地下ピットを見ればマンションの欠陥がわかる? /地面の下の重要部分

2016年、築地市場が豊洲市場に移転する際に、豊洲市場に地下空間があることが問題視されました。なぜこんな空間を勝手に作ったのかとテレビ等で騒がれていましたが、あれは地下ピットと呼ばれる空間で、現代の建築物では造るのが当たり前のものでした。今回はマンションにも当たり前のように存在する、地下ピットについて書いてみたいと思います。地下ピットは存在を忘れられがちですが、ここを点検することでマンション全体の施工制度がわかることもあります。

地下ピットとは

建物の下に配管を通すために造られたスペースで、トレンチピットとも呼ばれます。かつては地下ピットがない建物の多くありましたが、現在ではよほどコストダウンした建物でもない限りは、ほとんどのマンションに存在しています。築40年にもなるマンションに行くと、地下ピットは廊下の下の部分にしかないことがよくあります。この場合、給排水管を地面に埋めることになるので、地震で管が折れると修理が大変です。また湿気が上がってきて1階の住戸にカビが生えることがあります。そのため防湿シートなどを土の上にかぶせるのですが、効果がないケースも散見されます。

※土の中の配管が破断すると修理が大変です。

そこで地下ピットを造るようになり、給排水管のメンテナンスをしやすくするようになりました。地下ピットの床は土の上に砂利を敷き詰めたもので、その上に防湿シートを敷いているケースが多くみられます。確かにメンテナンスはしやすいのですが、はやり湿気の問題が多く発生します。また地下ピット内が結露だらけというのも珍しくなく、中には床に水たまりができているケースも多く見られました。

※床が土の上に砂利敷きになっています。

そこで床をコンクリートにするようになりました。床をコンクリートにすることで、湿気や水が上がってくるのを防げるからです。その場合、床を耐圧盤と呼ばれる構造体で行う場合と、土間コンクリートと呼ばれる簡易的なコンクリート床で行うケースがありました。しかし「水みち」と呼ばれる地下に流れる水の流れが変化し、土間コンクリートの上に水たまりができることもあります。そこで近年のマンションの多くは、床が強固な耐圧盤になっています。

東日本大震災直後のマンション

東日本大震災から数ヶ月後のアフターサービスセンターに、あるマンションの地下に水が溜まったという連絡が入りました。以前からエレベーターピットの浸水が施工不良だったのではないかと問題視されていた物件だったので、私が見に行くことになりました。古いマンションで、地下ピットの床は耐圧盤ではなく砂利を敷き詰めただけでしたが、地下ピットに入るマンホールからピット内を見ると、そこには異様な光景が広がっていました。

図面上では地下ピットの高さが1mほどあるはずですが、わずか数十センチになっていたのです。地震によって地面の土が押されて、液状化も手伝って大幅に土が盛り上がってしまっていました。幸い排水管を破壊してはいませんでしたが、メンテナンスができない状態です。狭いピットにベルトコンベアを入れて土を運び出す作業が必要で、元の地盤の高さに戻すには1000万円を軽く超える工事になるのは確実でした。そこで理事会と打ち合わせを行い、部分的に土を搬出することで、なんとか配管のメンテナンスだけはできるようにしました。

地下ピット点検の必要性

自分が住んでいるマンションの地下ピットを見たことがあるという方は、ほとんどいないと思います。しかし一度は点検をしておいた方が良い場所で、地下ピットを見る事でさまざまな事がわかることがあります。

①資材置き場になっていないか

マンションにはさまざまな備品があります。そのマンションに使われているクロスやタイル、塗料などが補修用にストックされているのですが、それらが地下ピットに置かれていることがあります。酷いときは半ば残材の捨て場のような状態で、ろくに整理もされず無造作に置かれています。湿度が高い地下ピットに置いておけば、カビで使えなくなるものもあります。地下ピットは資材の保管場所ではなく、配管をメンテナンスするためのスペースです。必要な材料は倉庫などにきちんと保管し、不要なものは施工した ゼネコン に引き取ってもらいましょう。

②型枠などがそのままになっていないか

型枠はコンクリートを流して梁や柱を造るための厚手のベニヤで造られた枠材です。打設後に型枠を解体して除去するのですが、たまに地下ピット内に型枠がそのまま放置されていることがあります。型枠がついているからといって、コンクリートに悪影響があるわけではありません。しかし配管のメンテナンスなどに邪魔になることがあります。これらは施工したゼネコンに連絡して、引き取ってもらうべきものです。

※黄色い板が型枠

③マンション全体の施工精度がわかることも

地下ピットは最初の方に工事する部分です。しかし地下ピットに入ってみると、コンクリート工事がとんでもなく雑に行われていることがあります。最初に工事する地下ピットのコンクリートが雑ということは、最初から工期が足りなくなっていたことが考えられます。地下ピットの時点で工期が足りなければ、最上階の工事ではもっと工期が足りなくなっていて、マンション全体の工事が雑になっていることが想像できるのです。

よく地下ピットで見つかるのが、コア抜きで鉄筋を切断してしまっているケースです。梁のスリーブ位置を間違えてしまったため後からコア抜きを行うのですが、このコア抜きが原因で鹿島建設が施工した「ザ・パークハウス グラン 南青山高樹町」というマンションが建て替えになったことで話題になりました。

※鉄筋を切断している場合があります。

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地中梁でコア抜きを行っているのは単なる施工ミスの可能性もありますが、全体の工期が不足していたり建設中に設計変更が行われた可能性も考えられます。これらのことはマンション全体の施工精度に問題がある可能性を示唆しています。

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つまり地下ピットでコア抜きが行われ、鉄筋まで切断しているとなると、それ以降も同じようなミスをしている可能性があるのです。こうした点でも、地下ピットの検査は行なっておくべきだと思います。

豊洲市場の地下空間問題

2016年に築地市場から豊洲市場への移転前に、豊洲市場に謎の地下空間が見つかったと報じられました。これは2016年9月11日の都議会で報告されたもので、そこから都議会とメディアを巻き込んで大きな騒動になっていきました。このブログをここまで読んだ方ならもう十分なくらいご理解されていると思うのですが、近年の建築物では地下ピットを造るのは当たり前です。ですから建築に関して多少の知識がある人なら、映像や写真を見て問題の巨大地下空間が地下ピットであることはすぐにわかりましたし、映像や写真を見ていない人でも「あれって地下ピットのことだよね」とピンときていました。ですから私の周囲では何が問題なんだと首を傾げる人ばかりで、騒動が大きくなればなるほど理解に苦しみました。

実はこの頃、とある団体の忘年会で都議会議員に会う機会があり「あれは地下ピットと呼ばれる一般的なもの」「地下ピットは特別に作られたものではなく、特別な設計をしなければ当たり前に作られるもの」という話をして驚かれました。これを問題として提起してきた議員は、なぜ事前に建築に詳しい人に一言尋ねなかったのか、そしてメディアは報道する際になぜ確認しなかったのかと不思議に感じたものです。ましてや2010年頃の設計には盛り込まれていると報じられていたので、設計通りに普通に地下ピットを作ったことに何を騒いでいるのかよくわからないでニュースを見ていました。豊洲市場のように給排水管や電気配管が多い建物で、地下ピットを作らずに地中埋設にしてしまえばメンテナンスに膨大な費用がかかると思われます。

地下ピットには入らないで下さい。

地下ピット内は酸素が減っている可能性があります。うかつに入ると意識を失う可能性があります。また狭くて暗く段差が多いため、中で転倒する可能性もあります。地下ピット内で転倒し骨折などすれば、大きな事故に繋がる可能性があります。地下ピットの調査は管理会社や専門家に任せて、絶対に入らないようにしてください。

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