本の紹介:「2025年、人は『買い物』をしなくなる」

私は著者の望月智之氏のことを知りませんし、この本は本屋で偶然見つけて気になったので購入しました。マンションにも不動産にも直接関係ない内容なのですが、ここ20年程度の間に多くの人の価値観が大きく変化し、モノを買わない人が増えたことを感じています。住宅も同様で、購入派と賃貸派の意見の衝突は以前より多くなっています。将来的にマンションを購入する人はいなくなるのか、いなくはならないが減ってくるのか、そういったことを考えるために本書が何かのヒントになるかもしれないと思いました。

目次

第1章 ショッピング体験の進化で人々は「買い物」をしなくなる
第2章 ショッピングはどう発展してきたか
第3章 リーディングカンパニーたちが目指すもの
第4章 さらなる進化、「デジタルシェルフ」へ
第5章 「人々が『買い物』をしなくなる未来」の先にあるもの

買い物の在り方が変わった

かつて買い物はレジャーでした。私が幼い頃、デパートに行く時の母はお洒落をして、私にもよそ行きの服を着せてから出かけました。デパートは上の階に行けば行くほど夢の場所で、1階は人が多くて入りやすいものの、子供心にも上階にある宝飾店売り場などは気軽に入れるような雰囲気ではな胃ことが伝わりました。そして最上階はレストランで、お子様ランチを食べた後に、屋上の遊園地に行くのです。

※昭和のデパートは子供にとって夢の場所でした。

やがてスーパーマーケットが全国的に展開され、デパートは庶民が普段着で行くようになり、買い物はレジャーではなく仕事や作業に近づいていきます。本書には、メーカーはお店の棚の奪い合いを行っていた時代から、スマホの出現によって棚が消費者の手の中に入ったことを指摘しています。「リアル店舗の棚の一等地」に商品が並んでいるよりも、「オンライン上の棚の一等地」に並んでいることが重要になったと書いています。

かつてメーカーは自社の商品を、購買力の高い店に納入してもらうことを考え、さらにその店の最も目立つ棚に自社商品を置いてもらうことを努力していました。しかし今では棚はインターネットに移り、検索の上位や購買力のあるサイトの「あなたへのおすすめ」に表示されることが重要になったというわけです。

面倒になった買い物

先に書いたデパートがレジャーだった頃は、デパートに行くのは1日がかりでした。しかし着替えてから外出し、車を運転したり電車に乗ったりしてお店まで移動し、さらに商品選びにも時間がかかる買い物は、次第に面倒なものになっていきました。移動するのがが面倒、選ぶのが面倒、そして時間が勿体無いというわけです。そのため本書は、今やメーカーが出しているヒット商品の7割から8割は、時短に関するものだと指摘しています。

モノが少ない時代は、選ぶことがほとんどできませんでした。例えば私が幼い頃、母が「お客さんが大勢来るから、10人分のお刺身が盛れるお皿が必要」と言い出せば、近所の食器屋さんや家具屋さんを巡り、それでもなければ最後の手段としてデパートに行きました。もしデパートになければ諦めるしかないですし、デパートにあれば多少高価でも仕方ないと買っていました。

しかし今ではネットに多種多様な大皿が、さまざまな価格で販売するのを見つけることができます。ですからあちこちのお店を周ったり、お洒落をして遠くのデパートに行くという手間はなくなりました。しかし今後は、ネットに大量に出てくる大皿から、どれが良いかを考えて選ばなくてはなりません。今度は大量にありすぎて、どれを選ぶかが面倒になったのです。

そのため、今や検索しない、すなわち「ググらない世代」が台頭しているそうです。この世代はブラウザで検索するのではなく、アプリでおすすめの商品を選びます。やがてこの「ググらない世代」が購買力を持つようになると本書は指摘しています。

購入の考え方が変わった

今やモノを買っているのに所有しないという形態が登場したと言います。それがメルカリです。やがてメルカリで売ることを前提に買い物をする人達で、服を購入しても1シーズンだけ着て、メルカリで販売する人が増えています。最初から一時的に自分の手元にあるだけと割り切り、メルカリでいかに高く売れるかが重要になってきます。

そのためこの人達は、店舗で割引されている商品を敬遠すると言います。大型店舗で大量に値引きされている商品は、メルカリで高く売れないからです。これまで小売はいかに安く売るかが重要でしたが、安いというだけでは難しい時代になっているのかもしれません。

またサブスクリプションの台頭もあります。通称サブスクと呼ばれるこのビジネスモデルは、商品やサービスを所有したり購入するのではなく、一定期間利用できる権利に料金を支払います。音楽のサブスクは買い物のストレスから音楽ファンを解放した書いていますが、音楽に限らず映画やドラマなどの映像、雑誌や漫画などの出版物にも広がっていて、所有することなく利用することが広がっています。

所有することが豊かさの象徴だった

今の若い人には信じられないかもしれませんが、成功したハリウッドスターや歌手が、ロールスロイスを色違いで何台も購入することが羨望の目で見られていた時代があります。日本でも1980年代後半なら、高身長の男性がアルマーニを着て腕にはロレックス、ポルシェに乗って現れて「六本木のMAGIC(エスニック料理店)」で食事をしませんか?」と言えば、大抵の女性がついていきました。何を所有しているかはその人の信頼度に繋がり、トラブルは絶えなかったもののホイホイついていく女性が後を断たなかったのです。

現在、同じことをしたらどうでしょうか。恐らく大半の人が怪しさを感じて、ついていくことはほとんどないでしょう。高価なものばかりを身につける節操のなさに、信頼ではなく軽薄さを感じる人も多いでしょうし、とにかくお金を持っていることをアピールしたい必死さに目がいき、不信感を持つかもしれません。このようにかつては所有することは信頼につながりましたが、現代では必ずしもそうではないですし、所有していることをひけらかすことは、あまり良い目で見られなくなってしまいます。

この所有ということを考えると、多くの人にとって所有する最大のものは不動産になります。自宅を購入するというのは、かつては一人前の証でもありました。しかし現在では、自宅を所有してなければ半人前という風潮はありませんし、自宅を所有しているから立派な人だとも思われません。成功者の象徴は豪邸でしたが、今や賃貸に住む成功者も珍しくありません。今後は自宅を買わない人が増えるのではないか?この本を読みながら、改めてそんなことを考えました。

パーソナライズされないマンション

顧客データを元にニーズを把握し、その顧客に適切な商品やサービスを提供することをパーソナライズと呼びます。メーカーの間では、この動きが始まっており、本書では例としてスニーカーをカスタマイズできるNike by Youや、リーバイス・テーラーショップAmazon Discoverなどを挙げています。どれも「あなただけの」を掲げるサービスで、今後はこのような売り方が生き残るだろうと述べています。そしてこの分野は、マンションが最も苦手とするものです。

戸建ては注文住宅があり、それぞれの注文に合わせた商品を販売しています。しかしマンションでは、内装材や色を変える程度のサービスはありますが、デベロッパーが考えた画一的な間取りから解放されるにはリフォームするしかありません。しかしリフォームをしても玄関や窓の位置を変えることはできませんし、水回りは排水管の勾配の関係で、大きく動かすことはできません。マンションは戸建ての注文住宅に比べると、パーソナライズは小手先のレベルでしかできていないのです。だからSI住宅が増えるかというと、それはないと思うのです。SI住宅は階高を必要とするので、限られた容積の中では限界があると思います。

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本書には、パーソナライズが重要になると書かれていますが、マンションは最も遅れている分野だと思います。そしてもしマンションのパーソナライズの動きが出てくるとしたら、それは新築マンションではなくリフォームから出てくるような気がしています。

共感を得るストーリー作り

より多くの人に売るための要素として欠かせないのが「共感」という指摘は、多くの商品で見ることができるので納得できます。そしてこの共感を得るには、共感を得るストーリーが重要だとしています。ストーリーはwhatより「why/なぜそれを作ったのか」、そして「How/どのように作ったのか」が重要になってくるそうです。

共感を得るストーリーで、よく話題になるのはAmazonです。Amazonは便利とか安いとか翌日配送といった合理性を排して、ただ感情に訴えるCMを多く制作しています。以下のCMは公開時から話題になっていましたが、もうすぐ1億再生を達成しそうな勢いです。

不動産業界で、共感を得るストーリーのCMが上手いのは積水ハウスではないでしょうか。戸建、マンションのどちらにおいても、幸せな家族や誰かの人生の1ページをCMに取り入れて来ました。しかし近年では、このような幸福感よりも豪華さや優雅さ、憧れの暮らしといった贅沢さが目立つ気がします。また大京が2000年代最初の頃に「品質性能ism」を打ち出した頃は、「How/どのように作ったのか」ばかりが目立ち、ストーリー性は脆弱でした。

マンションのストーリーといえば、SNSなどで散々バカにされてきた「マンションポエム」を連想する人もいるかもしれません。やたら大袈裟で仰々しいマンションの宣伝コピーのことで「人生に、南麻布という贈り物」とか「煌めきの水面を臨む、至上の私邸席を」といったものです。デベロッパーは真面目に取り組んでいたのですが、今やこれらを共感をえるストーリーとは言えないでしょう。

マンションは買うべきか借りるべきか

マンションを買った方が得か借りた方が得かという議論は、長い間行われてきました。しかし双方が自説に有利な数字を掲げて主張するばかりで、かなり不毛な議論になっています。少し気がきく不動産屋なら自説に合わせた販売資料を作れるので、販売が中心の営業マンなら買った方が得というデータを並べて説明しますし、賃貸物件の営業マンなら賃貸の方が得という資料を作っています。ですから個人的にはこの議論はほとんど興味がなかったのですが、本書で買い物は購入から利用する時代に移行し、販売は共感を得るストーリーがなければ難しくなると解説されると、私が長い時間を過ごしたマンション建設して販売する商売は斜陽産業のような気がしてきました。

大学や高校を卒業したら、就職した会社に定年退職まで勤め上げる人がほとんどだった時代ならまだしも、現在のように人材が流動化して転職する人が珍しくない時代になると、35年もの長期ローンを組むのは人生設計を歪める可能性も出てきます。そもそも人口減によって既存のマンションや戸建てが余り、新築需要は減ると考えられています。どうしてもその土地が欲しいというわけでなければ、購入より賃貸派が増えても不思議ではないと思います。

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まとめ

色々なことを考えさせられる本でした。今後の不動産市況がどうなるかはわかりませんが、不動産に対する人々の考えは大きく変わると思います。実際に小売は大きく変化し始めていて、必要最低限のものしか所有しないミニマリストが流行ったりもしています。人が人生の中でする最大の買い物と言われてきた不動産も、今後変わっていくことは間違いないと思いました。

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