10年過ぎて瑕疵が見つかった時の3つの対処法
マンションで雨漏りが起こったり、大きなひび割れが入ってマンションが壊れそうになったら、 瑕疵 担保責任があるので売主の責任で保証されます。この瑕疵担保責任は10年と決められているのですが、10年を過ぎたらどうなるのでしょう。今回は10年を過ぎたマンションで瑕疵が見つかった場合にどうすれば良いかを解説します。
10年過ぎて発覚したトラブル
トラブルの代表的なものに外壁タイルの浮きや剥落があります。竣工から12年目の大規模修繕工事で足場を設置して調査を行ったところ、タイル全体の30%に浮きが見つかり補修をしなくてはいけなくなったマンションにお邪魔したことがあります。タイルが浮いた面積が広いので補修費用が高額になり、管理組合の修繕積立金では払いきれない金額になっていました。
売主が負う瑕疵担保責任は10年なので、築12年目のマンションには適応されません。売主である デベロッパー に相談したところで、10年を過ぎているから対応できないと言われてしまいました。管理組合にはお金がありません。しかしタイルの補修工事をしなければ、そのうちタイルが剥落してしまいます。落ちたタイルが下を歩いている人に直撃すれば、最悪の場合は死亡事故に繋がります。この場合、どうしたらよいのでしょうか。泣き寝入りをするしかないのでしょうか?
ここから先は法律の話が続きますので、その手の話が苦手だという方や、とりあえずどうすれば良いかを知りたい方は、すっ飛ばして「10年過ぎて発覚したトラブルの対処方法」から読んでください。
瑕疵担保責任とはなにか
マンションにおける瑕疵担保責任は、民法と宅建業法から成っています。この2つの法律では、隠れた瑕疵が対象になっていて、隠れた瑕疵があれば契約の解除や損害賠償を請求できることになっています。責任を問える期間は、民法では「瑕疵を知った時から1年」宅建業法では「引き渡しから2年」となっていてます。ちなみに隠れた瑕疵とは、買主が一般的な注意を払っていても気がつかない瑕疵のことです。そのため雨漏りが起こることを知っていながら買った中古マンションで、雨漏りが起こったとしても瑕疵担保責任は発生しません。
さらに平成12年4月1日に品確法(住宅の品質確保の促進に関する法律)が施行されると、「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」に関しては、瑕疵担保責任の期間を10年と定めました。「マンションの瑕疵担保責任期間は10年」と言われていますが、その根拠は品確法で、構造的に重要な部分と雨漏りに関してのみ10年と法律で定められたのです。ちなみに契約書でこれらの保証を5年などに短くしても無効になります。
瑕疵担保責任は、引き渡しを受けたマンションが品質に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負うことになる責任を法律で定めたものです。そして瑕疵担保責任では「契約の解除」と「損害賠償請求」が可能となっていて、壊れた部分を無償で修理することを定めたわけではないという点にも注意が必要です。
民法が改正されて「瑕疵担保責任」がなくなった
2020年4月1日に、民法が改正されて新民法が施行されました。この新民法により「瑕疵担保責任」という考え方がなくなりました。その代わりに登場したのが「契約不適合責任」という言葉です。民法の改正で最も大きな点は、これまで瑕疵担保責任を問うことができた「隠れた瑕疵」という考え方がなくなったことです。隠れてなくても売主の責任を問うことができるようになりました。
これまでは雨漏りがあると知っていて買った中古マンションで、雨漏りが起こっても売主に責任はありませんでした。しかし新民法では契約書に雨漏りが起こると書いていなければ、雨漏りの責任を売主に請求できることになったのです。これまで瑕疵担保責任の裁判では「買主は雨漏りがあることを知っていて購入した」「いや知らされていなかったから知らなかった」と言い合いが起こり、どちらの主張に真実味があるかが争点になりがちでした。しかし新民法では、契約書に雨漏りが起こると書いてあるか否かで売主の責任が決まります。
新民法では契約不適合責任があった場合、「買主の追完請求」「買主の代金減額請求」「契約の解除」などが可能になります。買主の追完請求は、不具合を売主で修理してくださいということです。先ほどのマンションの雨漏りの例なら、売主が費用を出して補修を依頼することができます。買主の代金減額請求は、売主が追完請求できない場合に代金の減額を請求出来るという意味です。売主が雨漏り補修をできない場合に、売買代金を減額することができるわけです。さらに契約の解除も可能で、売主の責任が大幅に広がることになりました。
10年過ぎて発覚したトラブルの対処方法
3つのステップで対応することになります。
①売主に相談する
さんざん法律の話を書いてきましたが、最初は売主の良心に訴えることから始めます。瑕疵担保責任や契約不適合責任の期間が切れていても、対応してくれるデベロッパーはいます。私が15年間いたデベロッパーは、内容にもよりますが10年を過ぎても対応するケースがありました。大手デベロッパーの中には、住民と争って新聞を賑わすよりも穏便に済ませたいと考える会社もあるのです。
特に関係会社を多く抱えるデベロッパーは、新聞に出て悪評が立つことで関係会社にまで影響が出ることを嫌い、可能な限りは対応しようと考えることがあります。また地域に根ざしたデベロッパーの中にも、悪い評判が出ることを嫌って対応する会社もあります。そこで10年を過ぎていても、まずは売主に相談することが重要です。この時に「何年過ぎようが、売主が責任を取って当然」と言わんばかりに、強硬な姿勢で強引な主張をする人もいますが、これは逆効果です。法的責任がない部分で対応しようとしているデベロッパーが、話し合いを打ち切ることもあるからです。
②施工会社に相談する
売主が対応してくれないとなると、次に相談する相手は施工会社です。先ほどの外壁タイルの浮きが発覚した例だと、タイルの張り付け方法に問題があったので、施工会社の責任で補修してくださいという話をすることになります。しかし単にタイルが浮いていると言っても「経年劣化です」の一言で済まされる可能性があります。そこで施工会社の不法行為を追求するには、マンション住民側で不法行為が行われていることを証明しなくてはいけないのです。
不法行為は不法行為の時から20年で時効になるので、築20年以内なら施工会社に責任を求めることが可能です。マンション全体の何割のタイルが浮いているか調査をし、剥落したタイルがあれば モルタル の状況を見て、張り付け方法が適正かを判断します。タイルの貼り方は国土交通省や日本建築学会が定めた方法があるので、それらと適合しているかなどを確認していきます。これら不法行為があったことをマンション管理組合だけで行うのは困難で、外部から専門家を招かないと難しいと思われます。
ただし注意が必要なのは、不法行為が認められるのは判例にもとづくと、居住者等の生命、身体又は財産に危険をもたらす場合に認められます。そのためなんでもかんでも不法行為を問えるわけではなく、この点も含めて専門家に相談する必要があります。
③裁判で争う
外部から専門家を雇い入れ、不法行為の証拠を集めても、施工会社が認めないことがあります。その場合は裁判で争い、司法の判断を仰ぐことになります。しかし不法行為の証拠がありながら、施行会社がゼロ回答を出すのは稀で、なんらかの和解案が出てくることが多くあります。この和解案の内容が良いものなら、私は裁判をあまりお勧めしていません。裁判は長期化することが多く費用も多額になることが多いので、マンション管理組合にとって、人的にも費用的にも大きな負担になるからです。
もちろん管理組合として戦い抜くという意志が明確ならば、裁判もありだと思います。しかしある程度納得のいく和解案が出たならば、私はそれで手を打つようにマンション管理組合にお勧めしています。もちろんどのような判断をするかは管理組合次第ですので、私がお勧めしたからと言って決めなくはいけないということはありません。
時間との勝負になるので対応は早めに
法律は買主を保護する方向で定められていますが、売主の責任を無限に求めるわけにもいかないので、時効という期限が設けられています。そのためトラブルに気がついたら早めの対応が必要で、マンション理事会で迅速な対応を求められます。福岡県の福岡市東区では、住民がマンションが傾いていることを自覚してから20年かけて売主と施工会社に瑕疵を認めさせました。
このように10年過ぎて瑕疵が見つかったマンションの相談をお受けしていますので、まずは以下のメールフォームからご一報下さい。問題の概略などをお聞きして、アドバイスをさせていただきます。