離婚時の慰謝料にマンションを購入した話 /築古物件相続の危うさ
このブログ宛に来るメールの中で、興味深い相談がありました。相談の依頼者は地方都市の不動産業者に勤める方で、知人から聞いた話が本当にありえるのかというものでした。私も詳しく聞きたかったので、zoomで話をすることになりました。今回は離婚の慰謝料代わりにマンションを購入して、復讐したという仰天の話です。
登場人物の紹介と離婚理由
この話はメールをくれた不動産会社勤務のKさんが、同じく不動産会社勤務の友人から聞いた話です。友人夫婦に子供はおらず、姑と同居しています。3人で戸建に住んでいますが、その戸建は元々は友人の父親のもので、現在は友人の名義になっています。
友人:不動産会社勤務の女性。30代で既婚。
友人夫:30代のメーカー勤務のサラリーマン。
友人姑:夫の母親で70代の年金暮らし。
友人夫婦は結婚当初は賃貸マンションで生活していましたが、友人の両親がバリアフリーの新築戸建てを購入したのをきっかけに、それまで住んでいた戸建てを友人に譲渡(生前贈与)したそうです。そこで夫婦2人で生活していましたが、その後に友人夫の父が亡くなり、一人暮らしになった姑を引き取る形で同居することになったそうです。
同居を始めてから数年間は良好な関係だったそうですが、子供ができないことに痺れを切らした姑の嫌味が始まり、そこから嫁姑関係が破綻していきます。友人夫は常に姑の味方だったため、我慢の限界になった友人は何度も夫と話し合いを行い、現状が改善されないとわかると離婚することにしたそうです。ご主人はネット用語で言うエネ夫(えねお)だったようです。
揉めた離婚協議
離婚を切り出した友人に対し、当初は夫も姑も猛反対しました。友人は自分が家を出て行こうかと思いましたが、自分名義の家を出るのも癪に触るため2人に出て行くように要求し、絶対に出ていかないという2人に対して同居しながら離婚交渉を続けることになります。友人は慰謝料なし財産分与のみで離婚を進めようとしますが、住む所がなくなることに危機感を覚えたのか、姑が友人になぜか慰謝料を支払うことを要求して来ました。
どうしても早く離婚したい友人は100万円を提示しますが、姑と夫は300万円を要求します。交渉に疲れ果てた友人を見た友人の両親は、自分たちが300万円を出すから早く別れてしまえと言うようになります。しかし夫と姑のゴネ得になるのも頭に来ると考えた友人は、慰謝料の代わりに安いマンションを買って渡すと提案しました。やや不便な場所ですが、住む所を確保できることで姑は了解します。夫は姑の意思に従い、母が納得するなら良いと離婚に同意しました。
購入したマンション
友人は仕事柄知っていた、訳ありの築40年超のマンションを姑名義で購入したそうです。場所は地方都市ですが、物件価格は数十万円だったそうで、諸経費を含めても100万円でお釣りが出たそうです。既に入居率は50%を切っていて、かなり寂しい雰囲気のマンションなので姑は驚いたそうですが、不動産屋の自分が見てもお買い得物件だと押し通したそうです。最終的にはタダでマンションが手に入るということで、姑も夫も納得したようです。また管理費や修繕積立金が安いという点も、姑も夫も納得するポイントになったそうです。
友人の長期的な復讐
メールをくれたKさんは、これを友人が嫁いびりされた姑と、それを放置していた夫への復讐だと言っていることが、よくわからないと質問して来ました。友人は売却が難しいマンションを渡したことで、夫は今後も苦しむことになるだろうと言っていたそうです。なぜそれが復讐なのかわからないKさんは、離婚した直後の友人に根掘り葉掘り質問するのも気が引けて、以前からメールでやりとりがあった私に質問して来ました。この友人の話には、いくつかのポイントがあります。
①マンションは築40年超え
②物件価格は数十万円
③入居率が5割を切っている
④管理費・修繕積立金は安い
Kさんによると、同じ地域で築40年程度のマンションだと、500万円以上はするそうです。つまりかなりの格安物件ということになり、訳ありマンションだと友人が言っていたのは、ここら辺りに理由がありそうです。恐らくですが、廃墟に向かっているマンションなのでしょう。管理費や修繕積立金が安いのは、多少値上げしても回復する見込みがないマンションだと考えられます。友人は廃墟マンションを渡すことで、何年もかけて経済的に不利益を与えようとしているのでしょう。
廃墟マンションを所有するリスク
70代の姑は他に住む所がないので、10年ぐらいは住む可能性があります。その時点で築50年を超えることになり、廃墟マンションに住み続けることになります。姑が亡くなると、夫が相続することになります。現在でも住民が50%を切っているため、修繕積立金や管理費の徴収に苦戦しているでしょう。10年後はさらに入居率が低くなっていると思われるので、さらに管理組合は金欠になっているはずです。マンションは一度廃墟に向かうと止めることは困難で、なす術がなくなってしまうのです。
修繕積立金が不足するとマンションの修繕ができないため、例えば自動ドアが壊れてもそのままになったり、照明が点かなくなってもそのままになってしまいます。また外壁の修理ができなくなり、タイルなどが剥落して通行人が怪我をすることなどがあると、管理責任がある所有者全員が賠償する義務が生じます。最終的には建て替えか解体の費用を捻出する必要が出てくるので、この手のマンションは財産ではなく負債なのです。
Kさんは、そんなマンションなら姑がすぐに売却するのではないかと言いましたが、相場が500万円くらいするのに数十万円で購入できるマンションです。相場では誰も買わず、ずるずる値下げしても買い手がツナないのでしょう。既に廃墟になりつつあるのは明らかで、一度購入してしまうと負債が出来上がってしまうのです。友人は姑と旦那に、負債を負わせることに成功したのだと思います。
ちなみに夫が相続放棄をすることも考えられますが、次の所有者が決まるまでは管理費と修繕積立金を払わなくてはなりません。こういう物件は買い手が決まらないので、マンションを解体するまでは住んでいなくても延々と払い続けなくてはならなくなります。長期間に渡って負債を背負っていることと同じになってしまうのです。
築年数の古いマンションを相続する危険性
果たしてKさんの友人の話は本当なのか?不動産屋の面白話として、創作が入っているのではないか?とも思いましたが、理屈の上ではあり得る話です。現在、日本中のあちこちに築40年以上のマンションがありますが、古いマンションをそのままにしておくと負債を抱えることになりかねません。売れないまま風化していき、解体することになると数百万円の支払いを背負うことになりかねません。2020年に滋賀県で解体されたマンションでは、持ち主に1人当たり1300万円の支払いを求められています。
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親が古いマンションに住んでいる方は、売却できない状態で相続してしまうリスクがあり、相続してしまうとマンションの解体まで責任を追うことになります。戸建なら解体するにも自分1人で決断できますが、マンションは所有者全員の合意が必要になります。また戸建なら解体費用は高くても数百万円で住みますが、マンションは桁が変わる可能性もあります。親が健在の時に、築古マンションをどのようにするか考えなくてはいけません。今後は築古マンションが日本中に増えるので、やがて社会問題になるように思います。