リビングルームとは何か /最も改善すべきマンションの1室
現在のマンションのほとんどに、リビングルームは存在します。リビングルームは居間と訳され、家族団らんの部屋であり、ほとんどが洋風の部屋になっています。マンションのパンフレットや間取り図ではLと表記されていて、ダイニング=D、キッチン=Kと合わせてLDKになっているケースが多くあります。今回は、このリビングルームについて考えていきたいと思います。
リビングルームの歴史
リビングルームの歴史を遡ると、15世紀から17世紀に起こった宗教改革に起源を求めることができると言う人もいます。自分も家族も隣人も全て神の子で同格の存在であり、席に上下がなく全員が同じようにくつろげる部屋という考えから、リビングルームが誕生したというわけです。このような考え方が影響した可能性は大いにあると思いますが、リビングルームという言葉が登場するのは18世紀末になります。
またパーラーが、リビングルームの起源という意見もあります。アメリカに移住したピューリタンが形成した、中流家庭で用いられた談話室がパーラーです。家族や友人知人と語らうための部屋なのですが、これはイギリスにおけるドローイングルームに通じるものがあります。食事室での食事が終わると、男たちはタバコを吸いながら仕事や政治などの話をしました。こういった会話が始まると、女性達は食事室を出てくつろげる部屋に移動するのです。これがドローイングルームです。
ドローイングルームは、大抵の場合は食事室に隣接されていて、奥まった場所にありました。ここで気兼ねなくくつろいでいたのですが、その快適さから男性も混じるようになって現在のリビングルームに繋がったというわけです。食事室に隣接した談話室というのは、現在のリビング・ダイニングに通じる間取りだと思います。
先程のパーラーは、くつろぐというより厳格な雰囲気の部屋でした。家主のコレクションが並べられ、気軽に触ることもできない重厚感が求められました。そのためパーラーでは落ち着かないと考えた人達は、パーラーの一角にコージーコーナーを作ります。1890年代のことでした。長椅子にクッションを並べてくつろいだ雰囲気で使えるコージーコーナーは広がっていき、やがてパーラーは消滅してコージーコーナーが中心になっていきます。1915年発売の雑誌「ハウス・ビューティフル」では、パーラーレス国家と題して、消えゆくパーラーを惜しむ記事が掲載されています。
こうしてアメリカでは、隣人などを招いて仕事や政治談義に花を咲かせるパーラーが消え、家族や親しい友人らとくつろぐ部屋が増えていきます。これが現代のリビングルームに繋がっています。しかし一方で注目するべきは、リビングルームという名前が最初に登場したのは18世紀末のイギリスで、最貧民の農民の住宅であるコテージにおいてです。狭い住空間の中で、就寝以外の全てを行う部屋がリビングルーム(生活の部屋)と記載されています。
日本のリビングルーム
初期の日本のマンションの代表的な間取りとしては、日本住宅公団が採用した51C型が挙げられます。寝る場所と食事をする場所を分ける「寝食分離」を掲げて採用されました。
51C型にはリビングルームがありません。当時最も注目されたのはダイニングでした。当時盛んに放送されていたアメリカのテレビドラマによく出てくるダイニングは多くの日本人の憧れで、これを日本で実現することが行われました。この流れに関しては、以下の記事でも書いています。
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日本のマンションの間取りはnK→nDK→nLDKの順に発展していきました。公団がダイニングキッチンを一般化させると、今度は民間の業者がモダンな間取りとしてリビングルームを導入します。1970年代に入ると、長谷工コーポレーション(当時は長谷川工務店)がリビングルームを採用した間取りを発表しました。
この間取りが面白いのは、リビングが窓際ではなく中部屋になっていることです。これは公団の51C型間取りを元にリビングルームを作ったからだと言われています。その後80年代に入るとリビングルームが窓際に移動し、リビングルームは一般的になります。日本でのリビングルームの歴史は、まだまだ浅いと言えるでしょう。
昭和の住宅にあった応接間
昭和の戸建住宅には、応接間というスペースがありました。これとは別に居間が存在します。私の子供の頃の家は、ダイニングキッチンに隣接した和室の居間があり、そこにコタツがあって家族でテレビを見たりしていました。一方、玄関脇には応接間があり、そこはなんちゃって洋風のシャンデリアにソファセットがありました。ここは普段は使うことなく、来客が来た際に使用していました。
この応接間は大正時代から増えていき、昭和の途中までは多くの家に見られました。これは最初に書いたパーラーのようなもので、威厳のある外部の人を招く際に使う部屋でした。父親が仕事仲間を呼んだ際に使われたり、学校の家庭訪問などでも使われていました。応接間はパブリックなスペースなので、急な来客に備えて常に片付けられて綺麗に掃除されていました。
一方、居間はプライベートなスペースです。家族団らんの場所であり、常に家族の誰かがいて賑わっています。テレビを見たり家計簿をつけたり、家族の会話があり時には宿題をすることもあります。つまりこの部屋は常に誰かがくつろいでいて、散らかっている状態だと言えます。昭和の住宅では常に散らかる居間と、常に片付けられている応接間が別に存在したのです。
リビングルーム=居間+応接間
リビングルームは居間と応接間の機能を兼ね備えた部屋です。上記の公団51C型は12坪(約40㎡)しかありませんでした。徐々にマンションは広くなっていきますが、90年代でも3LDKで70㎡程度がせいぜいでした。狭い面積を有効に活用するため、普段使いしない応接室を居間と兼用することになったのです。それがリビングルームです。
このリビングルームは狭い空間を有効活用することに成功しましたが、同時に居間として使うため常に散らかる反面、応接室なので常に綺麗に片付けなくてはならない部屋になりました。共働きなどで家事に使える時間が減っている中で、常に片付けなくてはならないというのは無理があります。特に小さな子供がいる家庭では常に片付け続けることは困難ですが、リビングルームの応接室としての機能は常にキレイであることを求めます。リビングルームは、日本に導入された時から矛盾を抱えているのです。
まとめ
リビングルームは日本では歴史は短く、狭いマンションの空間をいかに効率よく使うかで生まれました。そのため常に散らかる居間と常にキレイに片付ける必要がある応接間のが一緒になり、リビングは常に使うのに常に片付けなくてはならなくなりました。来客が一般的ではない現在の日本では大きな問題になることが少ないので時代に合っているとも言えますが、友達を自宅に呼ぶことが多い人や小さな子供がいる家庭などでは負担になっている話もよく聞きます。多様性を求められる時代において、リビングルームを見直しても良い時代にきているように思います。今後は新築よりもリフォームで、様々な案が出てくるのではないかと思っています。
いつも楽しく読ませてもらっています。
こちらの記事で取り上げられている「居間+応接間」の概念ですが、実は自分も将来住むならこうしたお客を出迎える客間を備えた部屋がいいと前から思っており、無駄に不動産サイトで部屋探しをしては空想に耽っています。
その際、なるべく一部屋辺りの面積が広い方がいいと思って当初は2Kまたは2DKで部屋探しをしていたのですが、これだと思ったより検索でヒットせず、最近だと2LDKも検索候補に入れて探すようになってきました。2LDKも入れると一気に検索数が上がるのですが、自分としては2DK辺りで部屋面積が広く、家賃の安い物件がいいため、やや複雑な気持ちになります。
そこで質問なのですが、近年の日本の物件で1部屋当たりの面積、それと各部屋の面積割合で傾向などあるのでしょうか?具体的には「1部屋の面積は最低6畳以上」とか「面積割合は〇:〇:〇」などと、なにかこうした傾向がみられるようであればこのブログなどで紹介いただけると助かります。
コメント、ありがとうございます。
残念ながら今現在、1部屋あたりの面積のデータは持ち合わせていません。調べてみて、そのようなデータが手に入ればブログに書いてみたいと思います。
ですが確実に1部屋あたりの面積は広がっています。それは専有面積そのものが広くなっているからで、かつては55㎡の3LDKが標準でしたが、今や70㎡以上が当たり前になっています。各居室の面積もそれに合わせて大きくなっているので、時代とともに大きく変化しています。
興味深い視点をありがとうございます。
早速ご返事いただき、ありがとうございます。
なんとなく、不動産業界の情報を見ていると物件当たりの広さこと面積についてはあれこれ議論されるものの、個別の居室の面積比率や実面積について触れられることは少なく、また人気となる部屋面積もあまり見ない気がして、突拍子もなくこんなこと尋ねてしまいました。
あくまで個人的な印象ですが、これまでの日本の部屋物件では通勤などのアクセスが重視されてきたように見えますが、コロナの影響もあってか単純な広さがより重視されるようになって来たのではと思う節があります。この辺、不動産業界は奥が深いなともつくづく感じます。
ご指摘のように、これまでは通勤の利便性や子供の学区などが重視されてきましたが、コロナ禍でリモートワークが増えたため、室内の利便性が求められるようになりました。ただ従来の立地の利便性の人気も根強く、今後はニーズが多様になってくる可能性があります。