Dr.TaCのマンション診察室 /骨粗しょう症
この診察室では、マンションで起こっている問題を診察しています。今回の患者さんはお住まいのマンションのコンクリートのトラブルで不安になっているようです。さっそく診察してみましょう。
症状
壁から雨漏りがあり、補修のために内装材を剥がしてもらいました。するとコンクリートにモルタルで補修した跡があり、指で触るとポロポロと取れてしまいました。モルタルを塗り直して内装を元に戻すと言っているのですが、大丈夫でしょうか。
問診票
年齢:築7年
性別:分譲マンション
身長・体重:14階建 113戸
本日はどうされましたか?:壁のモルタルが指で触るだけでポロポロ取れます。
症状はいつ頃からですか?:2週間前の補修工事で見つかりました。
過去に手術の経験はありますか?:特になし
過去に同じような症状が出たことはありますか:特になし
治療中の他の病気はありますか:特になし
診察
モルタルが指で触ったらとれるっておかしいと思うんですよ。
それは変だね。モルタルが硬化してないのかも。
その上からモルタルを塗って補修するって言われたんで、不安なんです。
どうなっているのか、そのモルタルの部分の写真を見てみよう。あれ?これはジャンカをモルタルで埋めてるね。
ジャンカってなんですか?
日本語では豆板とも言うんだけど、コンクリートを打設するときにセメントペーストがきちんと回らなくて、砂利が密集して出て来ている部分のことなんだ。
コンクリートに良くないんですよね。
強度不足を招くから地震の際には損傷が大きくなる可能性があるし、中に水が入るとコンクリートを腐食させるから重大な問題だね。だからモルタルで塞いでいたんだ。だけどやり方が良くないなぁ。
私のマンションは大丈夫なんでしょうか?
このままじゃまずいね。正しく処置をしてもらわないと、建物の寿命が縮んでしまう。
どうしてジャンカはできるのか
鉄筋コンクリートは鉄筋で骨組みを作った後に、型枠で壁の形を作ります。その型枠の中に生コンを流し込んで、固まったら型枠を外して出来上がりです。生コンを流す時にバイブレーターを使って狭いところに生コンを流し込むのですが、バイブレーターの掛け方が十分でなかったりするなどして、一部にコンクリートが入りきれないことがあります。それがジャンカです。また複雑な形状の型枠などでも発生することがあります。
①ジャンカが引き起こす問題
小さなジャンカであれば大問題という訳ではないですが、大きさや位置によっては大きな問題を引き起こすことになります。空洞ができるような大きなジャンカの場合、その部分にコンクリートが詰まっていないので強度不足になっている可能性があります。また鉄筋が見えるほどの空洞になっている場合は、水の侵入によって鉄筋の腐食が進行する可能性があります。
②ジャンカの補修
最初にジャンカ部分をハツリと呼ばれる工事で削り落とします。モルタルで埋める時に、ジャンカのまま補修しても強度が弱くなるからです。特に砂利が見えている部分はキレイに削り落としていきます。そしてモルタルで埋めるのですが、普通のモルタルではなく無収縮モルタルを使います。普通のモルタルは乾いて硬化する中で収縮していきます。そのため元々の壁のコンクリートと充填したモルタルの間に隙間ができてしまうのです。そこで収縮しない無収縮モルタルを使ってジャンカでできた穴を充填するのです。
診察の続き
ちゃんとしたやり方で塞いでいなかったんでしょうね。でもモルタルが指で押したらポロポロ取れるのはおかしくありませんか?
それはドライアウトを起こしてたんじゃないかなぁ。
ドライアウト・・・?
乾いたコンクリートにモルタルを塗ると、モルタルの水分が一気にコンクリートに吸い取られてしまって、モルタルが硬化できないんだ。だから強度がなくてボロボロになってしまう。
どうすればいいんですか?
今のモルタルとジャンカ部分をキレイにハツリ取って、無収縮モルタルで補修する。ハツリをした後の穴が大きければ、コンクリートを使って補修することになります。補修をきちんとやれば、問題はありませんよ。補修業者さんに、キチンと補修してもらってください。
わかりました。
まとめ
マンションの躯体は骨組みで、マンションを支える重要な役割を果たしています。その骨組みのコンクリートがスカスカになっていたり穴が空いていたりするのは、人間で言うなら骨粗しょう症になります。本来は新築時にキチンと補修しておくべきなのですが、補修が不十分な物件を見かけます。ジャンカは建物の寿命を縮めるので、見つけたら早めに処置をするようにしましょう。