マンションのアスベスト問題に管理組合はどう対応するか

マンションのアスベストに関して、質問をいただくことがあります。発がん性物質として厳しく規制されるアスベストですが、アスベストを吸ったらすぐにがんになるわけでありません。ただマンション内にアスベストがある場合は、その種類によっては早めに対応することが必要になります。今回はアスベストの歴史とアスベストの種類について、書いてみたいと思います。アスベストは、正しい知識で正しく怖がることが重要になります。

アスベストとは何か

アスベストは日本語で石綿と書かれ、繊維状に変形した天然の鉱物です。古代エジプトやローマ帝国の時代から使われていて、さまざまな分野で用いられてきました。耐久性、耐熱性、対薬品性に優れ、電気の絶縁性も高いうえに価格は安価で大量生産に向いていたため、奇跡の鉱物と呼ばれていました。そのため建築資材、電化製品、自動車、船舶、家庭用品など、ありとあらゆる工業製品に使われていきます。

アスベスト問題の発生

戦前のドイツではアスベストと肺がんの関連が指摘されていましたが、戦争に入るとそれらは忘れられてしまいます。再び注目されるのは1960年代で、世界最大のアスベストメーカーであるアメリカのジョンズ・マンビル社に対する訴訟でした。1973年に製造者責任が認められ、ジョンズ・マンビル社は倒産に追い込まれることになりました。このことが世界的にアスベストの使用制限に向かわせました。

日本ではジョンズ・マンビルの製造者責任が確定した後、75年に吹付アスベストが禁止されました。規制は徐々に行われていき、2005年に石綿障害予防規則が施行され、日本での石綿製造は終焉しました。全面禁止に至るのに30年もかかったため、政府の責任を追求する声もありました。しかし石綿が肺がんを引き起こすメカニズムがはっきりしておらず、原因がわからないまま製造者に責任を負わせる政治的な駆け引きが必要だったのです。

現在では、アスベストが肺がんを引き起こすメカニズムとして、スタントン・ポット仮説が最有力となっています。石綿の繊維1本は直径0.02-0.35 μm程度で、髪の毛の太さの5000分の1程度です。一方、肺の気管支の先端にある肺胞は直径が200-300μmで、その入り口は直径数十μmのためアスベストの繊維が入り込めてしまいます。入り込んだのが羊毛などの有機物であれば免疫細胞(マクロファージ)が分解しますが、アスベストは鉱物なので分解できず、がんの発生原因になると言うものです。

現在はこの仮説が有力なので、アスベストは肺に入らなければ有害にならず、例えば食べてしまっても健康被害は起こらないとされています。上水道管にはアスベスト管が使われているため、今でも水道水にはアスベストが含まれていることがあります。しかしWHOをはじめ、水道水に含まれるアスベストは危険とはされていません。あくまでも肺に入ることで危険性があるとされています。

アスベストのレベルとは

アスベストは粉じんの発生しやすさ(発じん性)でレベル1から3に分けられています。

レベル1:発じん性が著しく高い

アスベストとセメントを混ぜた石綿吹付材が該当します。以前は断熱材として、鉄骨などに吹き付けられていました。アスベスト濃度が極めて高く、撤去作業中に大量の粉じんが発生するため、最も厳重な撤去方法が用いられます。マンションでは機械式駐車場や鉄骨で造られた外階段などで見ることがあります。また鉄骨造のマンションでは、鉄骨の梁や柱に吹き付けられていることがあります。

レベル2:発じん性が高い

石綿含有の保温材、耐火被覆材、断熱材などが該当します。レベル1のような綿状ではなくシートのようになっているため、レベル1ほど発じん性が高いわけではありません。そのままの状態ではアスベストが飛散することはありませんが、解体作業の最中には大量に飛散します。そのためレベル1に次いで厳重な対策を行って解体を行う必要があります。

レベル3:発じん性が低い

アスベストを含んだ成形版やビニール床タイルなどがレベル3になります。建材そのものが割れにくいので、解体時には手作業で行えばアスベストの飛散は最小限に抑えられます。解体工事を行わなければアスベストは飛散しませんし、解体工事そのものもレベル1やレベル2より簡易的なものになります。

マンションのどの部分に使われているのか

以下の内容は全てのマンションに使われているわけではありません。古いマンションで使われている場合があるということに注意してください。多くのマンションでは管理会社や売主が調査を行っており、大抵の場合はアスベストを含む建材が使われている場合は、管理組合に知らされています。

①鉄骨造・鉄骨を使ったマンション

鉄骨造の場合、鉄骨の梁や柱に耐火被覆としてレベル1の石綿吹付材が使用されている場合があります。また鉄筋コンクリート造のマンションでも、鉄骨階段や機械式駐車場で鉄骨を使っている場合は、同じく石綿吹付材が使用されていることがあります。

②鉄筋コンクリートのマンション

外壁にレベル2の石綿含有のモルタルが使われている場合があります。また最上階の天井裏に、断熱材として石綿吹付材が使われていることがあります。

③構造に関係なく使われているもの

レベル2のアスベスト含有の排水管をはじめ、石綿含有の保温剤や耐火被覆板が使われていることがあります。レベル3は内装仕上げ材のスレートボード、石膏板、フレキシブルボード、ビニール床シート、ソフトビニール巾木、その接着剤など多くのものに含まれていた時期があります。また外構には石綿入りのサイディングが使われていることがあります。

詳細は国土交通省のこちらの資料に出ていますので、参照してください。
目で見るアスベスト建材

疑わしい場合は調査を

アスベストが使われているかもしれない場合は、専門機関に調査を依頼しましょう。内装関連はリフォーム工事の際にアスベストが飛散する可能性があるので、リフォーム工事が行われる際には注意喚起が必要になります。特にレベル1や2が使われている場合、アスベストの封じ込めや囲い込みのための養生が必要になります。そのまま工事をされるとアスベストが飛散して、大変なことになるからです。

共用部の修繕工事も同様で、近隣にアスベストを撒き散らすことになりかねません。マンションの資産価値に影響する部分なので、撤去工事を行うことも視野に入れて管理組合で話し合う必要もあります。まず実態を知らなければ、対策の立てようもありません。

まとめ

アスベストは危険な発がん性物質で、かつてはマンションの建材に多く使われていました。しかしレベル1のアスベストならともかく、レベル2やレベル3ならばすぐに危険というわけではありません。解体しなければ飛散しないので、健康に問題はないと考えられます。そのためいたずらに怖がる必要はなく、必要以上に騒ぐことはありません。しかしリフォームや修繕で解体するとなれば、それぞれのレベルに応じた適切な処理を行わなければなりません。

そのためアスベストを含んだマンションでは、その情報が住民に共有されることが重要です。修繕やリフォームを行う際に、アスベストが含まれているとは知らずに処置をせずに工事をしてしまう可能性があるからです。アスベストが使われている可能性があれば、専門機関に調査を依頼しましょう。正確な情報を得て正しい恐れを抱いて対処することが、アスベスト問題では最も重要になっています。

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