エレベーターの既存不適格をどうすれば良いのか?

エレベーターは定期検査を行う必要がありますが、その検査結果に「合格」ではなく「既存不適格」と書かれることがあります。既存不適格と書かれたことで、心配する管理組合もあるみたいです。中には管理会社を問い詰める理事会もいて、管理会社が上手く説明できないと混乱が起こることもあります。今回はこの「既存不適格」に関して解説します。エレベーターの既存不適格をどうすれば良いのかを考えていきます。

エレベーターの定期検査

エレベーターの定期検査は、建築基準法第12条3項に基づいた検査です。法律で決められていることなので、行わないわけにはいきません。定期検査は検査者が、1年ごとにエレベーターが国土交通大臣が認める基準を満たしているかを調べます。検査を終えると定期検査報告済証が発行されます。

エレベーターの安全を確認する検査であり、法律で決められている検査なので、やっていないマンションというのは、ほとんどないと思います。先に書いた既存不適格は、この検査報告に記載されるのです。安全性を確認する検査で不適格という文字を見ると、まるでエレベーターが安全ではないような印象を受けますね。

既存不適格とは

建設当時の法律には適合していたが、その後の法改正によって法律に適合しなくなったことを既存不適格と言います。これはエレベーターに限らず、マンションそのものにも既存不適格になっているケースがあります。マンションは何十年も壊されずに残っているので、既存不適格になることは決して特殊なことではありません。マンションやエレベーターが悪いのではなく、後から法律が変わっただけなのです。

法律を変えた2つの出来事

2009年(平成21年)に、エレベーターに関する大きな法改正がありました。これには2つの大きな事件が関係しています。

①千葉県北西部地震

2005年7月23日に、千葉市付近を震源とした地震が発生しました。地震規模はマグニチュード6.0、最大震度は足立区の5強で、2名の死者と6000件以上の停電を引き起こしました。この地震で話題になったのはエレベーターでした。

6万台以上のエレベーターが停止し、78台で人の閉じ込めが起こりました。東京都庁のエレベーターも停止し、展望台にいた200人が降りられないトラブルが発生しました。エレベーターの閉じ込めは社会問題化していき、国土交通省も対応を検討することになりました。

②シンドラーエレベータ社の事故

2006年6月3日、東京都港区の特定公共賃貸住宅「シティハイツ竹芝」で、自転車に乗ったまま乗降中の高校生が、突如上昇したエレベーターに挟まれて死亡する事故が起こりました。昇降操作をしていないにも関わらず勝手に動き出した異常な挙動による死亡事故で、エレベーターの安全性を揺るがす大事件になりました。

国土交通省はシンドラーエレベータ社のエレベーター6000機以上の緊急点検を実施しました。これに伴いエレベーターの異常な挙動やワイヤーロープが破断しかかっている様子などが次々に報じられるようになり、エレベーターの安全性が疑問視されるようになります。

2009年(平成21年)の法改正

これらの地震や事故をうけて、国土交通省はエレベーターの法改正に着手しました。主な改正点は次の2つになります。

①ブレーキの二重化

扉が閉じる前にエレベーターが動き出そうとしたら、自動的にエレベーターを止める安全装置の設置が義務付けられました。これはシンドラーエレベータ社の事故で、自転車を押しながらエレベーターに乗り込む際に勝手にカゴが動いて圧死したことをうけて、設置が義務付けられたものです。

②地震管制運転装置

地震の揺れを感じると、エレベーターが自動的に最寄り階に停止して扉を開ける装置の設置を義務付けました。この装置は以前からありましたが、費用がかかるためマンションによってつけたりつけなかったりしたのですが、千葉県北西部地震ではこの装置により閉じ込めが回避された例が多かったので、法律で設置が義務付けられたのです。

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既存不適格は違法状態なのか?

現在、エレベーターの定期検査で既存不適格と書かれるのは、ほとんどがこの法改正に対応していないからです。当然ながら2009年以前のマンションの多くは、これらの装置が設置されていません。既存不適格となるのは当たり前なのです。そこで既存不適格とされると違法状態になるのかという質問を受けることもありますが、違法ではありません。

法律には不遡及(ふそきゅう)の原則というのがあります。新たな法律ができた時に、さかのぼって適用しないということです。これはエレベーターの法改正にも当てはまり、建築基準法第3条2項にも「適用の除外」として記されています。そのため既存不適格であったとしても違法というわけではなく、何かペナルティを受けるわけでもありません。

すぐに既存不適格を解消するべきか

既存不適格と書かれたからと言って、違法ではないのですから慌てる必要はありません。既存不適格の状態を解消するにはエレベーターの台数にもよりますが、あっという間に数百万円の費用がかかることもあります。エレベーターの寿命は20年程度と言われていますが、多くのマンションは20年以上経ってから交換工事を行います。2000年頃に竣工したマンションは、そろそろ交換の話がちらほら出ているでしょう。そんなマンションが現在のエレベーターに新たに安全装置を取り付け、数年後にエレベーターの交換工事を行うのは費用がかかりすぎます。既存不適格は解消した方が良いのですが、慌てる必要はないと思います。

安全性はどれほど違うのか?

元からエレベーターは安全装置だらけでした。箱をロープで吊るして人を上階に運ぶというエレベーターは、出来た当初からロープが切れる恐怖が付き纏いました。エリシャ・オーチスがロープが切れても落ちないエレベーターを発表したのが1853年で、それ以降エレベーターは安全装置を次々に加えていきました。現在の日本のエレベーターはセンサーだらけで、過剰なほど安全性に気をつかっています。そのため新たな安全装置を取り付けることは安全性の向上につながることは間違いないのですが、劇的に安全性が向上するというわけではありません。

また地震管制運転装置に関しては、地震の初期微動(P波)を感じるとエレベーターを止めるのですが、震源が近いとP波と本震(S波)がほぼ同時に来ることがあり、想定通りに動かないことがあります。閉じ込め防止に効果を発揮した装置ですが、必ず閉じ込めを防止してくれるわけでは無いのです。あまり劇的な効果を期待すると、期待外れになるかもしれません。

まとめ

既存不適格とは建設時は適法でしたが、その後の法改正によって現行法にはそぐわないようになってしまった状態です。違法ではないため、なんらかのペナルティを受けることはありません。ですから定期検査で既存不適格と書かれても、慌てる必要はないのです。安全装置を新設することで既存不適格は解消されますが、高額な工事になるためエレベーターの交換工事の時期を見ながら考えていきましょう。

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