タイル剥落の対策はいつから行っているのか /マンションタイルの歴史

再びタイルに関する相談が増えてきているので、今回はタイル剥落と対策の歴史を振り返ってみたいと思います。今やマンションの外壁はタイル張りが標準ですが、かつては吹付塗装が主流でした。タイルが主流になってから50年の間に、剥落と対策が繰り返されていきます。

高級マンションの象徴

日本の鉄筋コンクリート製の共同住宅の歴史は、関東大震災の教訓から建てられた同潤会アパートから始まります。第一号の中之郷アパートメントは大正15年に建設されました。外壁は吹付塗装で仕上げられています。これ以降、鉄筋コンクリートの共同住宅は吹付塗装の外壁が主流になっていきます。

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最初に外壁にタイル張りを行ったマンションがどれなのか、私は知りません。吹付塗装に比べてタイル張りは高価なので、一部の高級物件には使われていたようです。しかし「タイル張り=高級」のイメージを決定づけたのは、東京の表参道に建設されたコープ・オリンピアからでしょう。日本初の億ションとなったコープ・オリンピアは、高級マンションのイメージを決定づけました。コープ・オリンピアは以下の写真のように外壁の大部分がタイル張りで、吹付塗装が主流だった当時のマンションとは全く異なる印象を与えています。

※表参道に立つコープオリンピア

コープ・オリンピア以降、マンションの外壁をタイル張りにするマンションが一気に増えていき、大京観光が全てのマンションの外壁をタイル張りにすると、マンションの外壁の標準はタイルになっていきました。こうして外壁タイルは高級マンションではなく普通のマンションの仕様になり、吹き付け塗装は安物と見られるようになっていきます。

1989年北九州の剥落事故

外壁のタイル張りが標準になってから10年も経ったある日、悲劇的な事故が起こりました。1989年11月21日、北九州市小倉北区昭和町の住宅都市整備公団昭和町団地(10階建て)で、最上階付近のタイルが縦5m、横8.5mにわたって落下しました。この事故で男女3人が死傷し、事件は全国に報道されました。

これによりタイルの張り方も注意するようになるのですが、道路からの振動も原因になったこと、何万棟も外壁タイル張りを行ってきたのにタイルの剥落が1棟しかないため、あまり真剣に取り組んでいたとはいえなかったと思います。当時はサンダーのカップでコンクリート面を目粗しを行い、埃を入念に洗い落とすことが主な剥離対策でした。私は92年から現場監督を行なっていますが、忙しくなると目粗しや洗いを飛ばそうとする業者は多くいました。

バブル崩壊の余波

バブルが崩壊した90年代は、建築費が厳しく制限されていきます。そのため鉄筋コンクリートの躯体を作る型枠を2回、3回と転用することが増えました。転用するにはコンクリートからキレイに型枠が外れる必要があります。そこで型枠に剥離剤と呼ばれる油を塗るようになりました。この剥離剤の油が付着したまま左官工事を行うと、コンクリートとモルタルの間に油が残っているので、モルタルごとタイルが剥がれ落ちてしまいます。90年代の物件のタイルの浮きの原因の一つに、この剥離剤が挙げられています。

※剥離剤の塗布状況

またバブル崩壊によるコスト削減は、工期に影響を与えます。工期が短くなったために突貫工事が増えました。突貫工事になると工程を飛ばすことがあるため、上記のカップ掛けや水洗いを十分に行わないこともありえます。そのためタイルが剥離することが増えていきました。

地方ゼネコンの東京進出

ゼネコン 不況は全国を襲い、地方のゼネコンは仕事がないため、少しでも仕事がある東京に進出してくるようになりました。2000年頃から徐々に進出するゼネコンが出てきて、2005年頃には多くの地方ゼネコンが東京で仕事をしています。そのほとんどがマンション工事でした。彼らは名刺がわりに安い単価を提案してきたので、コスト削減に苦しむ デベロッパー には渡りに舟でした。こうして多くのデベロッパーが、地方のゼネコンを使ってマンション建設を行いました。

しかしこれらのゼネコンの中には、小規模の共同住宅しか建設したことのない会社も多く混ざっていました。30戸クラスのマンションと200戸のマンションでは、建設方法は大きく変わりません。しかし管理の仕方は大きく変わってきます。また単に施工技術が劣る会社もあり、デベロッパーによっては全く使わなかったりもしました。私が経験した中では、強烈な営業をしてくるにも関わらず、マンション建設は現在進行中の都内の物件が初めてで、問題なく工事が進んでいるので、新規でやらせて欲しいと言ってきました。このような会社が施工したマンションの中には、技術不足によるタイルの浮きが含まれています。

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2005年のタイル落下事故

2005年6月14日、東京都中央区のニューリバービルで、幅約5m、厚さ約5cmにわたり重さ計900㎏が剥がれ落ち、破片が歩いていた女性の頭や通りかかった車を直撃しました。女性は重症で病院に搬送されています。剥がれ落ちたのは斜壁になっている部分で、ひび割れなどによって防水層とタイルのモルタルとの間に隙間が生じてタイル部分が滑り落ちるように落下したようです。これにより多くのマンションデベロッパーでは、斜壁のタイル張りを制限、または禁止にしました。

そしてこの頃からデベロッパーやゼネコンによっては、タイルを張り付けるコンクリート面を超高圧洗浄で目粗しすることを標準にするところが出てきました。水を超高圧で吹き付ける洗浄方法で、コンクリート面に引っ掻いたような傷ができるので、モルタルの付着が良くなるのです。この頃はまだまだ一般的とは言えませんでしたが、確実に対策をする会社が増えてきたという印象を受けました。

外部リンク
全国タイル業協会 / 全国タイル工業組合の見解

2011年の別府マンション裁判

約17年という長い年月をかけて、大分県別府市のマンションで施工不良があったとする裁判の最高裁判決が出ました。この裁判に関しての詳細は、以前書いたことがあるのでそちらをご覧ください。

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この裁判が画期的だったのは、マンション住民が契約関係のない施工会社の責任を裁判所が認めたことです。これにより施工不良があった場合は、不法行為として住民が施工会社を訴えることが可能になりました。この判決後に、築10年を過ぎたマンションの住民が施工会社を訴える例が相次ぎ、特にタイルの浮きや剥がれが問題視されました。不法行為の時効は20年のため、施工会社は施工不良があった場合は竣工から20年は訴えられる可能性が高まりました。

これまでタイルの剥落があっても、責任を追求されるのは契約関係がある売主だけと思っていた施工会社は、本格的にタイルの対策に乗り出しました。この裁判以降、超高圧洗浄によるコンクリート面の目粗しは、多くのゼネコンで標準になっていきます。さらに野村不動産などの一部のマンションデベロッパーは、バルコニーがない妻面でのタイル張りを禁止するなど、タイル落下対策が本格化していきます。

まとめ

大雑把にですが、タイル剥落と対策の歴史をまとめてみました。タイル剥落の対策は90年以降から行われているので、よほどの施工不良がない限りは剥がれ落ちることはないと言う人もいます。しかし現場にいた私の感覚からすると、口では対策を言うものの全社を挙げて本腰を入れて対策を行った会社はごく少数だったように思います。本気でタイルの剥落対策が始まったのは2011年の別府マンション裁判以降で、そのため今でもあちこちでタイルが浮いたり剥がれたりするトラブルが頻発しているのだと思います。もちろん大手ゼネコンなどの中には、早くから対策を行っていた会社もあるので、全ての会社が2011年以降に対策が始まったというわけではありません。

そしてもしお住まいのマンションでタイルが落ちてきたら、慌てずに落ち着いて対処しましょう。対応の仕方は、以下の記事を参考にしてください。

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