終の棲家にマンションが向かない3つの理由
以前はマンションの購入相談といえば、30歳代の夫婦が中心でした。しかし今では60歳を過ぎた方からの相談が増えています。それまで住んでいた戸建てを売り、マンションを購入して終の棲家にしたいと考える方が増えているからです。退職金と自宅の売却資金を使ってマンションを購入する方が増えていますが、私はマンションの購入は慎重に行うべきだと考えています。今回は終の棲家にマンションが向かない3つの理由をまとめてみました。
永住思考が強まったマンション
国土交通省のマンション総合調査によると、昭和55年度にはマンションに永住したいと考えている人は21.7%しかいませんでした。しかし平成25年度には52.4%に増えています。永住思考が33年間で2倍以上に高まっているのです。
かつてマンションは戸建てに住むまでの仮住まいと考えられており、仕事をリタイアしたら戸建てを買うと考えている人が多くいました。しかし今では若いときに買ったマンションに死ぬまで住むという人、リタイアしたからマンションを買うという人が増えています。
自宅で亡くなる人は13パーセント
2017年の人口動態調査によると、病院や老人介護施設など何らかの施設で亡くなる方は全体の84%で、自宅で亡くなる方は13%に過ぎません。ほとんどの方が病院で亡くなるのが現状で、ほとんどの人がマンションから離れて最期を迎えることになります。
また認知症などで一人暮らしの限界がやってきた場合に、どうするかという問題もあります。お子さんの世話になることが決まっている場合は良いですが、介護施設に入るケースも増えています。そのためどのような最期を迎えるにしても、マンションで最期を迎えるのは難しいと思われます。
これらの点を踏まえて、マンションを終の棲家として購入する際に考えておくべき3つのポイントを挙げていきます。
①高齢になって維持費が増える
マンションはローン以外に毎月の出費があります。管理費、修繕積立金、車がある場合は駐車場代です。特に管理費と修繕積立金は、マンションを手放すまで払い続けなくてはなりません。問題は修繕積立金で、現在ほとんどのマンションの修繕積立金は不足しています。当初設定された修繕積立金の額は販売の都合で安く抑えられており、値上げをしていかないと必ず不足するようになっているのです。
この修繕積立金の問題は以前書いたことがあるので、そちらを参照して下さい。住民が高齢になる時期に修繕積立金が不足するプロセスを書いています。
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・老後にマンションの修繕積立金は不足する
②現金がないと施設に入れない
高齢になると認知症をはじめ、一人で生活ができなくなる可能性があります。その場合はヘルパーを雇うか介護施設に入ることになりますが、これらの施設に入るには一定の資金力が必要です。
公的施設である特別養護老人ホームはの費用は、月々6万円から15万円と言われています。しかし特別養護老人ホームは全国的に待機者が多く、入居したくても入居できない人で溢れている状態です。今後は高齢者が増えるのでますます入居が難しくなると予想されており、民間の介護施設に入らざるを得ない人も多いでしょう。
しかし民間の施設は高額になります。グループホームなどでも入居一時金は数十万円で、毎月15万円以上の費用がかかるところがほとんどです。介護付き有料老人ホームになると入居一時金が数千万円になることもあり、毎月の費用が20万円以上のところも珍しくありません。施設に入るには一定の資金力が必要で、老後のマンション購入により資金が無くなるとこれらの施設に入るという選択がなくなるのです。
③面倒な相続問題
老後にマンションを購入して一人暮らしをしていた場合、本人が亡くなったらマンションは子供達に相続されることになります。仮に子供が2人いるとしたら、子供は財産を半分ずつ相続することになります。仮にマンションに500万円の価値があり、親の貯金が500万円あれば子供2人は500万円ずつ受け取ることになります。片方はマンションを売却して現金化しても良いですし、そのまま住んでも誰かに貸しても良いでしょう。
では親の貯金が100万円だったらどうでしょう。子供達はそれぞれ300万円を受け取ることになりますが、マンションを2つに割って引き取るわけにはいきません。この場合は以下の2つのうちのどちらかになると思います。
(1)マンションを500万円で売却して、現金を300万円ずつ受け取る。
(2)兄(または弟)がマンションを引き取り、弟(または兄)に200万円を支払う。
ここで面倒なのは売却する場合です。売却するのは業者に任せるとはいえ、業者の選定や価格設定の相談に加えて部屋の掃除などが必要です。売却されるまでは管理費や修繕積立金を払う必要があり、それらはどちらが負担するのかという問題もあります。誰かが手間暇お金を負担する必要があるのです。もちろん掛かった費用は財産分与の際に精算できますが、なにかと手間が掛かるのを嫌がって揉めるケースは多くあります。
よく相続問題は「ウチは揉めるほどの財産がないから」と言う人がいますが、相続問題で揉めるケースの多くは少額です。多額の財産を持っている人は予め相続対策をしている場合もありますが、少額の方が準備もしていないので揉めるケースが多いのです。
さらに言うと、不動産の相続で揉めるのは不動産に価値がある場合です。最近は60歳を過ぎた方が、築30年を過ぎたマンションを終の棲家として買うケースも増えています。その方が80歳で亡くなったら、残ったマンションは築50年以上になっています。きちんと管理が行き届いていれば良いのですが、廃墟のようなマンションになっている可能性もあります。以下の記事に、マンションが廃墟になっていくプロセスをかきましたので参考にしてください。
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・廃墟に向かうマンションの老い
廃墟になったマンションは売却も容易ではありません。そのため相続放棄を考える人もいますが、相続放棄にも手間暇お金がかかります。売却をする間、相続放棄の手続きをして相続財産管理人が選任されるまでは管理費、修繕積立金を支払う義務が生じます。このようなマンションを残すことは、お子さんに負の遺産を残すことになりかねないのです。
まとめ
定年後にマンションを買うという選択肢が、間違いというわけではありません。ただ終の棲家にならない可能性があるので、購入する場合は資金には余裕をもって検討する必要があります。もちろん老後はお子さんが面倒を見てくれる人もいるでしょうし、家庭によって事情はさまざまです。ですから老後にマンションを買ってはいけないというわけではありません。
一方で「マンションは階段がないから生活が楽」「交通の便が良いから戸建てよりマンション」などの理由で、安易に老後にマンションを購入するのは多くのリスクを含むことをご理解頂きたいと思います。