終焉する新築信仰 /スクラップ&ビルドと中古市場の拡大

かつては「どうせマンションを買うなら新築で」「中古マンションを買うのは貧乏臭い」といった、新築信仰が強くありました。しかしここ数年で新築信仰は徐々に減ってきていて、中古マンションの契約数が増えています。なぜ新築信仰が生まれ、そして消えていこうとしているのか。そしてなぜ中古マンションが売れるようになったのか、そして今後はどうなるのかを考えてみたいと思います。

新築供給戸数を上回った中古販売戸数

日本では長い間、新築信仰とも呼べる新築住宅人気がありました。そのためどれほど中古物件が市場に溢れても、新築マンションの方が売れている時代が続いていたのです。しかし首都圏では、中古住宅の販売戸数が新築住宅の供給戸数を上回るようになりました。以下のグラフは新築マンション供給戸数を(株)不動産経済研究所から、中古販売戸数を( 公)東日本不動産流通機構の数字を用いて作ったものです。

このグラフを見ると、2016年以降は中古マンションの販売個数が上回るようになりました。住宅を買うなら新築という考え方が、徐々に変化しているのがわかると思います。全国的にはまだまだ新築の方が売れているようですが、この流れが今後は全国に展開する可能性はあります。

なぜ新築信仰が広まったのか

伊勢神宮が20年ごとに建て替えることから、日本は古くから新築を好んだという説があります。伊勢神宮以外にも神社などで定期的に建て替える式年遷宮(しきねんせんぐう)を行っている(または行っていた)神社がいくつもあり、時期は決まっていないので式年遷宮には該当しないものの、出雲大社も60年から70年程度の周期で建て替えが行われていました。これが新築信仰の起源だと主張する人もいるのです。

※伊勢神宮の式年遷宮

確かに穢れ(けがれ)の文化と建て替えは無関係ではないかもしれませんが、現在の日本の新築信仰は明治以降の歴史による部分が大きいように感じます。特に関東大震災による物理的、精神的なダメージが新築信仰に大きな影響を与えたように思います。当時の日本の住宅はほとんどが木造でした。木造を中心とした住宅は現在でも主流で、大地震による一撃で簡単に壊れるという事実は、何代にも渡って住宅を使い続けることは不可能という意識に繋がったのでしょう。

日本の住宅は一代限りのもので、せいぜい寿命は60年程度あれば良い。だから中古住宅は寿命が残り少ないものばかりで、大金を出して買うに値しない建物と考えたれたのではないかと思います。これに行政の後押しも加わります。例えば住宅ローン控除は新築のみに認められ、中古住宅の購入やリフォームには公的な支援はありませんでした。こうして中古より新築が不動産売買の中心となっていきました。

家を持って一人前という風潮

「一国一城の主」という言葉があるように、日本には家を持って一人前という風潮があります。これは戦後の高度経済成長に出てきた風潮で、戦前は住宅を所有するのは裕福な人達の特権でした。しかし戦後の政府は一貫して持ち家政策を続け、国民の所得が増えたために、真面目に働いている人は家を持てることになりました。そのため誰もが家を持つことが当たり前になり、家を持つことが立派な大人の象徴になっていきます。

こうして誰もが家を買うことを考えるようになりますが、住宅は人生の中でも大きな買い物です。上記のように中古住宅は寿命が少ないものですし、どうせ買うなら新しい住宅をという考えが強くなり新築信仰が強固なものになっていきます。こうして誰もが新築住宅を購入する、世界でも珍しい国になっていきました。

※出典:国土交通省

しかしここにも変化が見えます。上記のグラフは平成24年度の国土交通白書「第2節 住まい方の変化」の図表116年齢階級別持ち家率の推移(エクセルファイルがダウンロードされます)です。持ち家率が上昇しているのは60代のみで、それ以外の年齢層では持ち家率が下がっています。家を持って一人前という風潮は、徐々に風化していると言えるでしょう。

不動産の資産が積み上がらない日本

日本は長らくスクラップ&ビルド(壊して作り直す)を繰り返してきました。マンションに限らずビルも戸建もスクラップ&ビルドの繰り返しで、投資を繰り返しても古い資産が残らないことを国土交通省も課題としてあげています。以下の表は国土交通省の資料からの抜粋で、住宅投資額と住宅資産額を日本とアメリカで比較しています。

※出典:国土交通省

外部リンク
中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)

アメリカは不動産に投資された額が資産として残っているのに対し、日本は投資額よりはるかに少ない資産しか残っていません。日本は建物の損耗が激しく、古い建物を壊して新しい建物を建てるため、古い建物が残らないのです。日本は狭い土地に一極集中しているなどの問題もあり、これだけの差が出てしまっています。これからの不動産の課題は、古い建物をいかに未来の資産として活用するかにかかっていると、10年以上前から言われています。

日本は新築信仰によって、国土に不動産の資産を残せないようになっていました。延々とスクラップ&ビルドを繰り返すしかなく、建設業者だけが儲かる仕組みが出来上がっています。国土交通省が公表した「建設業許可業者の現況 平成31年3月末現在」によると、建設業許可業者数は46万8,311です。この数は2020年の全国のコンビニ件数5万5,924の8倍以上になります(一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会 2020年度12月度資料)。建設業界はパイの大きさが変わらなくても、なるべく大勢で分けて共存するような仕組みで生きながらえてきました。そのため談合などの問題が残ることになりました。

関連記事
建設業界の談合は尽きない /半値八掛け五割引の世界

またこれほど多くの建設業者が存在できるのは建設業界の下請け構造などによる部分もありますが、スクラップ&ビルドを延々と繰り返してきたというのも大きいはずです。

中古マンションの販売が増えた理由

さまざまな要因があると思われますが、新築マンションの販売戸数の減少が大きいと思われます。それに加えて、良い場所に新築マンションが建つことが減り、建っても高値なでなかなか手が出ないというのがあります。

都内のマンションを見ると、一等地に建っているマンションはすでに築40年や50年といったビンテージマンションばかりです。良い土地からマンションが建設されるのは当然で、マンションを建てられる良い土地はどんどん減っているのです。以前にも書きましたが、マンションの最大の価値は立地の良さです。立地が悪いとどんな豪華な仕様にしても人気は出にくいのです。どうしても欲しいエリアに新築マンションがなければ中古に流れるのは当然と言えるでしょう。

またここ数年の新築マンションの価格の高騰は、目を見張るものがあります。以下は国土交通省の不動産価格指数をグラフ化したものです。2013年以降、新築マンションの価格が高騰しているのがわかります。これほど新築マンションが高騰していくと、経済的に購入が難しい人が増えていき、中古市場に流れていくのも当然のことだと思います。

新築を買いたくても買えない現状に加え、良い場所に新築マンションがないとなると、中古市場が活発になるのは必然だと思います。大規模な再開発が続くようなことでもなければ、今後も中古市場が伸びることが予想できます。これに人口減が加わり、住宅が余るようになってくると、新築マンションは一部のお金持ちのものになっていくかもしれません。また中古マンションも選別化が進み、廃墟になるマンションと人気の高いマンションに二分されていくように思います。

関連記事
20年後のマンション事情はどうなっているだろうか?

まとめ

首都圏では、新築マンションの供給戸数を中古マンションの販売戸数が上回っています。これまで新築を中心に動いていたマンション市場が、徐々に変化しているのです。日本人に根深くあった新築信仰は、政府の住宅政策による部分も大きくありましたが、スクラップ&ビルドを繰り返す住宅政策は限界も見えるようになってきました。目ぼしい土地にはすでにマンションやビルが建設されているため、魅力的な新築マンションの供給は今後も厳しい状況になるでしょう。人口減によって住宅が余るため、中古マンションも人気のあるところと買い手がいつまでも決まらない不人気マンションの差がハッキリ出るようになると思います。そしてこの差は時間の経過とともに、どんどん大きくなると思われます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です