マンションの基礎知識05/杭があるマンションは安心できるか
今回のマンションの基礎知識は、杭についてです。マンションの地震の被害が話題になる時に「このマンションは杭を固い地盤に打っているので大丈夫です」といった言葉が聞かれます。しかし杭を固い地盤に打つのは当たり前のことで、ほとんどのマンションがそうなっています。では杭があるマンションは安心できるのでしょうか?今回はあまり知られていない杭の話を描いてみました。
杭の種類
杭にはいくつもの種類がありますが、大別すると「支持力の取り方」と「杭の作り方」「杭の材料」などによる分類に分けられます。
①支持力の取り方による分類
大きく分けて2種類の杭があります。
①-1先端支持力杭
最も一般的な杭で、支持層と呼ばれる固い地盤に杭を刺して建物を支持する杭です。2015年に杭の長さが足りないことが発覚したパークシティLaLa横浜や、今年マンションが傾いていたことを売主と施工会社が認めたことで話題になった、福岡県のベルヴィ香椎六番館では、この先端支持力杭が使われています。
①-2摩擦杭
摩擦杭とは杭の表面と接する地盤による摩擦力で建物を支える杭です。支持層に到達させる必要がないので、杭が短くできるというメリットがあります。支持層が深くて杭を打てない場合には、摩擦杭が使われます。それほど多く使われている訳ではなく、私も摩擦杭の建物に携わったことはほとんどありません。
②杭の作り方による分類
②-1既成杭
予め工場で作られた既製品の杭を既成杭と呼びます。トラックで現場に運び、必要な深さまで継ぎ足して埋めていきます。工場製品なので高品質ですが、杭が太くなると作ることも運ぶことも難しくなります。だいたい杭径600mm程度ぐらいまでが、運搬の限界だと思います。
②-2場所打ち杭
現場で作る杭です。そのため既成杭のような運搬の制限がなく、直径1mでも2mの杭でも施工が可能です。既成杭に比べると工事が複雑になり、杭打ちの手間も時間もかかります。しかし大型の建物では杭が大きくなるので場所打ち杭が多く利用されています。マンションで最も多く採用されているのが場所打ち杭だと思います。
③杭の材料による分類
③-1コンクリート杭
コンクリートでできた杭です。マンションで最も多く使われているのは、先端支持力杭の場所打ち杭でコンクリート杭です。
③-2鋼管杭
鋼の管でできた杭です。鉄板を丸めて作るため、あまり分厚い材料だと丸めることができません。そのためコンクリート杭ほど強度が高い杭を作ることができません。鉄は地中で錆びるため、予め錆びシロを1mmほど作っています。軽量の建物に利用されています。
なぜ杭を打つのか
杭の目的は建物を支え、地震などで弱い地盤が崩れても建物を守るためです。建物を維持するために杭は重要な役割を果たすので、杭工事は施工精度や品質管理が高い基準で求められます。そのため杭が届いていないという問題が頻発する最近の建設事情に驚いていますし、そんな建物でも地震の際に崩れていないのですから、日本の建築基準がいかに余裕度を大きく見積もっているかが伺えます。
私が新卒でゼネコンに入り2年目を迎えた頃の話です。同期が杭工事の管理を任され、全ての杭を50cm浅く打ってしまうというミスが起こりました。自社設計だったのですぐに設計部に連絡をとり、是正工事をどのようにすれば良いか検討を依頼しました。すると構造設計担当者から連絡が入り、計算上ではギリギリもつのでそのままで大丈夫とのことでした。私の同期は胸を撫で下ろしたのですが、所長が激怒しました。全ての杭が50cm浅くてももつなら、どれだけの余裕度を見て設計したのだというわけです。
N値という基準
先端支持力杭では固い地盤に杭を打つと書きました。また昨今は杭が固い地盤や支持層と呼ばれるところに届いてないことがわかり、問題になっています。この支持層と呼ばれる固い地盤は、何を持って固いと言っているのでしょうか。その基準がN値という数字で示されます。
建物を建てる土地でボーリング試験を行います。土を掘って土質調査を行うのですが、その時に標準貫入試験というのが行われます。簡単に言うと、63.5kgのオモリを76cmの高さから落下させて、オモリが土に30cmめり込む回数を測るのです。その回数がN値になります。そのためN値は数字が大きければ大きいほど固い地盤ということになります。N値が50を超える地盤が支持層と呼ばれる固い地盤で、ここに先端支持力杭を打つことになります。
杭が不要な物件
このように杭は重要な建築部材ですが、杭がない建物もあります。地表まで固い地盤に覆われていて、1mも掘ればN値50を超える土地もあります。その場合は杭を打たず、直接基礎で施行されます。直接基礎の説明は、以下の記事で行っていますので、そちらをどうぞ。
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つまり杭がない物件は、それだけ固い地盤が浅いところにある土地に建てられているということです。タワーマンションのような高層建築物でも、杭なしで建てられていることもあります。例えば東京都府中市は浅い地盤のN値が高いことで知られていて、5mも掘らずにN値が50を超えてしまいます。そのため府中市にある30階建のタワーマンションは、杭なしで建てられています。
「このマンションは60mの杭を打っているので、地震が来ても安心です」という営業マンの売り文句を聞いたことがありますが、逆に言えば60mも掘らなければ支持層がなかったということで、表層の地盤はあまり固くないことがわかります。
寺社仏閣が多い土地は良好地盤が多い
先人の知恵と言うべきでしょうか。日本は古くから地震が多いので、寺社仏閣は何度も倒壊しています。神殿が倒壊したり、墓跡が倒れるどころか土砂崩れでお骨が流されて行ったりと、何度も被害にあっているはずです。そのため災害の度に被害が少ないエリアに寺社仏閣が建設されるようになったようで、寺社仏閣が多いエリアで標準貫入試験を行うと、地盤がしっかりしているところが多いのです。もちろん例外もありますが、古くから寺社仏閣が多いエリアは良好地盤が多いことも事実なのです。
まとめ
杭の種類や役割を紹介しました。こうして杭を知ると、杭を深く打っているから安心というわけではないことがわかると思います。杭は地震に対するだけでなく、建物を維持するために重要な役割をになっています。