六会コンクリート事件 /コンクリートの信頼が揺らいだ日

2008年7月、国土交通省が出荷されたコンクリートにJIS不適合品があったことを公表しました。JIS不適合コンクリートを出荷したのは、神奈川県の六会(むつあい)コンクリート(株)で、この発表を機に一気に社会問題化しました。まだ姉歯事件の記憶が強く残っており、またマンション絡みの不正疑惑ということで、マンションの安全性ひ再び疑惑の目が向けられることになりました。

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事件の概要

事件は国土交通省の発表により表面化しました。六会コンクリート(株)が製造した生コンの細骨材に溶融スラグが使われており、コンクリートの表面が部分的に剥離する「ポップアウト」という現象が起こる不良品でした。溶融スラグが含まれるとJIS規格に適合しないため、建築基準法第37条に違反しているというものでした。

さらに国土交通省は問題のコンクリートが使われた物件リストを公表したことで、これらの物件をどうするかが問題になりました。さらにこれ以外にもJIS不適合コンクリートが使われた建物があるのではないか、そしてこの問題は六会コンクリート(株)だけでなく他の会社でも行われているのではないかという疑念が広まりました。

国土交通省発表
六会(むつあい)コンクリート(株)が出荷したJIS規格に適合しないレディーミクストコンクリートの使用による建築基準法違反の調査状況及び対応について

コンクリートの構成

コンクリートはセメント、水、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)を混ぜ合わせて作ります。正確には混和剤なども混ぜるのですが、主な成分はこの4つになります。混ぜ合わせてすぐはドロドロとしていて、この状態では「生コン」と呼ばれます。これが乾燥することで強度を持ち、建物の骨組みに使われています。

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コンクリートはそれぞれの材料の割合が厳しく定められていて、その配合はミルシートに記載されています。配合を変えることでコンクリート強度が変化するので、厳重な管理が必要になるのです。かつてコンクリートは建設現場で混ぜて作られていましたが、現在は生コン工場で厳密に管理されています。今回はその生コン工場でJIS規格に適合しない生コンが作られ出荷されたので大問題になりました。

溶融スラグとは

この事件では、細骨材に砂と一緒に溶融スラグが混ぜられていたため問題となりました。溶融スラグは廃棄物などを1300度以上で熱して溶融したものを冷却して固化させたものです。これを水砕して粉末にしたものが使用されたようです。廃棄物処理の際に高温で熱することでダイオキシンなどの有害物質を無害化させることができるため、産廃処理に有効な手段になっています。

溶融スラグをコンクリートに使うと不良品になるというわけではありません。コンクリート二次製品には使われていますし、アスファルトにも用いられています。しかし生コンに使うことはJIS規格では認められておらず、建築基準法ではJIS規格の生コンを使うことになっているので法令違反になったのです。そしてなぜ砂ではなく溶融スラグが使われたかというと、コストの問題が大きかったようです。砂だと1トンあたり2000円から3000円ぐらいはします(砂の種類によって変わります)。しかし溶融スラグだと1/10ぐらいの価格で購入できるからです。

なぜそんな工場から購入したのか

この事件が大きな反響を呼んだのは、六会コンクリート(株)の生コンを使用したマンションが藤沢市を中心に広範囲に及んだことで、神奈川県内の300以上の建物が調査の対象になったからです。そしてこの中には、財閥系の大手デベロッパーのマンションもありました。姉歯事件の時には関連した(株)ヒューザーや木村建設が話題になりましたが、それらの会社を知っている人はそんなに多くなかったでしょう。しかし六会コンクリート事件で話題に出てくる不動産デベロッパーは、誰もが知る会社だったのです。

そのため大手デベロッパーの品質管理について疑問の声が上がりました。大手であっても怪しげな生コン工場の製品を使っているのでは、信用できないというわけです。しかし生コンは製造されてから90分以内に建設現場に届けるルールになっています。運搬中に固まってしまい、正しいコンクリート打設ができないからです。そのため建設現場から車で90分以内の距離にある生コン工場を選ぶしかありません。大手デベロッパーだろうが大手ゼネコンであろうが、建設現場から90分以内の工場が六会コンクリートしかなければ、発注するしかないのです。これが理解されなかったため、風評被害も生まれてしまいました。

当然ながらデベロッパーも混乱

当時デベロッパーの品質管理室にいた私は、この事件を勤務中に知らされました。室長はすぐに該当物件がないか調査を指示し、私たちはすぐに作業に取り掛かりました。六会コンクリート(株)から90分以内の物件をリストアップすることから始め、さらに1年以上前から溶融スラグ入りの生コンを出荷していたとされていましたが、念のために数年前まで遡って調べることになりました。

電子化されているデータもありますが、生コン工場まで記載されているものは多くありません。そこで紙のデータを倉庫から送ってもらい、手作業でチェックを行う必要もありました。手分けして目が疲れる作業を続けてクタクタになり、喫煙所で休憩がてら事業部の部長と話していると上司が喫煙所に飛び込んできました。「あったよ、六会コンクリート!」と大声で言うので「ありましたか!」と私も叫んでいました。

それを見た事業部長が呆れたような顔をしていました。「姉歯の時も問題が起こると、あなた方が踏ん張ってくれているのは知ってるよ。事件があると『俺たちの出番だ』って気持ちになるのもわかる。だけど会社の損失になるかもしれないことを見つけて、そんな嬉しそうな顔をされたらねぇ・・・」こう言われた私と上司は不謹慎だったと反省し、さらによく調べると上司が言ってた物件は六会コンクリートのコンクリートが搬入されていないことがわかり、ホッとしたのでした。

この事件では多くのデベロッパーが過去物件を遡り、六会コンクリートの生コンが搬入されていないかチェックをしていました。そこで該当物件が見つかるか否かで喜んだり焦ったりと大変でした。そして六会コンクリートの生コンを使っていたマンションでは、販売中止になるなど混乱が続きました。

技術検討委員会の設置

国土交通省は「JIS規格不適合コンクリートを使用した建築物の対策技術検討委員会」を設置して、溶融スラグを混入した六会コンクリートの生コンが耐久性、構造等安全性にどれほどの問題があるか、また補修方法などを検討しました。記者会見が開かれ、桝田佳寛委員長(宇都宮大学工学研究科地球環境デザイン学専攻教授)が構造安全性には問題がないとし、「材料についてはクロだが、検査の結果、シロの可能性もある」としました。

もともと溶融スラグはコンクリート二次製品には使われており、生コンで使用が認められていない理由は耐久性は構造安全性が劣るからではありません。二次製品は今回のポップアップのような不良が発生しても出荷前の製品検査で不良品を取り除くことができるのに対し、現場の生コン打設では不良品を取り除くことができないからです。そのため安全性に問題ないという見解は、意外なものではありませんでした。しかし大騒ぎになった挙句、安全性に問題ないという委員会の見解に疑問の声が多く出て、国にウヤムヤにされたという反発の声が出てしまいました。

まとめ

JIS規格に適合しない不良品が現場に納入され、マンションをはじめとする多くの建物に不良品のコンクリートが使われたことで、大きな問題に発展したのが六会コンクリート事件でした。マンションデベロッパーの中には販売停止に追い込まれたところもあり、その前に発生した姉歯建築士の構造計算書偽装問題の記憶も新しかったため、マンションの構造に大きな不信感を植え付けることになりました。しかも技術検討委員会が構造安全性に問題ないと発表したため、国に隠蔽されたかのような印象を与えてしまいました。しかし溶融スラグの使用を禁止していたのは、構造安全性に問題が出るから禁止していたわけではないので、この技術検討委員会の見解は当たり前と言えば当たり前のものでした。国はこのような問題に対して、国民にもっとわかりやすく説明して欲しいですね。

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