建物のデザインとはなにか /どう見えるか以上に、どう機能するか

デザイナーズマンションという言葉が出てきて数十年になります。野暮ったいマンションが多かった不動産業界に、デザイナーを導入してお洒落なマンションを作るようになり、人気を得るようになりました。今回はデザインについて書いてみたいと思います。

そもそもデザインとは

デザインとはなんでしょう?これが多くの分野で勘違いされていて、、商品などの見た目を考えることになってしまっています。しかし辞書を引くとこんなことが書いてあります。

作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること(大辞林)

見た目のことなんか書かれていません。私がデザインの説明で最もしっくりくるのは、アメリカ国際技術教育学会が出している「国際競争力を高めるアメリカの教育戦略」という本に書かれている説明です。

資源を人間の要求や欲求に対処し得る製品やシステムに作り変えたり、問題を解決するために、計画を作成する反復的な意思決定のプロセス。

ちょっと難しいですが、前半部分は人が「お洒落な家電が欲しい」とか「もっと簡単に操作できる携帯が欲しい」などの要求に応えるのがデザインと言うことです。後半は「携帯電話をもっと薄くしたい。だけど薄くするとバッテリーが1日も持たなくなってしまう」という問題を解決して、薄いけどバッテリーが長持ちすること携帯電話を作るための計画を作ることをデザインと呼ぶということです。前半はなんとなくわかるとして、後半はデザインという言葉とは結びつかない人も多いかもしれません。

しかしデザインとは問題を解決する手段なのは昔からあって、例えばポケットからの出し入れがしやすくするために丸みを帯びたウォークマンを作ると、滑りやすくて落としやすいという問題が発生したときなどにデザインの力が試されます。形状で落としにくくするのか、素材で滑りにくくするのかなどの案をどのように検証していくのか計画を立てるのがデザインで、ポケットから出しやすくて落としにくいウォークマンが出来上がるのです。

デザイナーというのは、こういった作業を行う人のことで、見た目を考える人はデザイナーではなく「見た目屋」と呼んでも良いでしょう。レーシングカーのデザイナーなどは、まさに問題を解決するための人々で、彼らはレースに勝つという目的の中で、発生するさまざまな問題を解決するために働いています。レーシングカーは見た目なんてどうでもいいですからね。勝った車がかっこいいんです。

建物のデザイン

マンションの購入者の中には「お洒落な見た目のマンションに住みたい」と考える人もいます。だからお洒落な外観を考えるのもデザイナーの仕事です。しかしお洒落な外観が問題を引き起こしてしまうなら、デザインとして問題があります。問題を解決するはずのデザインが、問題を起こしてしまうなら本末転倒なのです。

例えば屋上の部分が外壁からはみ出るように作られている、オーバーハングのデザインです。見た目の格好良さからタワーマンションなどで見かけます。しかし外壁を清掃したり、シーリングを打ち替えたり、塗装をする時にゴンドラやブランコを吊り下げるのに大問題になります。壁までの距離が大きくなって、近づいて作業ができないのです。マンションの外見をちょっとだけ良くするために行ったデザインが、維持管理の手間と費用を大きく引き上げてしまいます。オーバーハングをデザインに取り入れるなら、そのあとのメンテナンス性を考えるできですが、そこまで考えられていないタワーマンションは多くあります。

※屋上部分がオーバーハングしている例
※建物ごとオーバーハングしている例

またこれもタワーマンションですが、屋上にオブジェのようなものを取り付けるのが流行った時期があります。見た目には格好良いのですが、このオブジェは風圧を逃すために空気が通り抜けるように作られていることが多くあります。そのため「ピューッ」という笛のような風切音が発生し、騒音に苦しむことになる例がいくつかありました。風切音を防ぐために穴を塞ぐと対風圧の問題が生じて、台風の際にはオブジェが倒壊しかねないので、あちこちに穴を開けたり塞いだりと、かなりの費用と時間を要することになりました。これらの問題を考慮することなく、単に見た目のためだけに取り付けられたオブジェは、デザインとは呼べないでしょう。

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どう機能するかをデザインする

アップル社で辣腕を振るったデザイナーのジョニー・アイブはデザインに関して、「どう見えるか以上に、どう機能するかが重要」と語っています(この言葉は、CEOだったスティーブ・ジョブスがよく真似していました)。彼はまさに問題を解決するデザイナーでしたが、残念ながらマンションでは見た目を気にするばかりに機能が置き去りになっていることが多く見られます。

もっとも日本を代表する建築家の作品の多くは、メンテナンス性や施工性を無視したものが多いのが現状です。設計やデザインに問題があって雨漏りを繰り返しているにも関わらず「日本の建築が私に追いついていない」と工事をする側に責任を押し付ける人が、日本を代表する建築家なのですから仕方ないのかもしれません。

日本の建築には見た目だけを追いかけて、機能や維持管理性に全く無関心な人が多くいるのです。そしてその余計なコストを払うのは、所有者になります。

デベロッパーにお願いしたいこと

どのようにデザインするのも自由ですが、住んでからの維持管理を考えたものにして欲しいと思います。売り出す時の目玉になるものをつけるのも自由ですが、住人に不要な手間やコストがかからないようにして欲しいです。

私が デベロッパー にいた時に「自由な発想を阻害するから、我々は技術的なことは知らない方がいい」と言い切った企画担当者がいましたが、そういう考えが住人に余計なコストを強いる発端になっていることを知って欲しいですね。私が相談を受けた物件の何割かは、余計なものがついていたり、デザイン的に変に凝ったりしたために招いたトラブルでした。こういうマンションは、販売時には好評でも問題が表面化すると、資産価値がどんどん下がってしまいます。ローンを抱えながら、資産価値が下がるマンションに住むほど辛いことはありません。

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