この道◯十年を信じてはいけない

雨漏れが起こったマンションでコンサルタントを行っていると、私は何度も管理会社の方や ゼネコン の方と衝突しました。そして衝突する方の多くが自分は◯十年の経験があり、その経験から言って間違いないと断言してきます。しかし◯十年の経験って、大した経験じゃないことが多いんです。今回は経験と年数の話、そしてなぜ経験年数で信用できないかを書いてみます。

経験は年数ではない

マンションで雨漏りがあった時、30年の現場経験がある大手ゼネコンの現場所長さんがこうした方がいいと言ったら、大抵の人は信用すると思います。もちろんこういう方は、私なんかより経験豊かで幅広い知識を持っています。しかし30年のゼネコンの経験では、雨漏り事故に関してあまりご存じないことがよくあります。

ゼネコンで物件を担当できるのは、1年間でせいぜい1物件です。掛け持ちや応援で2つ3つを見ることもありますが、防水工事を応援で管理することはそんなにないでしょう。そう考えると30年間で防水工事を行うのは30件、多くて50件くらいだと思います。さらにその中でアフターサービスとして漏水対応を行なったのは、ごくごく一部しかないでしょう。毎回工事をする度に雨漏れを起こすようなら、現場所長にはなれないからです。

※アスファルト防水工事

防水工事を行ったのが30件程度なら、運が良ければ雨漏れは起こりません。防水工事は他の工事に比べて少し特殊で、デタラメな工事でも雨が漏らなければ100点ですし、どんなに丁寧に工事しても雨漏れがあれば0点になる結果論の世界です。デタラメとまでいかなくても、かなり危なっかしい工事のまま雨漏れを起こさずに大規模修繕を迎えるマンションはいくつもありました。ですからわずか数十件の経験では、本当に雨漏れを起こさない工事を行なっていたかわかりません。単に運が良かっただけということもあるのです。雨漏れを起こしたとしても、30物件のうちの数件ですから、それほど多くの経験を積んでいるとは言えないのです。

防水詳細図集の作成とアフターサービス

私はライオンズマンションを販売する大京に15年いましたが、この会社は割と真面目で、雨漏れ事例が多いからと標準ディテール集を作ることになりました。私もメンバーの1人になり、設計事務所、ゼネコン、防水材メーカーを呼んで半年ほど議論を重ねて「防水詳細図集」というのを作りました。この時に大京が経験した数百の雨漏れ事例に加えて、ゼネコンや設計事務所、メーカーの雨漏れ経験が出されて、何が原因でどういう対応をしたかが話し合われました。マンション デベロッパー で、これほど集中的に雨漏れが議論された例は、他にはないと思います。

私が「防水詳細図集」をまとめて全支店に配布すると、各担当者がゼネコンに配布しました。そしていつの間にか他のマンションデベロッパーにも渡っていました。今でも某デベロッパーの標準仕様として流通している仕様書に、私が書いた絵が載っていることがあります。大京がまとめた「防水詳細図集」は、今でもマンションの防水工事の基本となっているのです。

その後、私は本社のアフターサービスセンターに異動するのですが、毎週のように雨漏れは議論されていました。大京のライオンズマンションだけで6000棟以上あり、関連会社や元関連会社の物件までアフターサービスセンターに来るのですから、ほぼ毎週のように雨漏れの話がやってきます。年間50件近い事例が上がり、ここが漏れた、こうしたけどまた漏れたみたいなことが繰り返されるのです。その中で自分が足を運ぶのはほんの一部ですが、「防水詳細図集」の改定もしなくてはいけないので、大抵の事例を見てヒアリングを繰り返すこともありました。

先程、私は30件から50件程度の防水工事の経験は大したことないかのように書きましたが、その程度の件数は大京の本社にいれば1年で経験する件数だからです。私はこれを10年以上繰り返してきました。これが防水材メーカーならもっと多く、1年で数百件の事例を扱うことになります。ですから何十年も建築の経験があるからと言って、その分野に詳しいかは全く別なのです。「30年の経験で何件の漏水に対処しましたか?」と質問すれば頑張って盛った件数を言う人がほとんどですが、100件や200件程度の経験数は大した数字ではないのです。

専門業者であっても詳しくない人もいる

残念ながら、何十年もやっている施工業者さんにも同じことが言えます。施工業者なら何十年もその工事をやっているから経験豊かのように思うかもしれませんが、そうとも言い切れません。雨漏れがあるたびに理屈をつけて逃げ回る業者もいます。またゼネコンから指示されたことをそのまま行うだけで、自分達で考えないで言われるままに仕事をしている業者もいます。

もちろん常に最新の材料や工法、事例を研究している業者もたくさんいます。大手ゼネコンの現場でも、指示された工事内容に意見する責任感の強い業者もいます。しかしそういう優れた業者を見分けるのは、一般の方には難しいのが現実です。私は少し話せばある程度の力量がわかりますが、それも絶対ではありません。安心していたら、全く本番ではダメだったという経験もあります。ダメな業者は言い逃れが上手く、口が達者なので話しただけでは見分けきれないことがあるのです。

理論に裏打ちされない経験は独りよがり

建築の工事にはさまざまなルールがあります。有名なところでは国土交通省の大臣官房庁営繕部が出している「公共建築工事共通仕様書」という本です。これは公共工事を行う際に必須の仕様書ですが、ほとんどの民間工事もこれに準じて行われます。なぜなら何万件、何十万件という公共工事が行われた中で、失敗事例や竣工後のトラブルなどが検証されて、その知恵がこの一冊に集約されているからです。

そのため、この共通仕様書から逸脱した工事を行えば「国土交通省以上の見識があるのですか?」と問われることになります。どんな建築屋であっても何十万件もの工事経験はありませんから、共通仕様書を否定することは困難なのです。しかし現実には、共通仕様書から外れた工事をする人は大量にいます。さらに驚くべきことに、共通仕様書を持っていない、読んだこともない業者もいました。

そういう業者は常に自分たちの経験を語りたがります。しかし何十年工事を行おうが、国土交通省が行ってきた公共工事の経験値に比べればわずかな経験に過ぎません。経験は貴重な財産ですが、理論に裏打ちされずに経験だけ語るようでは、それは独りよがりなやり方でしかないのです。そして残念なことに、このような業者、職人は日本中に大量にいます。

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まとめ

今回は防水工事と雨漏れに関して書きましたが、他の工事も同様です。最近は管理会社を通さずに、マンションの理事会が自分たちで修繕業者に直接発注するケースが増えています。業者を選ぶ際に、この道◯十年という経験だけで任せるのは危険なことなのです。その人がどんな経験を積んできたか、どんな経歴の持ち主かが重要になってきます。業者選びは難しいので、ご相談も受け付けています。業者選びに悩んだら、以下のメールフォームからご一報ください。

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