ハリボテマンション騒動 /信用できない建築士

姉歯建築士の騒動を覚えているでしょうか。姉歯設計という構造設計屋さんが、構造計算書を偽造したことで起こった社会的な事件で、マンション デベロッパー は対応に追われることになりました。姉歯設計がとんでもない設計士だったことは当然ですが、今回はこの騒ぎに便乗してデタラメを吹聴した建築士の話です。

姉歯事件とは

2005年11月、国土交通省が姉歯建築士が構造計算書の計算結果を改竄したことを発表しました。構造計算書は地震に対する建物の強度を計算したものです。姉歯建築士が関わった建物がマンションだったため、マンションの安全性を根幹から揺るがす大事件に発展しました。

国土交通省は匿名の電話による告発を元に調査を進めていて、構造計算書を検証した結果、偽造があることを突き止めていました。当初は姉歯建築士が関与したマンションだけが問題視されていましたが、他のマンションでも偽造が発覚すると、騒動は全国のマンションに広がっていき、全国のマンション住民が「自分が住むマンションは大丈夫なのか?」と不安に陥りました。

トッコウタイと名付けられたチーム

当時、品質管理室にいた私は別の調査に取り掛かっていたので、他のメンバーが自社のマンションに姉歯建築士が関わっていないか調査するのを横で眺めていました。しかし問題が姉歯建築士以外にも広がると、全国からかかってくる問い合わせの電話が殺到するようになり、専用線を応接室の1つに敷いてかかりきりで電話対応するチームができました。

そのチームと連動して、今後の対応方法の検証や過去物件の安全性の調査などをするチームが作られました。「特別構造問題対策室」略して「特構対」トッコウタイと名付けられ、私もその中に入ってしまいました。その日から朝から晩まで構造問題に追われ、加熱するメディアの動向を知るために各局のニュース番組も欠かさず見るようにしていました。メディアの報道の仕方によって、問い合わせに電話の内容が変わってくるからです。

平日夜のニュース番組

その番組では、一級建築士の資格を持つ建築士を招いて構造問題の今後について話していました。VTRの中で、その建築士は驚くべきことを語ります。偽造が発覚したマンションを訪ねて視察し、梁を見て「この梁が小さすぎます。ここが偽造された部分ですね」と指摘したのです。思わず「見ただけで偽造わかるお前は超能力者か!」とテレビにツッコミを入れてしまいましたが、この建築士の発言はこれで終わりませんでした。

マンションの梁を叩いてポコポコと空洞の音がするのを聞かせて「音で分かりますよね。これは梁じゃないんです。ハリボテなんですよ」と言い出しました。横にいた局アナも梁を叩いてみて「確かにハリボテです」と驚いた様子でレポートしていました。

リビングの梁にキッチンやお風呂から繋がる換気ダクトを抱かせるのは、マンション建築では一般的に行われていることです。そのためその梁を叩くとポコポコと空洞の音がします。これは換気扇が集めた湿った空気を外部に逃すのに、リビングの天井のど真ん中にダクトを通すと見栄えが悪くなるからで、梁を大きく見せるためにやっていることではありません。むしろマンション販売では梁が嫌われるので、小さく見せたいくらいなのです。

建設されたマンションを見れば偽造がわかると断言することから、この建築士が構造設計に関して無知だということが明らかですし、換気ダクトのルートすら知らないということは、マンション建築に関しても全くの素人だというのが明らかでした。このような素人の思い込みを、一級建築士というだけで全国ネットで放送されることに怒りを覚えました。

会社は大混乱

翌朝、早めに会社に到着するとトッコウタイでは、このテレビのことで持ちきりでした。部長に至っては「あの建築士を雇おうぜ。見るだけで分かるなら、こんな多勢のチームがなくても済むもんな」と笑って話してました。そして朝の9時になると、問い合わせの電話が殺到します。人気報道番組だったこともあり、全国で何万人という不安を感じていた人が、一斉に自宅の梁を叩いたのです。「私のマンションもハリボテでした。すぐにどうにかしてください」という電話が鳴り続け、全員が対応に追われることになりました。

しかし全国ネットの人気報道番組で指摘された内容を、私たちが「あの建築士の説明は間違いです」と言い続けても、説得力に欠けてしまいます。ヒステリーを起こす人、何時間も怒鳴り続ける人もいて、全員が疲れ果ててしまいました。その日だけで、すぐにマンションを見に来いという人が大勢いいて、とても対処しきれない状態でした。

建築士もさまざま

一級建築士と言っても専門分野があるのでさまざまです。店舗設計を専門にしている人、個人住宅専門の人、集合住宅と言ってもアパートなどの仕事がメインの人など、建築物には多くの種類があるので、一級建築士ならマンションの問題がわかるというわけではありません。離婚訴訟を中心に仕事をしている弁護士に、殺人事件弁護を依頼するようなもので、大枠のことは分かっても細部はサッパリということになりかねません。建築士も弁護士も専門性が高いので、なんでもわかるわけではないのです。

ちなみにこの建築士は、これ以降はテレビで見ることがありませんでした。おそらく相当数の抗議がテレビ局に入ったのだと思います。しかし一度テレビで流れたものは信憑性を持ってしまい、まるで真実のように流布されていきます。これは建築の問題に限らず、年金問題や医療事故、福島第一原発の放射線問題でも起こったことなんですけどね。とにかくしばらくは、この建築士が吹聴した内容に悩まされることになりました。

まとめ

マンションでトラブルがあると、組合員の知り合いの設計事務所の人とか、 ゼネコン の人を知っているとかで、知り合いを頼るケースが多くあります。もちろんそれはそれで良いのですが、その人がマンションの専門的な知識を持っているかは別問題です。またコンサルタントの中にも、建築全般を扱っていて、マンションの知識が乏しい人は大勢います。

私は自分のお客さんに、なるべく多くの方の意見を聞いて、最も信頼できる人を選んで下さいとお願いしています。本当にマンションに詳しく、自分たちに寄り添ってくれる専門家を選ばないと、マンションの将来がとんでもない方向に進んでしまうことになりかねません。専門家の方々の多くの意見を聞くようにしましょう。

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