大規模修繕業者がいないという声があちこちから聞こえてきます
ここ数ヶ月ですが、大規模修繕をしようとしたら大規模修繕業者が見つからないという声をマンション管理士などから聞くようになりました。そうした声に反して、大規模修繕業者がいないなんてことはないという声も、同じくマンション管理士などからありました。果たしてどちらが本当なのか、大規模修繕工事の業界で何が起こっているのかを調べてみると、いろいろとわかったことがあるので書いてみたいと思います。一部では、確かに大規模修繕業者が不足しているようです。
2006年のミニバブル
1980年代に始まったバブル景気の崩壊により、91年頃から地価は下落していました。下落は続き不動産価格も同じく下がり続け、東京では93年頃に底値になりました。そこからわずかながら上昇が始まるのですが、バブル景気の際に不動産を高掴みした人からすると悪夢のような安価な状態が続きます。東京都の公示地価を見ていくと、バブル景気ピークの頃とその後の価格差に驚いてしまいます。
この状況に変化が訪れるのは2006年頃でした。アメリカの好景気の影響を受けて日本でも地価の上昇が始まりました。外国人投資家が割安な日本の不動産に目をつけて投資目的で購入するケースも増え、日本の不動産市況が久しぶりに活発になったのです。そのため地価は上昇を続け、特にマンションが売れ続けました。当時、私がいたデベロッパーの役員は「営業を始めて何十年にもなるけど、始めて部下に『もう売るな』と指示した。このままだと来年の販売分がなくなる」と、ほくそ笑んでいたほどでした。
この好機をマンションデベロッパー各社が見逃すはずもなく、それまで控えていた分譲を大々的に展開します。そしてこの時期にタワーマンションの竣工が相次いだり建設が始まっています。日本各地にタワーマンションが建設されますが、特に注目されたのが神奈川県川崎市の武蔵小杉です。タワーマンションの建設が相次ぎ、武蔵小杉のタワーマンションに住む人達は「ムサコ族」と呼ばれ、そのライフスタイルが注目されるようになりました。以下にこの時期の武蔵小杉のタワーマンションを挙げていきます。
・レジデンス・ザ・武蔵小杉 2007年7月竣工
2005年着工、総戸数389戸の24階建
・リエトコート武蔵小杉ザ・クラッシィタワー 2008年2月竣工
2005年着工、総戸数542戸の45階建
・リエトコート武蔵小杉ザ・イーストタワー 2008年2月竣工
2005年着工、総戸数542戸の45階建
・THE KOSUGI TOWER 2008年6月竣工
2005年着工、総戸数669戸の49階
・パークシティ武蔵小杉 ステーションフォレストタワー 2008年8月竣工
2005年着工、総戸数643戸の47階建
このように次々とタワーマンションが建設され、いわゆるタワマンブームに火をつけることになります。武蔵小杉以外でもタワーマンションの建設は多く行われており、久しぶりの好景気の中でマンションデベロッパーは思い切ったマンション建設をどんどん行ったのです。
大規模修繕工事の周期
私はあまりお勧めしていませんが、今でも多くのマンションでは大規模修繕は12年周期を目処に行われています。2007年に竣工したマンションの12年目は2019年で、2010年に竣工したマンションの12年目は2022年になります。タワーマンションの大規模修繕は手間がかかり長期に及ぶのが特徴です。一般的なマンションでも準備には2年ぐらいかかることが珍しくありませんが、タワーマンションだと4年や5年も準備にかかることがあります。修繕費用も高額になるため、修繕委員会の設置や業者選定に時間がかかるからです。そのためリーマンショックの前後に竣工したタワーマンションの多くが、現在は大規模修繕工事の最中か計画中になっています。
そのため特に関東のマンション大規模修繕工事業者は、このタワーマンションの大規模修繕工事の受注に注力しています。大手の業者にとっては受注高の高いタワーマンションの受注は必須になっていますし、受注高が高ければ利益率が変わらなくても利益も大きくなります。タワーマンションの大規模修繕ができる業者はそれなりの規模の業者になりますが、それらの業者はすでにタワーマンションの大規模修繕工事を行なっていたり、受注を目指して奮闘している最中なのです。
大手の大規模修繕業者がタワーマンションに注力する中、これまで大手が担当していた数百棟クラスのマンションを中規模業者が工事するようになり、職人も不足するようになりました。こうして大規模修繕業者や職人が不足するようになったようです。
コロナ禍の後
全てのマンションに言えることではありませんが、2020年から21年にかけてのコロナ禍で大規模修繕工事を控えたり先送りするケースがありました。リモートワークになって自宅で巣篭もりしている中、外部の人(工事業者)が大量にやって来る大規模修繕工事を躊躇う管理組合もあったのです。先送りにしていた工事が2022年から始まったことで、一時的に職人が不足する事態が生まれているようです。
このコロナ禍の影響は業者によって感じ方が違うようで、2020年から21年に掛けて普通に工事をしていたという業者もいますし、その頃は仕事が止まってしまい今年になってから大忙しで職人が足りないという業者もいます。業者によって状況がかなり違うのですが、一部にはコロナ禍の影響を受けて人手不足が起こっているのも間違いないようです。
プロポーザル方式の難しさ
大規模修繕業者がいないと困っているマンションの多くは、プロポーザル方式で大規模修繕を行おうとしているようです。プロポーザル方式は、複数の修繕業者にそれぞれが考える修繕プランを提案してもらい、それに伴う見積書を提出してもらうことです。
プロポーザル方式は複数の業者が現地を調査し、そのマンションにふさわしい工事を提案するので手間がかかるうえに落札できるかは不明です。そのためこの忙しい時期に受注できるかわからないプロポーザル方式の見積書を出すのに躊躇しているようです。そのためプロポーザル方式で大規模修繕工事を行おうとしているマンションでは、業者が集まらない問題に直面しているという話をよく聞きます。
まとめ
ここ最近、一部で大規模修繕業者がいないという声を聞きます。リーマンショックが起こった2008年頃に起こった不動産のミニバブルによって大量に建設されたタワーマンションが大規模修繕の時期に来ており、大規模修繕業者や職人がそちらに注力しているからです。さらに一部ではコロナ禍で大規模修繕工事を控えていたマンションが2022年頃から動き出したため、一気に忙しくなった面があります。こういったことから一部では大規模修繕業者が不足しているようです。これから大規模修繕工事を検討するマンション管理組合では、これらのことを念頭に置いて検討を始めるのが良いかもしれません。