大規模修繕が住人の不信感を生むこともある

大規模修繕工事には多額の費用がかかります。数千万円から1億円を超えることも珍しくなく、その費用は住民全員が毎月払い続けてきた修繕積立金から支払われます。住人全員の資産である修繕積立金を使うのですから、当然誰もが神経質になりますし、ちょっとしたことから誤解を生んで住民間トラブルに発展することもあります。大規模修繕工事を行ったばかりに、マンションを出て行くことになったケースも聞いたことがあります。今回は私の両親の例を交えながら、大規模修繕で発生する住民間のトラブルについて書いてみたいと思います。

業者との癒着が起こる

管理会社と大規模修繕業者の癒着は国土交通省も懸念していて、さまざまな通達を出しています。管理組合が自分達で工事業者を決める場合には、管理組合員と業者の癒着が問題になるケースがあります。よくあるケースでは、管理組合の理事が建設会社の人に知り合いがいて、その建設会社が大規模修繕を担当するケースです。理事に紹介してもらったおかげで受注できた建設会社は、その理事に紹介料としてバックマージンを支払うのです。

このバックマージンは、建設会社が自らの利益を削って支払われるわけではありません。理事に支払うバックマージンを見積もりに乗せて管理組合に請求するのです。もちろん紹介料などの名目で見積書に書かれるわけではありません。各工事項目の利益を少しずつ水増しして、費用を上乗せするのです。建設業の紹介料は工事金額の10%程度が主流です(地方によっては違うかもしれません)。つまり本来は9000万円で終わる工事だったのに管理組合には1億円の見積書を出して、1000万円が紹介した理事の懐に入るのです。この1000万円は、マンション住人がコツコツ支払ってきた修繕積立金です。

こうした事件はあちこちのマンションで起こっていて、時折大問題に発展します。マンションの理事会から1人の理事が何かにつけて特定の業者を使いたがるという相談を受けることがしばしばありますが、そういうケースでは理事が業者からキックバックをもらっている可能性が高いのです。それが発覚したり疑いがかかるようになると、住民間のトラブルに発展してしまいます。

関連記事
マンションの修繕積立金が狙われている /談合で管理組合を食いものにする人達

私の両親が経験した大規模修繕工事

私の両親は父の定年退職後に中古マンションを購入しました。元 ゼネコン 勤務だった父はすぐにマンション管理組合の理事長に選出され、大規模修繕を取り仕切るようになります。そして大規模修繕工事が迫っていたのですが、住人の多くが管理会社に不信感があったので自分達で入札を行い、業者を選定することになりました。しかし建設業者になんらツテがない理事会では業者を探すことも困難だったので、理事達は父に業者の紹介を依頼しました。

しかし父は頑なにそれを断ります。自分が推薦した業者に決まった場合、業者からキックバックを受け取っていると疑われるのを嫌ったのです。そこで業者は建設新聞などを使って公募し、入札も見積もりが届いたら全理事の前で封を切って開けることにしました。公募でやって来た業者とはいえ、あらかじめ父が知っている業者に連絡して応募させたと疑われることもあると考えた父は、業者からの個人的な挨拶も全て断り、業者との面接も全て他の理事が立ち会うようにしていました。徹底的に1人で業者に会うことを避けていたのです。

そうして無事に業者が決定したのですが、決定した業者は喜び父に挨拶に来ました。たまたま父は留守で、応対した母がトイレに棚を作るのにいくらかかるかと質問すると、業者が無償で取り付けてくれました。その時、温和な父が珍しく激怒して「こんなことしたら、ここに住めなくなるぞ」と怒鳴って、母は面食らっていました。父は癒着の疑いをかけられることを警戒していたのに、母が棚を作ってもらったので、他の住人から業者との癒着を疑われると思って怒ったのでした。

癒着の仕組み

父をはじめとする理事は、予算を決めて入札を行なっています。理事の1人が特定の業者に予算を教えれば、その業者は予算内で見積書を作れます。そして落札した時の見返りとして、その理事は業者から金銭を受け取るのです。父の場合、予算は約5000万円でした。小さなマンショなので割と少額ですが、個人で考えると5000万円は大金です。父はその気になれば、10%にあたる500万円くらいはキックバックを要求できましたし、その程度なら喜んで払う業者もいたでしょう。

普通なら工事請負金の1割もキックバックで払ったら、工事の質が下がってすぐにバレると思いますが、大規模修繕ではバレることは稀です。なぜなら住人のほとんどは建築工事について知識がないので、工法などを変えてもわからないからです。しかしゼネコン出身の父なら、バレにくい工事でこっそり仕様を削減できることができますし、後から理屈をなんとでもつけられます。だから父は細心の注意を払って、疑われないようにしていたのです。

関連記事
同じ人がマンション理事を長年勤めるのは危険です

実際にあったこと

都内のあるマンションに、修繕費が高すぎるという相談を受けて理事会にお邪魔しました。理事会の中では前理事長が業者からキックバックをもらっていたと噂になっていて、高すぎる修繕費は前理事長へのキックバックが含まれているからだと考えていました。前理事長が特定の業者を強烈にプッシュして、修繕工事がある度にその業者が工事をしていたのですが、住人に決して評判が良くないうえに工事代金が高すぎると理事会は感じていました。

そして理事長になってその業者を使うようになってから、自動車が外車に変わったり旅行を頻繁にするようになったので、バックマージンを受け取っているのではないかと住人間で言われるようになりました。新しい理事会になり管理会社に修繕の見積もりを依頼すると、これまでより安い見積書が出てきたため理事長と業者の癒着の噂が決定的になっていました。元理事長の家族はマンション内で針のむしろになっており、翌年にはマンションを出て行ったようです。

この元理事長が業者と癒着してバックマージを受け取っていたのかはわかりません。しかし癒着を疑われると、癒着の証拠を掴むのも癒着の疑いを晴らすのも、かなり困難になってしまいます。

まとめ

この件の真相はわかりませんが、これ以降私は大規模修繕を前にした理事や修繕委員の皆さんには、大規模修繕前後の大きな買い物は誤解の元になるので控えるように言っています。あらぬ誤解を生んで、ご家族も含めてマンションに居づらくなってしまうことがありうるからです。マンション管理組合では大きなお金が動くことがあるので、透明性を維持して誤解を受けないようにすることも重要です。大規模修繕が住人の不信感を生むこともあるので、十分に注意しないといけません。理事会や修繕委員の方で、特に気をつけることなどのアドバイスも行っていますので、以下のメールフォームからご連絡ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です