マンションの建築デザインとは/デザイナーとは何者か?

デザイナーズマンションという言葉があるように、建設業界にはデザイナーと呼ばれる人がいます。今回はメールでやって来た質問「私が住むマンションの資料には、設計事務所以外に建築デザイナーが関わっていることが書かれています。建築デザイナーとは何者なのでしょうか」に答える形で書いてみたいと思います。

そもそもデザインとは何か

デザインとは英語のdesignをカタカナ表記したものです。デザインは日常的に使われる言葉なので、多くの方がなんとなく意味は理解していると思います。しかしdesignを辞書で調べると「(衣服などの)デザイン, 意匠; (建物・機械などの)設計; (絵などの)構図」(三省堂 ウィズダム英和辞典)と書かれています。英語の意味によるとマンションのデザインとはマンションの設計という意味になり、デザイナーは設計者ということになります。自動車業界ではエンジンデザイナーという言葉が聞かれますが、これはエンジン設計者の意味になります。しかしデザインと聞いて設計と思い浮かべる人は少ないのではないでしょうか。

なんとなくデザインというと、商品の見た目を考える人というイメージが強いように思います。実際に質問メールのマンションでは設計者の他に建築デザイナーがいるようで、この場合は外装やインテリアなどに特化したデザイナーが付いているのではないかと思われます。本来の意味でのデザインだと設計になりますが、この場合は外装などの見た目だけを考えた人ということになります。実際にマンション建築にデザイナーがいる場合は、設計者とは別にデザイナーがいます。ではこのデザイナーは何をしているのでしょうか。

デザインとは手段

このデザインに関して、デザインは手段であるという意見が多くあります。例えばアメリカ国際技術教育学会では、デザインを以下のように定義しています。

資源を、人間の要求や欲求に対処し得る製品やシステムに作り変えたり問題を解決するために、計画を作成する反復的な意志決定のプロセス

「Standards for Technological Literacy」(米国際技術教育学会著)

ここではデザインは問題を解決するために行われる手段であり、見た目をよくするためのものではないということになります。滑って落としやすいコップがあれば、形状を湾曲させて滑りにくくしたり、表面に溝を作って滑り止めにするなどの工夫を凝らすことがデザインというわけです。見た目は結果であり、目的ではないということです。

マンションの建築デザイナーとは何者か

マンションに関わる建築デザイナーは、建物の外観や機能性を含む居住性などを総合的に検討して実現していく人を指します。これは本来は設計士の仕事なのですが、設計士は建物が各種法律に準じているかを確認することが重要な仕事です。建築基準法、都市計画法、消防法など多くの法律をクリアしている必要があり、これに加えて発注者(マンションデベロッパー)の要望に合わせて建物を考えなくてはなりません。そこで建築デザイナーに居住性などの観点から検討してもらうことがあるのです。

しかし実際には見た目を中心にデザイナーが関わっているケースも少なくありません。本来は居住性や機能性などの問題を解決するための手段としてデザインがあるはずですが、パッと見のインパクトを与えるためにデザイナーを登用することもあるのです。マンションデベロッパーの依頼で、セールスポイントの追加に加えて格好良い広告を打つためのデザイナーの登用というわけです。そのため機能性などとは関係ないどころか、むしろ機能性からみると疑問が残るようなデザインが施されたマンションがあるのも現実です。

変なデザイナー達

①某高級ブランドの店舗にやって来た空間デザイナー

海外の高級ブランドの店舗の建設時の話です。工事が押して竣工検査がオープン前日の夜になってしまいました。そこに空間デザイナー(ブランド本社があるヨーロッパから来た外国人)も立ち合ったのですが、この人が「あの照明は私のデザインになかった」と怒り出しました。それは天井に設置された避難口を示す誘導灯でした。そこで工事関係者が、それは法律で定められた誘導灯なので設置する義務があるし、設置場所も消防からの指導で決まっていると説明しました。

しかしその言葉に空間デザイナーは激怒します。自分の許可なしに設置することは認められないし、あのようなみっともないものは認められないと言うのです。すぐに外せと主張する空間デザイナーと、法律で設置が義務付けられていると主張する現場所長の意見は対立し、最後は空間デザイナーが金槌を持ち出して壊そうとするのをみんなで止める騒動に発展しました。最終的には棚などのレイアウトを変更することで、入り口から天井の誘導灯が見えないようにすることで、なんとかデザイナーが納得して決着しました。

②マンション設計に参加した建築デザイナー

あるマンションの計画で、外装と外構のデザインをデザイン事務所に依頼しました。斬新な見た目になり、担当者も営業部も喜んでいたのですが、工事が始まるとさまざまな問題が生じました。特に揉めたのが、外構に設置されたデザイン性の高いコンクリート塀でした。ある日、デベの担当者に施工会社の所長から抗議の電話がかかって来ました。無理難題が過ぎるというもので、内容を聞くとコンクリート塀にクロスを貼るように言われたのだと言います。

このコンクリート塀のパースには白い縦縞が描かれていたのですが、デザイナーは白いクロスを1cm幅に切って打ちっ放しコンクリートの上に貼るのだと主張していたのです。外構の塀なので雨は降るし雪も積もります。そんなところにクロスを貼るのは正気の沙汰ではありません。そもそも打ちっ放しコンクリートの上にクロスをどうやって貼るのかもわかりません。クロスを貼るには左官工事でコンクリート面を平らにする必要がありますが、打ちっ放しの風合いを残して1cm幅だけ左官工事をするなんて、あり得ない話です。そして貼ったとしてもすぐに剥がれるのは明らかでした。

このデザイナーにはクロス張りは無理だと話したのですが、なかなか理解してもらえずに苦労しました。彼らは建築デザイナーを名乗りながら、建築や施工に関しては全く知識がなかったのです。

もちろん立派なデザイナーもいます

ここでは揉めた例を書きましたが、当然ながら素晴らしいデザイナーもいます。平凡な外観でパッとしないマンション設計だったものを、デザイナーの手腕でタイルや塗装の色を変えるだけで美しい外観に変えたケースもありました。またバリアフリーのためエントランスにスロープを設置したいが、雨の日は滑りやすく既存の滑り止めを設置すると見た目が悪く空間と調和しないという問題があるマンションがありました。これをデザイナーのアイデアで、自然な形で滑りにくいスロープを設置できたこともありました。

先の例のように法律や技術に疎い芸術家気取りのデザイナーがいるのも事実ですが、困った時に素晴らしいアイデアを提供してくれるデザイナーもいるのです。これはデザイナーによって大きく変わりますので、一概に建築デザイナーが入っているマンションが良いとか悪いとか判断できるものではありません。

まとめ

建築デザイナーとは、建物の外観や機能性を含む居住性などを総合的に検討して実現していく人になります。優れたデザイナーは、建物の機能性や居住性を高める工夫を見た目も良く行ってくれます。その一方で、法律や施行技術に疎い芸術家気取りの困ったデザイナーがいるのも事実で、ネガティブな印象を持つ人もいると思います。結局はそのデザイナーの性格や技量による部分が多く、人によって大きく変わるという身も蓋もない結論になってしまいます。良いデザイナーに巡り合えると、マンションの質はアップします。

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