事の失敗が建物にダメージを与えていたようです。

これらが倒壊の原因になったのかは現時点では全く分かっていないことに注意が必要ですが、過去にこれだけの指摘を受けていたことは重要な事実だと思います。

テロの可能性を指摘する人も

監視カメラの映像は911テロを彷彿させるもので、アメリカのツイッター見るとテロの可能性を示唆する意見がちらほらありました。自然に壊れたというより人為的に見えるというわけです。

※911テロ

確かに倒壊する過程で、鉄筋コンクリートの柱や梁の粘りが全くなく、一気に強度を失っているようです。これはビル爆破の際に、耐力的に主要な部分を一気に爆破した様子に似ています。ビル爆破では柱や梁のあちこちを削り、テルミットという爆薬を使って柱や梁を寸断することで、建物全体の耐力を一気に奪うのです。

しかしテルミットは建物のあちこちに取り付けなくてはならず、そのためには内装を剥がしてコンクリートを削らなくてはなりません。人が住んでいるマンションでそんな工事を誰にも気づかれずに行うことは困難でしょう。それにテロならマイアミの金融街など、もっとインパクトがある場所を狙うはずです。私はテロの可能性は低いと思っています。

まとめ

観光地としても知られるマイアミビーチのマンションの一部が、突然倒壊しました。1人の死者が確認されていますが、瓦礫の撤去中なので死者数や行方不明者数も明確になっていません。今後の調査で原因がわかってくるでしょう。綿密な調査を行えば、これほどの倒壊が起こった原因が明確になるはずです。もうしばらく、続報を待ちたいと思います。

(2021年6月26日追記)
6月26日時点で死者は4名、行方不明者159名になっています。行方不明者の中には、パラグアイのファーストレディの妹であるソフィア・ロペス・モレイラ・ボー、彼女の妹の夫であるルイス・ペッテンギル、そして彼らの3人の子供と乳母が含まれているそうです。

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