そもそも欠陥マンションとは何なのか /飛び交う言葉の

定期的に欠陥マンションが話題になり、不運にもそういったマンションを購入してしまった人の悲劇がニュースになります。欠陥が見つかったけど売主が誠意ある対応をしないとか、建て替えを検討しているといった話をニュースで聞きますが、そもそもなぜ欠陥マンションが建設されるのでしょうか。今回は欠陥マンションがなぜ建設されてしまうのかを考えてみたいと思います。

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欠陥マンションのニュースは多いが

欠陥マンションや欠陥住宅のニュースをたびたび耳にしますが、果たして何件ぐらい欠陥マンションがあるのでしょうか。実はそういったデータはありません。調べるとしたら報道された件数とか、住宅リフォーム・紛争処理支援センターに寄せられた相談件数などを調べるしかありません。全国に欠陥マンションが何件あるのか、きちんとしたデータは存在しないのです。そのため欠陥マンションや欠陥住宅が、全国にどのくらいあるのか全くわからないのが現状です。

そもそも欠陥マンションとは何か

なぜ欠陥マンションや欠陥住宅のデータがないかというと、欠陥マンションの定義が存在しないからです。定義できないもののデータを集めることはできません。欠陥マンションとは何かというのを説明できる人がいても、それはその人の定義であって全国的に統一された定義ではありません。つまり欠陥マンションという言葉に定義はなく、いろいろな人が好き勝手に使っている言葉と言うこともできます。そんなバカなと思う方もいるかもしれません。それでは以下の中から、どれが欠陥マンションなのか考えてください。

①入居直後から雨漏りが続いている。
②絶えず上階の騒音が聞こえて夜も眠れない。
③コンクリート部分のあちこちにひび割れが入っている。
④室内のフローリングにあちこち段差がある。
⑤入居時からクロスの一部が剥がれていた。

欠陥の定義が必要

上記の①から⑤の全てを欠陥だと言う人もいるでしょう。またこの中の一部を欠陥だと言う人もいると思います。欠陥の定義がないため、報道される欠陥マンションもさまざまなのです。私は欠陥という時には「マンションの価値が著しく落ちたり、住民の生命や健康に影響を与えるもの」を言っています。これは私の基準なので、別に正しい定義とかそういうものではありません。デベロッパーで品質管理やアフターサービスをしていた経験から、何でもかんでも欠陥と言ってしまうと問題の重要性がわからなくなってしまったから、個人的に定義していました。

欠陥と言えるものの中には、施工業者のミスと言えるレベルのものもあり、簡単な補修工事で修繕できるものもあります。また建て直す以外に修繕ができないようなものもあり、欠陥という言葉の中にこれらがごちゃ混ぜになってしまっているのです。上記の⑤のように入居時からクロスが剥げていたなら売主に言って補修して貰えば良いですし、売主がそれをやらないなら欠陥マンションの問題というよりアフターサービスの問題だと思います。しかし現状ではなんでもかんでも欠陥と言われるので定義が必要だと思うのですが、それがないので私自身が「欠陥」という言葉を使う時には「マンションの価値が著しく落ちたり、住民の生命や健康に影響を与えるもの」という基準で使っています。

この私の基準でいくと、滋賀県の大津京ステーションプレイスは欠陥マンションと言えますし、コア抜きの穴だらけになったザ・パークハウス グラン 南青山高樹町も欠陥と言えます。反対にプラウドタワー武蔵小金井クロスは、報道された時点では欠陥と言えるか微妙でした。報道された記事を読むだけでは、すぐに補修できそうなものも含まれていましたし、施工不良の規模も分からなかったからです。この点は別記事に書いているので、そちらも参照してください。

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なぜ欠陥マンションが生まれるのか

欠陥マンション、欠陥住宅が生まれる理由は多くの人が語っていて、その中でさまざまな理由が述べられています。よく言われる主な理由を挙げていきます。

①多重下請け構造
②ゼネコンやデベロッパーの丸投げ体質
③お施主様主義

他にも色々挙げられることがありますが、この3つはよく見かけます。それぞれ解説していきましょう。

①多重下請け構造

杭が支持層に達していないと問題になったパークシティLaLa横浜などでも話題になりましたが、ゼネコンの下請けが何重にもなっている問題です。下請け・孫請・ひ孫請など何層にもなっているため、実際に工事している業者には格安の工事費しか渡っておらず、十分な管理ができないという問題です。ゼネコンが下請け業者に1億円払うとします。下請けは2割引いた8000万円で孫請に発注します。その孫請が2割引いた6400万円でひ孫請に発注しているため、実際に工事するひ孫請の会社は十分な工事費をもらえないのです。

こうして現場で働く業者は工事をするだけで精一杯になってしまい、品質管理などが手薄になってしまうわけです。こうした多重下請け構造は建設業界では珍しいことではなく、以前は七次請負なんてこともありました。近年では大手ゼネコンは、三次請負までしか認めないなどのルールを設けているところが多いようです。

②ゼネコンやデベロッパーの丸投げ体質

特に小規模のデベロッパーに見られる傾向ですが、建築に詳しい社員がいないため施工に関して監理者(主に設計事務所)やゼネコンにお任せになっています。もちろん素人には分からないので監理者にお願いしているのですから、これが絶対悪だとは言えません。しかし販売時に顧客と約束した(契約した)建物を引き渡す義務があるので、デベロッパーが「建築のことは全て任せてあります」と開きなるのは良いとは言えないでしょう。

そして酷いのはゼネコンが、業者に丸投げしているケースです。マンションでありがちなのは、現場所長が設備工事や電気工事のことがわからず、任せっきりにしているケースです。これは大手の方が分業制度がしっかりしているので、大手になればなるほどこの傾向がありました。私はデベロッパーに在籍していた頃、現場所長に「あなたはこの現場の責任者だから、全ての工事に責任を持って欲しい」とお願いしていましたが、設備は担当が別だからと言って管理を任せきりになっていることが度々ありました。マンションで入居後に最もトラブルが多いのは設備工事ですから、本来は現場所長が責任を持って施工管理をして欲しいところです。またレベルが低いゼネコンになると、業者にお任せというケースもあります。こうなると、何が起こっても不思議ではありません。

③お施主様主義

施主とは発注者のことで、マンションの場合はデベロッパーになります。ゼネコンはデベロッパーから仕事を受注しているので、デベロッパーは強い立場になります。最近はずいぶん和らいできましたが、以前はお施主様と呼んでデベロッパーの言うことは絶対という風潮がありました。バブルが弾けた90年代以降は、工事を発注する事業者が減ったので仕事をもらえるだけでありがたいという雰囲気だったのだと思います。

そして問題なのは、デベロッパーに建築に詳しい人がいない場合です。図面ではどういう風に出来上がるから分からないので、完成してからケチをつけるケースが後を絶ちませんでした。図面通り、打ち合わせ通りにゼネコンが造っても「こうじゃない」と一刀両断し、作り直させる場面を何度も見たことがあります。一旦造ったものを壊して造り直すのは手間がかかるうえに施工精度も落ちてしまいます。打ち合わせ通りに作ったのだからゼネコンも拒否すれば良いのですが、お施主様の言うことには逆らえなかったのです。こんなことをしていると、手戻りばかりが増えてしまいます。その結果、工期が足りなくなることも珍しくなく、そうなると施工精度は低下してしまいます。

顧客の厳しい視点

数千万円も払った人からすると、完璧なものを手にしたいと思うのは当然だと思います。住宅は一生に何度も購入しないので、多くのマンション購入者にとって初体験になります。何十年もローンを払う覚悟を決めて、数千万円の借金を背負って入居したらガッカリということになると、怒りも収まらないでしょう。ですからマンション業界はクレーム産業でもあり、欠陥マンションという言葉がメディアを賑わすのだと思います。

そして戸建の場合、昭和の途中までは「家を建てる」と表現する消費者が多くいました。しかし今や多くの消費者が「家を買う」と言う人がほとんどです。戸建の場合、かつては工務店などと一緒になって家を建てるという考え方が常識でしたが、建売住宅が増えてから完成品を買うことが当たり前になっていきました。マンションの場合は、未完成の状態で契約する青田売りですが、建設に関して購入者が口を挟む余地はほとんどないため、まさに「マンションを買う」という感覚が強くあります。

そして購入するにあたって、多くの消費者はマンションに工業製品のような精度を求めがちになりました。天候に左右されることもなく、何年も同じ作業を行なっている熟練の工員が工場で作る工業製品と、天候に左右されまくりで毎回違う作業を異なるメンバーで作るマンションでは、工業品としての精度は全く違います。マンションは工場で作られる工業製品というより、ワンオフで作られる手作業品に近いのですが、その感覚は建設業界で働いたことがない人は分かりにくいと思います。

建設業界で働いている人からは「工場内でコンピューターで管理されて製造されている自動車だってリコールが出るんだから」という声が漏れ聞こえてきますが、それはなかなか理解されないでしょう。ですから私は、新築マンションは完成時の精度以上にアフターサービス体制が充実しているデベロッパーを選ぶべきだと考えます。

欠陥マンションを生む根本的なもの

過去には建て替えなくてはならないような、致命的な欠陥が見つかったマンションがあります。鹿島建設のザ・パークハウス グラン 南青山高樹町などはその典型ですし、姉歯建築士が引き起こした構造計算書偽装問題でもいくつものマンションが建て替えることになりました。問題が起こるたびに原因の検証が行われ、先に挙げたような多重下請け構造や丸投げ体質が原因に挙げられます。しかし現場目線で見ると、請負金額の安さが根本的な問題です。

そもそも工期が短い場合が多く、短い工期で工事を終わらせるためには費用が余計にかかります。しかし実際の請負金額が工事ギリギリの金額になっていることが多く、なんとか赤字にならないようにするので手が一杯になっていることが多くあります。また検査の不足を指摘する声が上がることもありますが、検査は何度も行えば行うほどコストがかかります。そのため工期の短さと相まって十分な検査が行えていないこともあるようです。いやいや、そのために監理者として設計事務所がいるはずだという声もありますが、監理費として払われている金額が雀の涙程度のことも多く、設計事務所も毎月のように現場の検査ができないこともあります。

では請負金額が低いのは発注している原因は、デベロッパーが暴利を貪っているからでしょうか。決算報告を見てもわかるように多くのデベロッパーは青息吐息で、暴利を貪ろうにもできないのが現状です。それは長引く不景気と上昇しない賃金によって消費者が高い金額を払えないという事情に加えて、地価の上昇が続いているので土地の仕入れ価格が上がっているため同じようなマンションを建設しても価格が上昇してしまうからです。このためマンションの欠陥は業界の構造的な問題に原因があり、一朝一夕に解決できる問題ではないと思います。

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まとめ

欠陥マンションという言葉が、安易に使われすぎているように思います。修繕が可能な施工不良からマンションの建て直しが必要なレベルのものまで、全てが欠陥マンションと言われるからです。新築マンションで修繕が可能な施工不良が修繕されないのはアフターサービスの問題で、欠陥マンション問題とは別物だと思います。今回私は欠陥の定義を「マンションの価値が著しく落ちたり、住民の生命や健康に影響を与えるもの」としましたが、これはどこでも通じるものではありません。今後も欠陥マンションという言葉が飛び交うような報道があるならば、欠陥マンションの定義が必要だと思います。

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