マンション理事会で勝手に決めるな /住民の不満が溜まった管理組合
先日、マンション理事会から相談を受けました。すでに決定したことに対して、1人の住民から猛烈な抗議がきているというのです。なぜそんなことになってしまったのかを見ていきましょう。
高まった侵入窃盗への不安
マンション近隣で侵入窃盗が数件発生し、住民の間に不安が高まっていました。戸建への侵入窃盗だったのですが留守を狙って窓をこじ破る手口だったため、マンションで同じように侵入されるのではないかという声が住民間で出るようになります。そのうち複数の住民が理事長に侵入窃盗の対策をして欲しいと相談するようになっていました。
理事会は管理会社も含めて相談し、1階のエントランス脇の集会室やその隣の団らん室の窓から侵入される可能性があるという結論になりました。理事会はこじ破りを防ぐために何ができるかを検討し、防犯フィルムを貼るか防犯センサーを設置する方向で検討することになります。なかなか結論が出ないので、とりあえず来期の予算として100万円を計上して、詳細は来期に検討することになりました。
総会では予算決議の際に、防犯フィルムか防犯センサーを検討していることを説明しました。予算100万円の根拠として、防犯フィルムと防犯センサーの両方を実施することになっても可能な金額と説明しています。総会では特に質問が出ることもなく、予算は可決されています。こうして防犯対策は予算だけ確保し、来期の理事会で検討して実施することが決まりました。
理事会で防犯フィルムを決定
メンバーが入れ替わった理事会は、新たに見積書を取得して防犯フィルムと防犯センサーのどちらが良いか検討しました。その過程で業者が現地を確認すると、防犯センサーは電気の配線を引き直さなくてはないことがわかります。工事が大規模になるうえに、予算オーバーになることがわかりました。また理事会の中では、外部の人が共用部に侵入しても玄関の鍵をちゃんと閉めていれば侵入窃盗を防げるのでは?という声も出ましたが、対策を求める声もあり、総会で説明して予算も確保していることから、防犯フィルムを貼ることで決定しました。
理事会は業者と打ち合わせを行い、工事予定日を決定しました。工事の決定と工事予定日のお知らせ、さらに防犯フィルムは貼ってから乾燥するまで数日かかるため、触って欲しくはないことなどの注意事項を知らせるチラシを作成し、管理会社が全戸にポスティングしました。これで1年以上に渡って議論されてきた防犯対策が決着すると思われました。後は工事を行うだけで、完了検査を理事長と副理事長で行うことになっていました。
突然の反対表明
住民の1人が理事会にお手紙を書いて投函し、住民の承諾なしに防犯フィルムを貼ることを決めた理事会の独断専行だと批判してきました。同時に駐車場でたまたま会った理事長に対しても、防犯フィルムか防犯センサーかは住民全体で決めることで、理事会が勝手に決めるのはおかしいと訴えてきました。そこで理事長は理事会にこの人を呼んで話を聞いたのですが、防犯フィルム工事を中止して総会で決議しろと迫ります。理事会としては総会で予算を計上して可決されていることを理由に、理事会で決議は問題ないと突っぱねました。
理事会はすでに業者と契約をしており、防犯フィルム工事を中止すればキャンセル料が発生することも説明しましたが、住民の同意もなく勝手に契約するとは何事だと言われて理事会は紛糾し、1時間で終わる理事会が4時間以上もかかってしまったそうです。出席していた理事の1人は「なんでも総会で決議しなくてはいけないと思っている」と、うんざりした感じで語ってくれました。
マンション総会は株主総会に似ている
なぜマンションには理事会があるのでしょうか。マンション管理組合の最高決議機関はマンション総会になります。しかし今回は理事会で防犯フィルム工事を選択することを決めました。最高決議機関である総会ではなく、理事会で決めたことがおかしいと言われてしまったのですが、それではなぜ理事会があるのでしょうか。それは全てを総会で決定するのは手間がかかりすぎるからです。これは株式会社の株主総会に似ていると言えば似ています。
株式会社の最高決議機関は株主総会になります。株主は会社の規模によって何百人、何千人、何万人にも及びます。会社で何かを決定するたびに株主全員が集まって決定するのはスピード感がなくなり、手間と時間とコストがかかり過ぎてしまいます。そこで株主総会では、全員を代表する社長を決めて経営の多くの部分を任せています。株主総会を頻繁に行うことは現実的ではないので、取締役会議で多くのことを決定し、その結果を株主総会で報告しています。
マンションもこれに似ています。何でもかんでもマンション総会で決議することは手間も時間もコストもかかるので、理事会を作ってそこでさまざまなことを検討していきます。もちろん取締役会議とマンション理事会では決定できる範囲が全く違うので、両者がイコールだと言うことはできません。しかしどちらも効率的な組織運営を行うために設置された機関であり、一定の権限が与えられています。今回の事例では、事前に住民アンケートを行なって、防犯対策を要望する声が多かったのでスタートしています。総会の時も単に予算を計上するのではなく、防犯フィルムと防犯センサーを検討していることを説明しています。また理事会の広報でも3回ほど説明を行なっているそうです。
かなり丁寧に住民説明を行なっているのですが、今回クレームを入れた人は総会には出席していなかったようですし、広報も見ていなかったようです。そのためアンケートを実施してから、いきなり防犯フィルムに決まったと思い込んでいたみたいです。一部の理事は迷惑な話だと怒っていましたが、こういう住民は少なくないと思います。理事会の活動を周知するというのは、どのマンションでも大きな課題になっています。
理事会に参加しよう
一方で、理事会の運営に不満がある場合は声をあげるだけでなく、理事会に参加しましょう。もちろん理事ではなくとも声をあげることはできますし、理事会が行うアンケートに答えたり理事会宛に投書することで意見や不満を伝えることも可能です。しかし考えてみてください。理事会はさまざまな問題を抱えながら、一つ一つの問題を処理しています。そんな中で、結果だけ聞いて不満を言われると反発する人も出てくるでしょう。
そこで理事に立候補して、自分の意見を理事会に伝えることが効果的です。多くのマンションでは理事は輪番制になっていると思いますが、立候補も受け付けています。立候補すればほとんどの場合、そのまま理事になることができると思います。理事として理事会に参加し、自分が感じている住民の不満を直接届け、他の理事と一緒に議論して解決するようにしましょう。今回の例に挙げたマンションでも、不満をぶつけてきた理事に対して理事に立候補するように提案していました。今後、立候補するかはわかりませんが、不満を持っている人が理事会に参加して一緒に問題を解決するのは良いことだと思います。
まとめ
理事会活動では忙しい中で時間を割いている理事が多く、マンションによっては難しい課題が山積みになっています。管理会社が協力的ではない場合やフロントの能力不足で上手く進まない場合もあります。そんな理事会の運営に不満がある方は、ぜひ理事会に参加してみることをお勧めします。困難になっている理事会ほど多くの人の力を必要としているので、不満をぶつけるだけでなく助力することが管理組合の助けになります。よく理事の仕事をボランティアと言う人がいますが、理事会活動や管理組合活動は自身の財産であるマンションの資産性を維持するための行為ですからボランティアではありません。自分達の財産を守るためということを忘れないようにしましょう。