本の紹介:「新築マンションは9割が欠陥」/欠陥とはなんだろうか?

本書は兵庫県の総合検査株式会社の代表取締役である、船津欣弘氏が書いた本です。元は設計事務所に勤務していた方で、阪神・淡路大震災の被災経験から2003年より欠陥住宅問題に取り組み始めたそうで、、さらに構造計算偽造事件をきっかけに、建築検査業務専業となった方のようです。今回は、その船津欣弘氏の「新築マンションは9割が欠陥」を紹介します。

目次

第1章 欠陥住宅は今後もなくならない
第2章 新築信仰があなたを不幸にする
第3章 マンション価値を下げない業者の選び方
第4章 欠陥マンションから身を守る技術
第5章 欠陥問題をなくすための処方箋

本書が伝えていること

本書のメッセージは「はじめに」に書かれている、この一言だと思います。

「マンションは『品質』を最優先に選びましょう」

このことを伝えるために、現在のマンションの品質管理がいかに脆弱であるかを伝え、そこから「高品質のマンションを購入するためのノウハウを伝授したいと思います。」という言葉に繋がっています。また「欠陥マンション」を生む要因を考察し、万が一欠陥マンションを購入してしまった場合の解決策を提示しています。これらの話のバックボーンには、著者が延べ1000件以上の建築検査に立ち会ったことがあるようです。経験豊富な方の知見が記されているようです。

建設現場の下請け多重構造

本書では欠陥が生まれる原因の1つとして、建設現場の下請け多重構造を挙げています。これは建設現場の問題の一つで、一時期は6次請けや8次請けなんて状態になっていることもありました。そのため現在の大手ゼネコンでは、下請けは4次請けまでなどの制限を設けているケースがあります。この多重構造は建設業界の商慣習や、さまざまなしがらみによる部分も大きいのですが、多重構造により実際に現場で働いている職人が薄給で働いているケースが多く存在します。

本書では実際に100人工が必要な工事で、人工単価が2万円の工事を例に、どれだけ現場の労働環境が劣悪になっているかを記しています。しかしこの計算は工事契約の「常用」と呼ばれる契約の話で書かれていて、少し特殊なケースです。工事現場のほとんどは「請負」で契約が結ばれているので、読んでいてちょっとした違和感がありました。もちろん多くの人にわかりやすく説明するための配慮だとは思いますが、わざわざ少数派の「常用」で説明せずとも「請負」でも過酷な状況になることは多くあるので、なぜこのような説明なのだろうかと思いました。

そもそもマンションの品質とは?

新築マンションを購入する際に基準にするべきは、デベロッパーが社内に施工現場の品質管理を専門に行う部署があるかどうかだと書かれています。私は、まさにデベロッパーの品質管理室に在籍していたのですが、品質管理室があることでマンションの品質が安心できるとは言い難いと感じています。そもそもマンションの品質とは何か、品質管理とはどうあるべきかが定義しないと自己満足の部署になってしまいます。

品質管理をしようとすると、安易に検査を増やす場合がほとんどです。しかし検査を増やせば増やすほど、それはコストになって跳ね返ってきます。しかし品質管理を始めたエドワード・デミング博士は、品質管理のメリットとしてコストが削減できることを挙げています。そもそもデミング博士は品質管理は経営者にしかできないと言っていて、品質管理室の社員には品質管理はできないと断言しています。ここら辺りの話は、別の記事にも書いているのでリンクを貼っておきます。

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私自身の経験、デミング博士の言葉を併せて考えると、本書に書かれているようにデベロッパーに品質管理部門があるか否かは、マンションの品質には大きな関係はないように思います。むしろ品質管理部門を設置したことで、これで我が社の品質管理の対策ができたと考えるような経営者がいるデベロッパーの方が危険でしょう。その良い例として、東洋ゴムの免震ゴムの性能偽装事件があります。これはマンションなどに使われている免震装置のゴムが性能基準に適合しなかったにも関わらず、検査結果を偽装して出荷していたものです。

この偽装を行ったのは品質保証部で、告発したのも品質保証部の社員でした。しかし経営陣は問題の全容も事の重大さを理解できず、不毛な会議を重ねて事態をさらに大きくしていきました。この事件は品質管理部門が社内にあっても、技術経営力がなければ不正の温床になってしまう典型例だと思います。

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そもそも欠陥とはなにか?

著者が検査したマンションでは、ほぼ100%なんらかの不備や欠陥が見つかったそうです。私は「欠陥」という言葉はメディアで使い古されているうえに、何が欠陥なのか定義がされていないので誤解を招きやすい言葉なので、あまり使わないようにしています。本書でも欠陥とは何かが定義されていないため、よくわからない面があります。

本書では杭の長さが足りなかったパークシティLaLa横浜や、スリーブをあちこちに空けて鉄筋を切断してしまったザ・パークハウスグラン南青山高樹町、姉歯建築士の構造計算書偽装問題が何度も例として挙げられています。確かにこれらは構造上の重要な問題を孕んでいて、マンションを購入して住んでいる人の生命や財産を危険に陥れる可能性があります。これを欠陥と呼ばずに何を欠陥と言うのかというレベルですが、著者が検査したマンションのほぼ100%で、このような重大な欠陥が発見されたというわけではないはずです。

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検査では何かしらの指摘事項が出るのは普通のことで、指摘事項が全くない方が稀です。私もデベロッパーの品質管理室にいた頃は、週に何度も検査に出かけていましたが、指摘事項がゼロだったことはありません。クロスが浮いている、フローリングに傷がある、ドアノブが汚れているといった指摘は、どのマンションにも普通にあります。こう言ったことは補修や清掃で対応が可能で、生命や財産を脅かすほどの危険なものではありません。ではコンクリートの壁にひび割れがあったら欠陥でしょうか。これはどの壁にどのようなクラックが、どの位置に入っているかで話が変わってしまいます。

このように欠陥を定義しなければ、なんでもかんでも欠陥ということができてしまいますし、一時期はメディアが不具合や不備も含めて欠陥だと騒いで入居者を疑心暗鬼にさせたこともあります。そのため欠陥を定義しないまま、世の中のマンションは欠陥だらけですよというのは、あまりに扇動的だと感じてしまいました。

まとめ

本書は著者の豊富な経験から、さまざまな面から消費者へのアドバイスが書かれています。私も同意する内容は多いですし、役に立つ話も多く書かれています。しかし先に書いたように欠陥を定義しないまま、世の中のマンションのほとんどに欠陥があると書くのは、煽りがきついように感じました。欠陥マンションは怖い、マンションの品質管理が重要だというのは同感ですが、タイトルだけでなく内容も刺激を求めすぎた気がしてしまいました。幻冬舎の本って、タイトルが過剰なものが多い気がします。この本もその一つという気がしました。

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