理事会も気をつけるべきカスハラ /管理費値上げの要因にも

日本でパワハラという言葉が提唱されて20年が経ちました。2019年には国際労働機関で「暴力及びハラスメント条約」が結ばれ、今や多くの企業が注意しています。そしてマンションではカスタマーハラスメント(カスハラ)が徐々に問題になりつつあります。マンションにおけるカスハラとは何か?今回はカスハラについて見ていきたいと思います。

カスハラとは

カスタマーハラスメントは、消費者がサービスや商品を提供している企業に対してハラスメントを行う行為です。2020年に施行されたパワーハラスメント防止法(改正労働施策総合推進法)には、カスタマーハラスメントという言葉は書かれていませんが、顧客からの著しい迷惑行為に関する記載があります。コンビニ店員を土下座させてSNSで拡散するといった行為が急増したことから、カスハラは近年注目されています。厚生労働省も動いていて、カスタマーハラスメントのマニュアルを作る予定だそうです。

厚生労働省:(参考)職場におけるパワーハラスメント対策

マンションにおけるカスハラ

マンションでカスハラという言葉を聞くようになったのは、ここ数年です。理事会や総会などで管理会社のフロントが罵声を浴びせられたり、机を叩いて恫喝されることに対して管理会社が危機感を募られるようになりました。管理会社のフロントの中には、それが原因で出社を拒否するようになったりうつ病の原因になるケースもあります。

こうした事態に、特に大手の管理会社は社員を守るためにフロントを交代させたり、理事会に上司が同行したりするなどの対策をとっています。また怒鳴ったり服を掴むような行為があった場合は、理事会などの最中であっても速やかに退出するように勧めている管理会社もあります。

アフターサービス部門でも問題に

私がデベロッパーのアフターサービス部門に勤めていた時に、部下が理事会に軟禁されるという騒動がありました。この時に私は上司から、殴られたり服を掴まれたり、脅迫的な言動があった場合にはすぐに退出させるように言われました。会社としてはお客様の利益を守る義務と同時に社員の安全を守る義務があるため、身の危険を感じる場合には話の途中であっても逃げるようにというわけです。

私も顧客に胸ぐらを掴まれたことはありますし、延々と罵声を浴びせられたことがあります。しかしこの指示が出てからは「話し合いができないので、今日は失礼します」と、さっさと帰っていました。その態度の激昂して腕を掴まれたりしたことがありますが「暴力を使うなら警察に連絡します」と言っていました。それで収まるはずもなく喚き散らす人もいますし、会社にクレームの電話を入れる人もいるのですが、社員の安全を優先する対策をとっていました。

管理組合と管理会社の温度差

かつてマンション販売会社は「マンションは楽ですよ。何せ管理会社が全部やってくれますから」と言って、マンションの利便性を売り文句にしていました。実際にかつての管理会社は御用聞きの側面があり、住民が無理難題を言ってもなんだかんだで手を焼いてくれるケースが多くありました。これは管理会社と管理組合の管理委託契約の内容には含まれないものもあり、例えば「上の階の住民の騒音で寝られない」といった専有部の問題にも対応していたのです。

しかし時代が変わり、管理会社は物件あたりの利益率にシビアになっていきます。この10年ほどで管理会社は管理委託契約に含まれないことは断るようになっていて、先に挙げた上階の騒音問題などはキッパリ断る管理会社が増えています。

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以前の管理会社は住民が困れば、契約外のことでも「入居者さんが困ってるんだから仕方ない」と手を貸していたのに、近年になって急に「契約外なのでできません」と言うようになったのです。これには住民も困惑しますし、腹を立てる人も出てきます。特にリプレースで新しい管理会社を選んだ管理組合などは、5年前と言っていることが違うと腹を立てたりもします。

その一方で、管理会社も新築物件の減少に加えて人件費の高騰などがあり、採算性に苦しんでいます。ネットでは管理業界がブラックだという噂も根強く、新しい社員の獲得にも苦労しています。こうした中で慢性的な人手不足、採算性の低下などがあり、さらに管理費の値上げは拒否されることが多く苦しんでいます。

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こういったことから管理組合と管理会社に温度差が生まれ、仕事のミスなどがあると管理会社を責める理事が結構います。そのため管理会社はカスハラの問題に敏感になりつつあります。

大手ほど苦しむカスハラ

大手の管理会社は他の業種と同じく、社内のパワハラにも手を焼いていました。そして今はカスハラに手を焼いています。理事会で激しく怒られる、キツく詰められるといったことだけでなく、昼夜関係なく理事から電話が入ってくる、連日のようにメールがやってきて対応に追われるといったことが管理会社のフロントを苦しめています。パワハラやカスハラで社員が業務に支障が出た場合、会社はその社員を守らなくてはなりません。管理会社のフロントは激務に加えてこれらのハラスメントに苦しみ、フロント業務ができなくなり配置転換になっています。

こうした状況のため、本社経費がどんどん上がっている管理会社があります。現場勤務ができなくなった社員を本社の管理部門に入れるため、管理部門の経費が上昇するのです。マンション管理組合から見ると、サービスの質が下がっているのに値上げを要求されることに繋がり、不満は高まってしまいます。

ハラスメントの基準の曖昧さ

パワハラであれカスハラであれ、企業によって対応方法が異なります。そのため勤めている会社によって基準が違うこともしばしばです。管理会社からカスハラがあったと言われた理事は、自分が勤める会社では当たり前のことと思ったりします。言いがかりをつけられているのではないかと思ったり、別の理由があるのではないかと考えたりします。

管理会社のフロントに土下座をさせた、殺すぞなど脅し文句を言ったというのは誰が聞いてもカスハラですが、微妙なラインのものも多く管理会社がカスハラを受けたと感じていても理事会側には全く身に覚えがないという場合もあります。最近はカスハラを理由に管理会社が理事会に要望を出すこともありますが、話が平行線になることも少なくありません。

カスハラの事例

私がお邪魔するようになって3ヶ月も経っていない、首都圏某所のマンションです。総戸数は400戸を超える大規模マンションで、管理会社はマンションデベロッパーの傘下にある大手です。ある時、理事会から相談があると連絡を受けて伺ったところ、管理会社から要望書を手渡されたと言います。その内容は多岐に渡り、管理委託契約外の業務の強要や一部の理事からの高圧的な対応、連日のメール連絡や電話による要望の多さなどの改善が記されていました。これらが改善されなければ、契約の更新を行わないというのです。

確かに理事の中には声が大きい人がいます。管理会社のミスがあり、その理事が少々大きな声で詰問したこともありました。しかしミスの是正を求めただけで、脅しがあったわけではありません。契約外の業務というのも話し合いの中で管理会社が行うと決めたものでした。それに短い付き合いではありますが、管理会社と理事会の関係はさほど悪い状態には見えなかったので、私も驚きました。そこで管理会社のフロントに連絡してみると以下のような説明がありました。

①フロントが業務に耐えられず、何度も交代している。
②何年も前から契約外の業務を依頼されていた。
③契約外の業務はできないと何度も訴えたが、最終的には押し切られていた。
④依頼されたことに関して週に何度もメールがあり、その度に進捗状況の説明を求められた。
⑤一部の理事からの揚げ足取りが多く、詰問が続くことがある。
⑥状況が改善しなければ契約を更新しないのは本社の決定。

中には「この程度で?」と言いたくなる項目もありますが、管理会社としては真剣に事態を受け止めています。実は採算が取れなくなったので契約を切る方便にカスハラを言っているのかとも思いましたが、それは強く否定されました。曰く「400戸以上あるマンションで、採算が取れないような見積もりを我が社がするわけがありません」ということで、これには説得力があると思いました。管理会社はカスハラで真剣に悩んでいるようでした。

まとめ

カスハラは社会問題化していて、厚労省も動いています。カスハラによって管理会社が契約を更新しない事態も出てきていますので、管理組合にとって今後は大きな問題になる可能性もあります。管理会社が採算性を追求するようになったという話を書いたことがありますが、それ以外にも大手は社員を守らなくてはなりません。管理会社のフロントと理事会の付き合い方を、改めて考える時期に来ているのかもしれませんね。

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