家賃滞納の「追い出し条項」に最高裁判決 /家賃は払わない方が得なのか

2022年12月12日、最高裁判所は住宅の賃貸借契約における「追い出し条項」の使用禁止を命じる判決を出しました。このニュースを受けて、家賃を払わずに踏み倒す方が得なのかいう声がネットを中心に巻き起こり、最高裁の判決を批判する声があがっていました。その一方で、この判決は至極当然という声もあります。今回はこの判決について、見ていきたいと思います。

裁判の概要と追い出し条項

消費者団体の「消費者支援機構関西」は、家賃保証会社フォーシーズが連帯保証人となる際に賃貸住宅を借りる人と結んでいる契約の追い出し条項について、居住権を侵害しているとして使用の裁判を起こしました。この追い出し条項は4つの条件を満たす場合に、物件の明渡しがあったものとみなすことができ、部屋の家財などを撤去することが可能となるというものでした。その4つの条件は以下の通りです。

1.家賃を2カ月分以上滞納したこと
2.合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
3.電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること
4.本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存すること

この裁判は2019年に一審の大阪地裁では追い出し条項を違法と判断しましたが、大阪高裁は2021年に合法と判断しました。そのためこの裁判は最高裁に持ち込まれ、最高裁は違法と判断したのです。これにより家賃保証会社が、家賃を滞納した人を追い出すことを契約書に記載することができなくなりました。

家賃保証会社とは

家賃保証会社とは、家賃の滞納があった場合に大家に家賃を保証する会社のことです。以前は賃貸借契約を結ぶには連帯保証人を立てるのが必須でしたが、最近はその代わりに家賃保証会社を使うケースが増えています。国土交通省によると賃貸借契約の約97%が何らかの保証を求めていて、現在は約6割の賃貸借契約で家賃保証会社が利用されているようです。今後も家賃保証会社の利用が伸びると言われていて、今や賃貸借契約には必須となっています。

家賃保証会社が増えている理由としては、高齢化社会になって連帯保証人になってくれる親が高齢であることや、家賃滞納があっても連帯保証人に連絡が取れないなど手間がかかることが多いこと、さらに開き直って支払いをしない連帯保証人も増えているそうで、そういった煩わしさがないため大家さんからすると家賃保証会社は強い味方なのです。

家賃滞納会社は、賃借人から家賃1ヶ月分の50%から80%の手数料をもらうことで利益を出しています。そのため家賃を何ヶ月も滞納されると大家さんに払い続けなくてはならないので、損をしてしまいます。そのため滞納されている家賃の回収は最も重要な仕事であり、裁判等の手間と時間をかけなくて済むように追い出し条項を契約書に入れているのです。

最高裁判決を支持する意見

民法や消費者契約法では「自力救済の禁止」という原則があります。自力救済の禁止とは、何らかの権利を侵害された場合に司法手続きを行わずに自力で解決することです。これは司法手続きを行わないで問題解決を認めるようになると、実力行使できる人だけが有利になり暴力団などがはびこる原因になるからです。これは私刑の禁止と密接に関係していて、これを認めると社会秩序が乱れて弱肉強食の世界になる危険があるとされています。

今回の判決は、この自力救済の禁止に抵触するものなので、違法判決は妥当だという声は多くあがっています。多くの人が勘違いしているのですが、今回の判決は家賃を滞納された大家さんが裁判を起こして家賃を回収することを禁じた訳ではありません。あくまでも司法手続きを踏まないで、勝手に解決することを違法と判断したのです。そのため今回の判決は、以前からあった自力救済の禁止に基づいた判断なので、至極当然という訳です。

最高裁判決を批判する意見

今回の判決により、家賃保証会社の審査が厳しくなる可能性が指摘されています。そもそも家賃保証会社と大家さんの思惑は相反しています。大家さんは家賃を滞納しそうな人であればあるほど家賃保証会社を使いたいと考えますし、家賃保証会社は滞納しそうにない人の保証をしたいと考えます。仮に家賃が100万円のマンションで考えると、これほどの家賃を払える人は安定した高い収入がある人なので家賃滞納の可能性は低くなります。一方で家賃3万円のアパートには収入が不安定な人が住むこともあり、こうした人は家賃が払えなくなる可能性があります。

家賃保証会社の保証料が家賃の70%だとすると、家賃100万円のマンションでは70万円をもらえて滞納のリスクが低く、家賃3万円のアパートでは2.1万円しかもらえずに家賃滞納のリスクが続くのです。今回の判決で家賃保証会社は家賃が安い物件を避けるようになったり、審査を厳しくして収入が低い人は保証しないというケースが出てくる可能性が指摘されています。もちろん大家が裁判を起こせば良いのですが、判決が出るまでの間も家賃が滞納される可能性が高いですし、金額が大きくなればなるほど回収できない可能性が高くなります。

今回の判決により大谷も家賃保証会社も低所得者との賃貸借契約を避けるようになる可能性があり、今回の判決は弱者救済どころか弱者を追い詰める結果になるという意見が出ています。法律論ではなく、実情を心配して判決を批判しているわけです。

問題は司法手続きにかかる時間か

これらを合わせて考えると、司法手続きに時間がかかることが問題だと思われます。3万円の家賃を払えない人が2ヶ月滞納すると、その月の分も合わせて9万円を支払わなくてはなりません。3万円を払えない人が9万円を用意できる可能性は低く、こうなると回収が難しいケースが出てくるでしょう。そして裁判を行うとなると、さらにそこから数ヶ月かかることもあるので、もはや回収できないなんてこともあるかもしれません。司法手続きが早く終われば家賃の滞納額が溜まりすぎないうちに強制執行できるのですが、現在の司法手続きの時間がかかりすぎるのが問題の1つだと思いました。

生活保護を心配する声も

生活保護受給者が賃貸借契約をする場合、家賃保証会社の審査が通りにくいという話をよく聞きます。しかし保証会社によっては生活保護受給者でも審査は通るのだそうです。生活保護を受給しているということは定期的な収入があるということで、取りっぱぐれが少ないとも言えます。そのためいろいろな条件もあるみたいですが、生活保護受給者でも家賃保証会社の審査が通ることがあるようなのです。

しかしこういう人が定職について生活保護を受給できなくなると、安定した収入が無くなることを意味します。そこに追い出し条項が違法の判決が出たので、生活保護の受給がなくなると賃貸アパートを契約できなくなるのではないかと懸念する声が出ているようです。生活保護から抜け出す努力の足を引っ張る判決ではないかということが、心配されています。

まとめ

判決が出た際に、家賃を払わない人が救われるという声がネットのあちこちで見られました。しかしこれは完全な誤解で、これまでもこれからも司法手続きを行って追い出すことは可能です。今回の判決は家賃保証会社が契約に追い出し条項を入れることが違法かどうかが争われたに過ぎません。個人的には、自力救済が禁止されているのだから当然の判決なのに何が騒がれているのか不思議でした。しかし日本の貧困問題に関連して心配する声を聞くと一理あると思いました。住宅の賃貸借契約は戦後の住宅不足の中でできた商慣習などが現在でも生きているので、見直す必要が出てきていると思います。

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