Dr.TaCのマンション診察室 /過換気症候群
この診察室では、マンションで起こっている問題を診察しています。今回の患者さんは室内の換気のトラブルで悩んでいるようです。さっそく診察してみましょう。
症状
リビングのサッシが開けないことがあります。両手で力を込めても開かないんです。建設した会社の人が来てくれてサッシを調べたのですが、サッシに問題はないとのことでした。同じように玄関のドアが開かないこともあって、部屋を出るのに一苦労です。どうしたら良いのでしょうか。
問診票
年齢:築4年
性別:分譲マンション
身長・体重:14階建 122戸
本日はどうされましたか?:サッシや玄関ドアがなかなか開かないことがある。
症状はいつ頃からですか?:入居当初からあったが、この数ヶ月でひどくなった。
過去に手術の経験はありますか?:特になし。
過去に同じような症状が出たことはありますか:特になし。
治療中の他の病気はありますか:特になし。
診察
サッシやドアが開かないのは、毎回のことですか?
スッと開く時もあるんですけど、全く開かない時があるんです。玄関のドアは両手だけでなく体ごと押して開けています。
ドアやサッシが開かなくなる時って、料理をした後じゃないですか?
え!?そう言われると、そうかもしれません。
料理の時にレンジフードを「中」とか「強」にして使っていませんか?
匂いが部屋に残るのが嫌なんです。だから料理の後にレンジフードを「強」にしてしばらく回しています。
恐らくそれが原因ですね。
レンジフードの換気量
まず部屋の容積を考えてみます。70㎡の部屋で天井の高さが2.5mだと、容積は175㎥になります。24時間換気システムは0.5回/h以上と決まっているので、2時間で175㎥の空気が入れ替わることになります。1時間では半分の87.5㎥ですね。つまり1時間で87.5㎥の空気を排気して、87.5㎥の空気を取り入れていることになります。
一方でレンジフードの換気量を見てみましょう。パナソニックのカタログを見ると、多くのレンジフードが最大で420㎥/hになっています。
24時間換気が1時間で87.5㎥の空気を入れ替えしている横で、レンジフードが400㎥もの空気を排出しているのです。レンジフードを「強」で回し続けていると部屋の中の気圧が下がってしまい、サッシや玄関ドアが開かなくなるのは当然と言えるでしょう。レンジフードの種類によっては最大600㎥/hのモデルもあり、さらに多くの室内の空気を排気していきます。また部屋が狭いと室内の負圧が高まり、サッシの開けにくさはさらにひどくなると思われます。
診察の続き
レンジフードを動かすだけなのに、サッシが開かなくなるんですね。
そうなんです。住んでいる部屋は何階ですか?
14階です。
高層階の方がサッシが開きにくくなることが多いんです。遮る建物がないから、風が強くサッシに当たりますよね。すると外側の正圧が高まっていきます。部屋は負圧になっているので、ますますサッシが開きにくくなるんです。
どうしたら良いんですか?
レンジフードを動かす時には、どこか窓を開けてからにしてください。レンジフードが排気した分の空気が室内に入れば負圧ではなくなります。それに排気した分の空気を給気しないと、効率よく換気ができないんですよ。だから窓を開けた方が、室内の匂いも残りにくくなります。
それだけで良いんですか。さっそくやってみます。
まとめ
マンションは気密性が高いため、レンジフードによって室内が負圧になりサッシば開かないことがあります。レンジフードを長時間使う時や「強」で動かす際には、予め窓を開けておくと良いでしょう。レンジフードは狭いマンションでも広い部屋でも同型の物が使われるため、特にワンルームマンションなどでは負圧になりやすいという特徴があります。
またレンジフードを動かすと、サッシが鳴く現象が起こることもあります。これも室内の負圧が原因なので、窓を少しでも開けると音が鳴り止みます。このように室内の負圧は様々なことを引き起こすので、換気には気をつけてください。