バルコニーからの転落事故をどう防ぐ? /実は高齢者の転落事故が絶えない現状

6月に入り、幼児のマンションからの転落事故が相次いでいます。いずれも目を離した隙にバルコニーから転落していて、わずかな時間でもマンションで幼児から目を話すのは危険だと思い知らされます。そこで今回は、マンションのバルコニーからの転落事故をどう防ぐか考えて見たいと思います。

事故事例

2020年6月8日 福岡県久留米市の19階建てのマンションの18階のバルコニーから、4歳女児が転落して死亡。

2020年6月15日 北海道札幌市の7階建てマンションの駐車場に、5歳男児が意識不明で倒れているのが発見される。自宅から転落したとみて捜査。

2020年6月16日 神奈川県横浜市のマンションで、5歳女児が8階のバルコニーから転落して死亡。

2020年6月27日 神奈川県山北町のマンションで、4歳女児が6階から転落して死亡。バルコニーから転落したと思われる。

バルコニーからの転落者数

総務省が出している人口動態調査を見る事で、ある程度の事故の数字がわかります。2018年の人口動態調査を見ると「W13 建物又は建造物からの転落」で437人が亡くなっています。年齢別に見ると、最も多いのは65歳から79歳の高齢者で147人になっています。次に多いのが45歳から64歳の110人、80歳以上の100人と続きます。現在は幼児の転落が話題になっていますが、1歳から4歳までの転落は3人です。

※総務省人口動態調査2018より

バルコニーからの転落事故は、幼児よりも高齢者が多いのは他の年のデータを見ても明らかで、転落対策は幼児よりも高齢者対策の方が急務にも見えます。幼児はバルコニーに出るのが難しいのに対し、高齢者は簡単にバルコニーに行けるというのが大きいと思います。しかし幼児の死因を不慮の事故だけに絞ると、建物からの転落は交通事故に次ぐ死因になっています。幼児の転落についても決して軽んじるわけにはいきません。

法律による転落防止規制

手すりの高さは建築基準法により規定されています。

建築基準法施行令第126条(屋上広場等)第一項「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1m以上の手すり壁、さくまたは金網を設けなければならない」

転落防止のための法律による規定はこれだけです。品確法にも手すりの高さが定められてはいますが、この建築基準法を補足する内容になっています。法律では1.1mの高さの手すりを設置すれば、転落防止対策を行ったことになるわけです。これによりほとんどのバルコニー手すりの高さが、1.1m〜1.2m程度になっています。ではもっと高くすれば良いのではないかという議論もありますが、それができない事情があります。昭和61年4月30日の建設省住宅指導課発115号通達が関連しています。

(4)吹きさらしの廊下
外気に有効に開放されている部分の高さが、1.1m以上であり、かつ、天井の高さの1/2以上である廊下については、幅2mまでの部分を床面積に算入しない。

バルコニー手すりの高さを1.5mにしようとしても、床から天井までの高さが2.5mしかなければ「外気に有効に開放されている部分」が1mしかなく、天井の高さの1/2以上にならないので、バルコニーの床が面積に算入されてしまうのです。バルコニーの床が面積に算入されると、それぞれの部屋を狭くしなくてはならなくなります。そのため多くのマンションでは、手すりの高さが1.1m〜1.2m程度になっているのです。

その他の規制

(財)ベターリビングの評価基準に、手すりの立て格子の幅は110mm以内にすることが定められています。この110mmの幅は住宅都市整備公団の基準に定められていたものですが、今ではメーカー基準にしているところも多く、ほとんどの手すりは格子の幅を110mm以内にしています。これは乳児の頭が出ないサイズということで定められたようです。

法律には限界がある

遊具の実験などから、手すりの高さ1.1mでは多くの4歳児が乗り越えられることがわかっています。乗り越えるほどの筋力がない子供でも、足がかりになるものがあれば、簡単に乗り越えられます。たとえ手すりの高さを1.5mにしても、足がかりがあれば意味がありません。しかしバルコニーに置いてあるものの多くは足がかりになりやすく、これらを法律で規制するのは困難です。バルコニーは共用部とはいえ専有使用権があるので、私有地での行為を法律で禁じるのは難しいのです。

※アラブ首長国連邦 アブダビ警察の注意喚起写真より

開口部を完全に閉じてしまえば転落は起こりませんが、換気の問題や上記のように部屋の面積を小さくしなくてはならなくなってしまいます。バルコニーに足がかりになるものを置かないように法律で決めようにも、私有地内での個人の行動を制限する法律は多くの反対を生むと思われます。日本人は私権を制限することに関して、世界的にも敏感な国民性があります。法律どころか指導さえも、政府が私生活に口を出してきたと猛反発があるのは必至です。もちろん子供の転落防止に行政が何をできるかは考えなくてはいけませんが、このような状況を考えると行政が決定的な解決策を生み出すとは思えないのです。

幼児の転落を防止するには

幼児の転落を防止するには、窓に補助錠を設置するのが有効です。2歳児でもクレセントを自ら開けて転落したと思われる事例もあるので、クレセントを開けても窓が開かないようにするためのものです。サッシの下につけるものもありますが、子供の手が届かない上部につけるのが良いでしょう。

※手軽に使えると評判の「ワンタッチ・シマリ」

補助錠をつけると換気ができないという声もありますが、最近は少しだけ開けておくことができる補助錠も出てきています。夏場に窓を少し開けておきたい場合には、換気タイプを使うことをお勧めします。補助錠の強度は商品によってそれぞれですし、取り付け方もさまざまです。ホームセンターなどでいくつか手にとって、確認してください。

まとめ

幼児のバルコニーからの転落が続いていますが、実際には高齢者の転落が多いのが現状です。しかし法律などによる規制では防ぎきれません。補助錠をつけるなどして、各家庭で対策をしましょう。

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