マンションの販売員が間違えて鍵を開けてしまいました
メールで相談を受けました。関西在住の方からで、新築マンションに入居した方からです。「マンションの販売員が間違えて鍵を開けてしまいました」という内容でした。新築から2年以上売れ残っているマンションがあり、大規模な値引きがあったので購入したそうです。入居した後も、まだ1部屋売れ残りがあり、販売の営業マンがマンション内を出入りすることがあると説明がありました。ある日の午後、子供を寝かしつけようとしたら、ガチャっと鍵が開く音がして、営業マンが入ってきたそうです。中の様子を見て空き室がないごとに気がついた営業マンは、慌てて失礼しましたと出ていったそうです。これはとんでもない事態です。
販売会社の説明
相談者には乳幼児のお子さんがいて、ゴミ出しの際などは子供を部屋に置いて出ていくこともあるそうです。他人が勝手に入られる状況に不安を持ち、販売会社に相談しました。販売会社によると未入居の住戸のメモに記載ミスがあり、間違えて入ってしまったとのことで、2度とこういう事態にならないようにするとのことでした。しかし不安があった相談者は、鍵を代えてもらえないかと相談したそうですが、別途料金がかかると言われたそうです。
ご主人に相談したところ、不安なら自費で交換するしかないと言われました。しかしどうも腑に落ちない相談者は、友人から私のことを聞いてメールで連絡してきました。
マンションの鍵のシステム
新築マンション工事では、専有部にコンストラクションキー(通称コンスキー)と呼ばれる鍵を使っています。これがどういうものか、ここ10年以上はダブルコンスキーが主流なので、ダブルコンスキーの仕組みを説明します。ダブルコンスキーでは、マンション専有部の鍵が3種類あります。
1.工事用キー(1次コンストラクション)
2.管理用キー(2次コンストラクション)
3.入居者用キー(本鍵)
工事用キーは、施工会社が使用する鍵です。工事の間は工事用キーだけが使われます。マンションが竣工して売主(不動産会社)に引き渡されると、売主は管理用キーを使って、専有部の鍵の開け閉めを行います。1度管理用キーをシリンダーに刺して回すと、中のピンが飛んで工事用キーでは開け閉めができなくなってしまいます。そのため工事用キーを全て改修する必要もなく、工事用キーでは2度と出入りができなくなってしまうのです。
マンションの売買契約が終わると、マンション購入者は入居者用キーをもらいます。入居者用キーをシリンダーに刺して回すと、今度は管理用キーが使えなくなってしまいます。当然ながら工事用キーも使えません。つまり入居者がもらった鍵で玄関の開け閉めを行った後は、工事用キーも管理用キーも使えなくなっていて、他の誰かが入ってくるなんてことはありえないのです。
3つの可能性
ありえないと言っても、実際に販売会社の人が入ってきたのですから、何かしら入れるようになっているはずです。可能性としては次の3つのことが考えられます。
①入居者が受領したのが管理用キー
販売会社がなんらかの理由で保管していた入居者用キーを紛失し、管理用キーを入居者に渡している可能性です。入居者用キーは厳重に保管されているのが通常ですが、2年も売れ残っていた物件なので、その間に何かがあったのかもしれません。十数年前に、事務所が引っ越した際に鍵を紛失して、引渡し時に管理用キーを購入者に渡して大問題になった デベロッパー がありました。
②販売会社が入居者用キーを使っている
管理用キーを紛失する、管理用キーの本数が足りないなどの理由で販売会社が入居者用キーを使っている可能性もあります。つまり相談者の自宅の合鍵を販売会社が持っている可能性です。これも過去には実際に起こって大問題になったことがあります。
③専有部のマスターキーが存在する
一般的に専有部のマスターキーは作りません。あらゆる部屋が鍵1本で開いてしまうマスターキーは管理に重大な責任が発生しますし、万が一紛失したら全住戸の鍵を交換しなくてはならないので、リスクもコストも高すぎるからです。しかし物件の事情によっては、マスターキーを作る場合もあるようです。仮にマスターキーが存在したとして、マスターキーはマンション管理組合の重要な財産です。販売会社や管理会社が持っていて良いものではなく、マンション管理組合で厳重に保管すべきものなのです。
コンスキーの仕組みを知らない会社が多い
販売会社や管理会社がコンスキーの仕組みを知らないために、過去には何度も似たようなトラブルが起こっています。例えば販売会社内で、誰かが管理用キーを持ったまま帰宅してしまい、その日のうちに案内したいお客さんがいるのに鍵が開けられないという事態が考えられます。鍵を持ち帰った社員と連絡がつかず、案内するお客さんとの約束の時間が迫っているので、社内に保管してある入居者用キーを使って案内してしまうのです。そうすると2度と管理用キーでは開かなくなり、以降はずっと入居者用キーを使い続けることになってしまいます。
メーカーに聞いたところによると、コンスキーの仕組みを知らずに鍵が開かなくなったという連絡が来るのは珍しくないそうで、安易に管理用キーや入居者用キーを使ってしまう人は思った以上にいるようです。
事件解決
相談者にコンスキーの仕組みを説明し、上記の3つの可能性を説明して販売会社に問い合わせることをお勧めしました。すると一転して、部屋の鍵を交換すると申し出たそうです。マスターキーの存在は否定したものの、①②のどちらが原因かも説明はなかったそうですが、無償で玄関のシリンダーごと交換してくれたそうです。私はこのような事態になっているのが相談者の部屋だけとは限らないので、マンション理事会にこのことを伝えて全住戸の鍵を交換するように要求することを勧めたのですが、その後どのようになったのかは知りません。
まとめ
新築マンションではコンストラクションキーと呼ばれる鍵が使用されているので、入居後に販売会社の人や管理会社の人が間違って自分の部屋の鍵を開けてしまうことはありえません。起こってしまったら、上記の3つの可能性が考えられるので、きつく問い詰めてください。鍵は入居者の重要な財産です。他の人に空けられるなんてことが、あってはならないのです。