事例 窓の上から漏水が起こるマンション
知人の紹介で、マンション管理組合の理事の方にお会いしました。マンション内で漏水が発生しており、業者からも修理を断られて理事会として困っているとのことでした。今回はマンション漏水のトラブル事例を紹介します。窓の上から漏水が起こるマンションです。
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物件概要
物件名など具体的なことは書けませんが、今回依頼があった物件は以下のようなマンションでした。
住所:東京都内
構造・規模:鉄筋コンクリート造 14階建て
総戸数:100戸程度
築年数:19年
漏水トラブルの概要
今年の4月頃に5階の1室で漏水が発生しました。管理会社に連絡したところ大規模修繕を行った業者に連絡をとりましたが、コロナ自粛で動けないということで、工事がズルズル先延ばしになっていました。ところが6月の半ば頃に業者から連絡が入り、漏水箇所は大規模修繕工事の範囲ではないので工事はできないと言ってきたそうです。
そこで管理会社は他の工事業者に連絡をとりますが、他の業者からは大規模修繕工事を行った業者で補修してもらう方がよいと断られたそうです。そのため管理会社は八方ふさがりになってしまい、今でも雨漏れが続いたままになっているそうです。このマンションは6年前に大規模修繕工事を実施しており、これまで雨水漏水は起こったことがありませんでした。
よくわからないのは、大規模修繕工事を行った業者が漏水工事を断った理由です。大規模修繕時に工事をしていなくても、工事をしない理由にはなりません。新型コロナの影響で工事の予定が狂ってしまい、仕事を請ける余裕がないのかもしれません。
漏水の様子
妻側と呼ばれるマンションの一番端の部屋の窓から、雨漏りが起こっています。窓は庇がある小窓で、その窓の上部の壁に水が染みてきています。壁のクロスにシミが広がっていて、変色していました。雨が降る度にシミができており、漏水する量は時間とともに増えているそうです。
考えられる原因
この部位での漏水は、考えられる原因は2つです。1つはサッシの取り付けが悪く、サッシの取り付け部分から漏水するケースです。コンクリートとサッシの間は モルタル をしっかり充填していくのですが、その充填が十分にできていないため漏水が起こる例は多くあります。またサッシ廻りには防水を施すのですが、この防水を省略していたり不十分だったりで漏水が発生することもあります。
もう一つの可能性は庇の付け根部分にひび割れが入り、防水が判断して雨水が浸入しているケースです。小窓の上部から雨水が染みてきている場合は、庇からの漏水の可能性が高いです。庇の上にはウレタン塗膜防水が施されており、ある程度のひび割れが入っても漏水することはありません。しかしひび割れが大きくなるとウレタン防水が破断してしまい、そこから雨水が浸入します。そのためこういったマンションでは庇の防水をやり直し、それでも漏水が続くかを確認する必要があります。
大規模修繕の資料を見返す
6年前の大規模修繕の資料を全て見せてもらいました。きちんとした業者で、契約書もしっかりしたものでした。その契約書を見ると、問題の庇の防水も工事範囲になっていました。なぜ業者は「漏水箇所は大規模修繕工事の範囲ではない」と断ったのでしょうか?読み進めていくと工事後に提出された「大規模修繕工事完了報告書」には、庇の防水は記載されていませんでした。そのため業者はこれを見て庇は大規模修繕工事の範囲ではないと言ったのかもしれません。
しかし庇の写真を見ると、明らかにウレタン防水を塗り直していますので、単に報告書に記載を忘れただけのようです。そして防水工事のを見ると、保証期間について1つだけ普通ではない点がありました。「防水工事の保証期間は10年とする。ただし以下の項目は保証期間を5年とする」と書かれており、5年の保証期間に該当する工事部位が書かれていました。「バルコニー側溝内の防水」「外廊下側溝内の防水」「ゴミ置き場屋根の防水」などが5年の保証になっています。
しかしその中に庇の防水工事は記載されていませんでした。庇はウレタン塗膜防水を行いますが、通常の保証期間は5年です。しかし5年保証の範囲に記載されていないので、この保証書では庇の防水工事は10年になります。業者の記載ミスでしょうが、10年の保証をもらっていたのです。
これは想像に過ぎませんが、業者はこのミスに気づいていたのではないでしょうか。庇が5年保証なら保証の対象外なので、有償で補修を請けることになります。しかし保証書に10年と記載されているのでお金を受け取るわけにはいかず、かといって無償で補修はしたくないということだと思います。
解決へ
この契約書と保証書を元に、大規模修繕工事を行った業者に補修の依頼をすることになりました。前回のように「庇は大規模修繕工事に含まれていない」と主張するのであれば、大規模修繕工事の契約書には工事範囲として明記されているため、契約の不履行で防水工事を行うことを求めます。
庇の防水工事を行ったことを認めれば、保証期間が10年になっているので補修を求めることができます。どちらに転んでも無償で工事をやってもらえるのですが、工事業者の明かなミスにつけ込むやり方ですし、本来であれば庇の保証期間は5年で過ぎています。保証期間内は漏水せずに防水の役目を果たしているので、あまり強引に無償で工事を迫らないことにしました。
まとめ
今回の漏水事故の相談は、大規模修繕工事の保証問題になりました。一般的に屋上の防水工事(アスファルト防水やシート防水)は10年の保証期間がありますが、溝の中や庇に塗っているウレタン塗膜防水は5年保証です。しかし今回のケースでは、手違いからか庇の防水が10年保証になっていました。八方ふさがりに見えた漏水でしたが、業者に交渉ができることがわかり、大変喜んでもらえました。このように困っていることがあれば、ぜひ下のメールフォームからご一報下さい。