「設計図を見る」と「設計図を読む」は全く違う

以前、マンションで漏水などの調査を行う際には、設計図を見ることが重要だと書きました。安易に「設計図を見る」なんて言ってしまいますが、設計図は「見る」ものではなく「読む」ものなんです。世の中には設計図を見て「ふんふん」と頷いている人が結構いますが、大抵の人は図面を見ているだけです。図面を見るだけの人と読める人では、知り得る情報が10倍くらい違うことがあります。

関連記事
雨漏れ調査の方法

マンションの設計図とは

竣工図という名前で管理事務室に置いてあります。1冊にまとめられていたり、複数に分かれていることもありますが、大抵の場合は4種類です。

① 意匠図(図面番号がAで始まる)
② 構造図(図面番号がSで始まる)
③ 設備図(図面番号がPで始まる)
④ 電気図(図面番号がEで始まる)

意匠図は建物の形状や部屋の間取りなどを示した図面で、右下にA-01などAで始まる番号が振られています。平面図・立面図・矩計図などの他に建具のキープランなどが含まれます。設計図といえば大抵の方が思い浮かべるのが、この意匠図になります。構造図は基礎や柱、梁、壁、スラブ(床)などの構造体が描かれている図面です。建物の耐震性などに直結する部分が描かれていて、構造計算によって決まった構造体を記しているのが構造図になります。

設備図に書かれているのは、給排水衛生設備と換気設備になります。給排水衛生設備とは水道の給水と排水の配管が含まれます。トイレなどの排水なども含まれていて、マンションのトラブルは給排水に関するものが多いので、設備図はマンション竣工後にもよく見ることになります。またマンションの換気設備と言えばキッチンのレンジフードとユニットバスや洗面所、トイレなどの換気扇が主でした。しかし24時間換気が義務付けられてからは、それも換気設備に含まれるようになりました。

電気図は、コンセントやその配線だけでなく、共用部の照明器具や配線、ポンプやエレベーターなどの動力線、テレビの同軸ケーブルや器具など、電気に関わることが書かれています。マンションでトラブルがあった場合は、これらの図面から欲しい情報を引き出す作業が必要になります。

設計図を見るということ

設計図を見て、設計図に書かれていることを理解するということです。どのような材料を使い、何がどこに配置されているかを知る作業です。ところがこれも人によってレベル差が大きく、丹念に一字一句見ていく人もいれば、さらっと必要そうな部分だけ見ていく人もいます。きちんと見ていけば、それなりの時間がかかるのですが、5分も見ないで「図面には書かれていない」と断言する人が多いことに、いつも驚かされています。

図面を見るというのは、文字通り書かれていることを見て理解するということです。図面には膨大なデータが含まれているのですが、その中の直接書かれている情報のみを知ることです。

図面を読むということ

例をあげて説明します。地下1階の壁から漏水を繰り返しているマンションにお邪魔しました。管理会社は地中の水が染み出しているとか、屋根の雨水が入ってきているなどの説明を繰り返し、何度工事をしても漏水が止まらないという相談でした。

まず意匠図を見ました。漏水している壁の裏は空洞で、そこから地下2階のピットに降りられるようになっていました。かなり広い空間ですから、そこに水が溜まって壁から染み出すのは変だと思いました。そこで上の方から壁を水が伝って降りてきて、染み出していると予想しました。

次に意匠図で天井を見ると、かなり広いスペースがあります。そこで設備図を見ると、直径250ミリの排水管が通っていることがわかりました。設備図で配管のルートを追うと、屋上の雨水排水管だとわかりました。屋上の雨水が地下の天井を通っていたのです。これが漏れている可能性が出てきました。しかしそれなら天井から水が垂れてくるはずで、壁と床の間から流れてくるのは変です。

もう一度意匠図に戻って確認すると、地下1階と1階の平面図にズレがありました。誤記かとも思いましたが、構造図を開いて部材のサイズと位置を確認して、自分で断面図を書いてみました。すると1階と地下1階の間に、デッドスペースがあることがわかりました。雨水排水管から水が漏れて、デッドスペースに溜まり、そこが満水になると壁を伝って地下1階に出てきていると予想がつきました。

ちょっとわかりにくいですよね。つまり複数の図面から情報を取り出し、設計図に書かれていない部分も3次元的にイメージすることが図面を読む作業になります。加えてこの時私は、当時の施工方法も考えました。壁を壊して調査すると、予想した場所にデッドスペースがあり、中は水浸しでした。雨水配水管の漏水がデッドスペースに溜まり、それが壁を伝って浸み出していたのです。

図面を読むとは、このように図面に書かれている情報からその奥にある情報を読み取ることになります。そのため単に図面を見る行為に加えて遥かに多くの重要な情報を知ることができます。この図面を読むことができるかできないか、そしてどれだけ読み取ることができるかが建築屋の能力の差になります。

どんな人が図面を読めるか

設計図を書いている設計事務所の人が最も読めると思われがちですが、案外そうでもありません。設計図をもとに施工図を書く ゼネコン の人の方が図面を読む力に優れている人が多いように思います。

設計図をもとに、実際に建物を建てなければならないゼネコンは、穴が開くほど設計図を読んでから、職人に渡す施工図を書きます。この過程で、設計図通りに作ったら3次元にならないとか、階段が部屋の中に入ってしまうなんてことがわかることがよくあるのです。現場感得の経験が長く、施工図を書いていた人は、読む力が高い人が多いです。ただこれも人によりけりで、何年もゼネコンにいながら、頓珍漢なことを言う人も多くいるので、単にゼネコンの経歴が長いというだけで信用はできません。

関連記事
この道◯十年を信じてはいけない

図面を読めるようになるには、施工図を書くのが一番です。施工図を書いたことがないけど図面を読めるという人は、ほとんどいません。2次元で書かれた図面から3次元の完成形をイメージするのは、それなりの訓練と期間を要するのです。

全ての図面を読める人はいない

私の場合、ゼネコンで現場監督をしていた経験があるので、意匠図と構造図を読み込んで 躯体 図を書いていました。ですからこの2つは、かなり深くまで読むことができます。しかし設備図と電気図に関しては、専門外なので読み込むことはできません。多くの場合、業者さんなどの設備や電気の専門家の力を借りています。

設計事務所でも意匠設計、構造設計、設備設計などは別々に分かれていて、全てを網羅する人はほとんどいません。専門分野に特化した人達が設計を行い、専門分野に特化した人達がマンションを建設しています。どの図面でも読めるような人は、いないと思って良いでしょう。それぞれの状況にあった専門家に依頼することが重要です。

「設計図を見る」と「設計図を読む」は全く違う” に対して2件のコメントがあります。

  1. 細井太志 より:

    こんにちは、初めてメールします。
    私の住んでいる39戸10階建マンションのマンションに住んでいます。築27年で来年夏に2回目の修繕工事を行う予定です。私はそこで今回その修繕委員会に自ら委員になりました。今回メールを差し上げたのは、理事長宅(5階)で給水管から水漏れが発生しました。そのこともあり、この修繕委員会で「給排管の点検・工事」を検討してはどうかと提案しましたが修繕積立金がないとのことであまり真剣に討議されませんでした。ほかの委員(7人)も含め、積立金がないことと、どのような工事なのかわからずそれ以上話が進みませんでした。
    教えていただきたいことは、マンションの給排管の工事や点検の方法とはどのように進めるのか、そして、どのくらいの予算やどのくらいの日数が必要なのか、どのようなところに相談すればよいのかなどわかりましたら教えていただきたいと思いメールしました。
    素人の集団(修繕委員会)で何もわからない者(私)が大変だ、修理したいといっても何の説得力がありません。よろしくお願いします。追伸:「こんな勉強をしたら、こんな本があるよ」がありましたら教えてください。

    1. TaCloveR Tokyo より:

      コメント、ありがとうございます。
      来年の夏に2回目の大規模修繕工事を行う予定とのことですが、大規模修繕業者は既に決まっているのでしょうか。業者が決まっているのであれば、その業者から設備業者を紹介してもらうことはできないでしょうか。見積書を取得している段階であっても、その業者に相談することは可能なはずです。また管理会社からも設備業者を紹介してもらうことが可能だと思います。とりあえず見積もりを取得して、予算があまりなければ金額の相談をすることもできます。

      予算や工事日数に関しては、そのマンションごとに環境が変わるため一概には言えません。床や天井の構造、給水管にどのような種類を使い、どこを通しているか、点検口の有無など様々な要因が影響します。そのため現地調査を行わないとなんとも言えないということになります。

      まずは大規模修繕業者や管理会社などからあたってみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です