Dr.TaCのマンション診察室 /静脈血栓症
この診察室では、マンションで起こっている問題を診察しています。今回の患者さんは排水管のトラブルで悩んでいるようです。さっそく診察してみましょう。
症状
天井に染みができて、調べてもらったら上の階の排水管から漏れていることがわかりました。管理会社が修理したのですが、その後も6ヶ月で2回も排水が起こりました。最初は排水管の詰まりが原因だと言っていましたが、何度も起こるので心配です。今後も排水が漏れたりしないでしょうか。
問診票
年齢:築35年
性別:分譲マンション
身長・体重:6階建 58戸
本日はどうされましたか?:天井から排水が垂れてきます。
症状はいつ頃からですか?:7ヶ月前に最初の水漏れがありました。
過去に手術の経験はありますか?:大規模修繕を3回行っています。最後は4年前です。
過去に同じような症状が出たことはありますか:7ヶ月前が最初です。
治療中の他の病気はありますか:共用部の一部で漏電が起こっています。
診察
どうして何度も水漏れが起こるんでしょうか。
適切な修理ができていないか、原因がいくつかあるからでしょう。天井から垂れてきた水は臭いがしましたか?
はい、嫌な匂いで臭かったです。
それなら排水ですね。給水管から漏れると、臭いもしないし透明の水が垂れてきます。臭いがあるということは排水管で間違いないでしょう。
排水管の詰まりがあって、それを取ったと言っていたんですが、どうして何度も漏れるんでしょうか。
築年数から考えて、あちこちで詰まっている可能性があります。写真を見ると、排水管が白ガス管ですね。これはサビやすく最も詰まりやすい排水管なんです。さらに配管の繋ぎ目がドレネジと呼ばれる継手を使っているんですが、これは破損しやすいことで知られています。
排水管の種類
マンションの排水管には、時代とともに多くの管材が使われてきました。また管材と管材を繋ぐ接合方法も様々な方法が用いられています。それらを時代ごとにまとめると、だいたい以下のようになります。
この中で最も古くから使用され、劣化が著しいのは配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)をドレネジで接合したものになります。白ガス管は鋼管の内外を亜鉛メッキで保護しただけのものなので、古くなると全面的にサビが生じてしまいます。またドレネジは鋼管にネジを切って接続する方法になるので、ネジを切った部分が肉薄になってしまい腐食するとさらに薄くなってしまいます。
排水の種類によっては早い段階でメッキが剥がれてサビだらけになってしまうので、内部を塩化ビニルでコーティングした鋼管が主流になっていきました。現在はほとんどのマンションの排水管は、硬質ポリ塩化ビニル管を接着剤で接合しています。
診察の続き
管理会社は排水管の内部を高圧洗浄したと言っていました。高圧洗浄したら、詰まりが全部取れるんじゃないですか?
高圧洗浄は有効な手段です。キチンと行えば詰まりがキレイに取れますし、複数の詰まりがあっても取れますね。しかし排水が漏れる原因はそれだけじゃないです。
他にはどんな原因が考えられますか?
先に挙げたように、継手が破損している可能性があります。ネジを切っている部分は肉が薄くなっているので、サビてくると欠損しやすくなります。また継手部分のサビを高圧洗浄で落とした時に、サビと一緒に欠損してしまうことがあります。
高圧洗浄が原因で漏れることがあるんですね。
それから排水管の勾配がキチンと取れていないと、漏水が起こることもあります。部屋の中の排水管は排水縦管に繋がっているのですが、排水縦管に向かって勾配がついています。しかし勾配がないと排水管の中に水が溜まって、継手部分から染み出すのです。
どこに原因があるかわからないってことですね。
詰まりだけでなく、さまざまな調査が必要になります。また今までの話は横引管と呼ばれる床下や天井裏にある配管の話ですが、各階に繋がっている排水縦管が詰まっていることもあります。築年数から考えて、排水管の交換を検討する時期に入っています。理事会で検討を初めてはどうでしょうか。
わかりました。話し合って見ます。
排水管を人間に例えると血管のようなもので、その詰まりは静脈血栓症みたいなものです。そのままにしておくと、さらに大きな問題を引き起こすので早めの処置が重要です。
まとめ
マンションの排水管は古くなると漏水を起こしやすくなります。特に白ガス管を排水管に使用している場合は、早めに交換の検討を進めておく方が良いでしょう。1箇所が漏水すると、あちこちで漏水が始まる可能性があります。今回は排水管の中でも住戸の中の横引き管を中心に話しましたが、各住戸を通る排水縦管で問題が起こることもあります。築年数が古くなったマンションは、細かな点検が欠かせません。