エレベーターの防犯対策を考える /かつては犯罪が多かった密室

マンションのエレベーターで防犯性が意識されるようになったのは、2000年代に入ってからだと思います。密室となるエレベーターで、男性と2人きりになるのが怖いという女性の声が聞かれるようになり、防犯性を高める試みが一気に広がりました。今回はエレベーターの防犯対策を考えると題して、マンションデベロッパーがエレベーターの防犯をどのように考えてきたのかを書いていきます。

エレベーター犯罪は古くからある

以前は警察庁が発表している警察白書には、エレベーター犯罪の項目がありました。昭和57年(1982年)の警察白書には「また、マンションやアパートのエレベーター内を利用した計画的な強盗、強姦(かん)等のいわゆるエレベーター犯罪が71件と多発した。」と書かれていて、かなり前からエレベーターを使った犯罪があることがわかります。

昭和59年の警察白書には過去3年間のエレベーター犯罪を表にまとめてあり、「被害者は、73人中、女性が68人(93.2%)と圧倒的に多く、27人(37.0%)が13歳以下の女子であった。」と書かれていて、女性や女児が狙われる事件が多いことがわかります。

昭和59年の警察白書を元に作成

このようにエレベーターが増えてくると、密室になる場所であるがゆえに犯罪も急激に増えています。私がマンションの建設や企画に関わるようになるのは平成に入ってからなので、昭和の変化はわかりません。しかし犯罪の増加によって、エレベーターに防犯カメラを設置することが普及したのは容易に想像がつきます。

エレベーターで犯罪が発生しやすい理由

エレベーターは密室になるうえに、何かが起こった際にも指定した階に着くまで降りられないようになっています。誰もが乗るのに誰にも見られることなく、一定の時間を犯罪行為に使えるのです。またエレベーターを出てから逃げやすいということもあり、ひったくりなどの一瞬でできる犯罪に向いた場所だと言えるでしょう。

また警察白書には継続的にエレベーター犯罪の項目があるわけではなく、現在では個別の事例で書かれているだけです。恐らくですが、上記の昭和56年から58年頃はオートロックはほとんどなく、誰でもマンション内に入ることができました。しかし現在のようにオートロックが当たり前になり、セキュリティ意識が高くなった現在では、この頃ほどマンションのエレベーターで犯罪が発生しているわけではないのだと思われます。

①エレベーターの防犯対策:防犯カメラ

マンションに限らず、現在では多くのエレベーターの天井に防犯カメラが設置してあります。誰にも見られていない密室にカメラを設置することで、第三者の目を意識させることができます。多くの場合、防犯カメラには録画機能がついていて、中の様子を後から確認することができます。

商業施設のエレベーターは警備員室でモニターされていることが多く、トラブルが発生すると警備員が現場に急行したり警察に連絡をしたりします。一方、マンションでは誰かが常にモニターしているというケースは少数です。多くの場合は録画機能のみですが、十分な抑止効果を期待できます。

また1階のエレベーター前にモニターを設置し、エレベーター内の様子が見えるようにしているマンションもあります。これはエレベーター利用者に見られているという意識づけを行う効果があり、犯罪の抑止効果に繋がっています。

②エレベーターの防犯対策:扉の窓

扉に窓があることでエレベーター内の圧迫感を和らげる効果がありますが、同時に防犯カメラと同様に、エレベーター内を密室にしない効果があります。誰かに見られていると意識づけるためのもので、各階にいる人はエレベーターが通過する時にカゴの中の様子がわかります。

③エレベーターの防犯対策:カゴ内の鏡

女性が1人でエレベーターに乗る際に、どの位置に立つのが安全なのでしょうか。一般的に操作パネルの前に、パネルに向かって立つのが良いとされています。出口に最も近い位置であり、非常ボタンをすぐに押せるからです。パネルに向かって立たなければ、すぐに非常ボタンを押すことはできません。そうなると背後にいる人の様子がわからないので、それはそれで不安になります。そこで操作パネルの上に鏡を設置し、背後の人の様子を伺えるようにしています。

エレベーターの壁に大きな鏡が設置してある場合もありますが、あれは防犯用ではなく車椅子の人のためのものです。エレベーターに車椅子で乗ってきた人は、カゴの中で旋回できる広さがなければバックしながら降りることになります。そのため正面に鏡があると、背後を確認しながらエレベーターから降りることができるのです。

④エレベーターの防犯対策:タッチキー式

あまり普及しませんでしたが、1階部分にマンションの鍵をかざすことで、エレベーターを呼ぶことができる仕組みがあります。これはエントランスのオートロックを共連れなどで入ってきた部外者が、エレベーターに乗れないようにする仕組みです。鍵をかざさずにエレベーターのボタンを押しても、ボタンがロックされて扉が開かないので乗れません。

鍵をかざしてエレベーターを呼ぶことができるタイプと、鍵をかざしてエレベーターに乗ると操作パネルを操作せずに自分が住む階まで連れて行ってくれるタイプがあります。後者の方が高級モデルですが、私が在籍していたデベロッパーでは途中から採用しなくなりました。もし知らない人がエレベーターに乗り込んできた場合、自分が何階に住んでいるのか知られてしまいます。社内の女性陣から評判が悪く、採用しなくなりました。

防犯装置の思わぬ効果

こういった防犯対策を行った結果、どれほど効果があったのかは不明です。しかし某エリアでは地域住民のガラが決して良くなく、新築マンションでもすぐにエレベーター内に落書きをされたりするのですが、防犯カメラやモニター、扉の窓を設置したマンションでは落書きが全く発生していませんでした。見られているという意識があるので、抑止効果が働いたのだと思います。

犯罪が毎年のように起こるマンションなら比較のしようがありますが、そのようなマンションはないのでどれほど防犯効果があるのかは証明のしようがありません。しかし落書きでさえ減ったのですから、一定の防犯効果があると考えて良いでしょう。

まとめ

エレベーターは密室になるため、以前は犯罪が多く発生していました。そのためさまざまな防犯の工夫が行われるようになりました。エレベーターでの防犯の基本は、外部に見られていることを意識させることです。そのため防犯だけでなく、悪戯の防止にも役立っています。既存のマンションに防犯装置を追加する場合は、どの機器がどのような効果を発揮するのか知ったうえで設置しましょう。

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