壊れないマンションはない /災害に対応するなら地盤も確認を

自然災害が話題になるたびに、地震に壊れないマンションの条件みたいな記事を目にします。そして先日、東日本大震災を経験したという方から、地震でも壊れないマンションはないのかというメールを頂きました。結論を言ってしまうと地震で絶対に壊れないマンションなんて存在しないのですが、地震の恐怖を体験した方にとっては切実な願いなのだと思います。そこで今回は、地震で壊れないマンションの話をしたいと思います。

飛行機が突っ込んだら

2001年9月、デベロッパーの品質管理室にいた私に営業マンから電話がかかってきました。「ご契約者から、マンションに飛行機が突っ込んだら壊れるかって質問があったんですけど、大丈夫ですよね?」という内容で驚きました。9月11日にアメリカ同時多発テロが発生し、ワールド・トレード・センターに飛行機が突っ込んで崩壊していくニュースは強烈な印象を与えていましたが、マンションに飛行機が突っ込むことを想定して建設されたマンションはありません。「飛行機が突っ込めば、当然壊れますよ」と言うと、なんとか上手い言い方を考えてくださいと言われてしまいました。

この頃、某財閥系デベロッパーが販売しているタワーマンションでも、飛行機が突っ込んでくるのが怖いという理由で解約が出ていたと後から聞きました。恐らくですが、日本の建築物で飛行機が突っ込んでも壊れないような建物は、防衛庁の施設か在日米軍の施設の一部ぐらいじゃないでしょうか。飛行機がぶつかっても壊れないようにするには、耐爆設計とか防爆設計と呼ばれる特殊な設計方法が必要で、国内でそのような設計された具体的な建物を聞いたことがありません。

原子力発電所でさえも同様で、地震対策は行われていますが、飛行機が突っ込んでくる想定はされていません。原発の上は飛行機のコースからは外れているので、飛行機が墜落してくる可能性は排除されているのです。この国は安全だと言っているけど航空機の墜落には無防備という状況は、95年の東野圭吾の書き下ろし小説「天空の蜂」の設定にも使われています。

建物の耐震基準

耐震基準は建築基準法で定められた、最低限の基準になります。この基準は地震が発生する度に改正され、今日に至っています。建築基準法の元になったのは、1920年(大正9年)に施行された市街地建築物法ですが、この法律には耐震基準は設けられていませんでした。しかし1923年(大正12年)に関東大震災が発生すると、翌年の1924年(大正13年)に市街地建築物法に耐震基準が設けられます。関東大震災以降、鉄筋コンクリート造が火災に強いので注目を集め、市街地建築物法にも鉄筋コンクリート造の地震力規定が設けられました。

その後、続けて大きな地震が発生します。1944年(昭和19年)の東南海地震はマグニチュード7.9、死者・行方不明者は1223人で、全壊した家屋は1万8000戸を超えました。1946年(昭和21年)の南海地震はマグニチュード8.0、死者・行方不明者は1443人、全壊した家屋は1万1000戸を超えています。さらに1948年(昭和23年)の福井地震では、マグニチュード7.1、 死者・行方不明者3,769人、全壊した家屋は3万6000戸を超えています。毎年のように大地震が続くことから1950年に市街地建築物法が廃止され、代わって建築基準法が施行します。この時に許容応力度設計という考え方が採用されました。

1968年に発生した十勝沖地震はマグニチュード7.9、死者・行方不明者は52名でしたが、鉄筋コンクリートの建物に大きな被害を与えました。そこで1971年に建築基準法が改正され、 柱のせん断補強筋規定が強化されています。1978年に発生した宮城県沖地震はマグニチュード7.4で死者は28名でしたが家の全半壊は4385戸、地滑りや液状化現象、ブロック塀の崩壊が発生しました。さらに電気屋ガスのライフラインが止まり、甚大な被害が発生しました。これは大都市が経験した初の都市型地震だったと言われています。

この宮城県沖地震を教訓に、1981年に新耐震基準が制定されました。一次設計と二次設計の概念という考え方が用いられ、地震や突風などがない日常的な構造耐力を計算する一次設計と、地震時などの大きな力が加わった時に建物が壊れないようにするものです。これまでとは大きく異なる考え方を採用したため、それ以前を旧耐震と呼び1981年以降を新耐震と呼んでいます。そしてこれは耐震基準ではありませんが、1995年に阪神淡路大震災が発生すると、既存の建物の耐震改修に関する法律が制定されました。

新耐震基準なら絶対に安心か

上記のように、耐震基準は大きな地震による被害がある度に見直されてきましたが、1981年の新耐震基準から大幅な改訂はありません。耐震基準としては、かなり安心できるレベルに達していることがその後の地震で判明したため、大幅な改正が行われていないのです。そのため「旧耐震=危険」「新耐震=安全」と書かれている記事をネットで見かけることもあります。しかしこれは以前も書いたことがありますが、新耐震なら安全という訳ではないのです。

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マンションは人の手によって作られたものですから、絶対に壊れないということはありません。経年劣化もありますし、地震などでこれまで想定していないような外力が加わることもあり得ます。まだ見つかっていない断層の真上にマンションがあり、地震によって断層が大きくズレれば建物が倒壊する可能性もあります。どんな建物で100%安全とは言えず、壊れる時は壊れるのです。そのため購入する際には壊れにくい建物を選ぶしかなく、営業マンが何と言おうと壊れないと保証することはできません。壊れないマンションではなく、壊れにくいマンションを探すしかないのです。

耐震等級3のマンションを買いたい

住宅の品質確保の促進に関する法律(品確法)で定められた住宅性能表示書には耐震等級1から3までの評価があり、等級3が最高級の耐震等級になります。しかし世の中のマンションのほとんどが等級1で、稀に等級2を見かける程度です。等級3のマンションに至っては、私は聞いたことがありません。共同住宅に等級3はあるようですが、それが鉄筋コンクリート造のマンションかは分かりません。この等級の違いは、以下の通りです。

等級1:建築基準法の耐震性能を満たしている。
等級2:建築基準法の1.25倍の耐震性能を有している。
等級3:建築基準法の1.5倍の耐震性能を有している。

等級3は建築基準法の耐震性能の5割増しですから、地震に不安のある人は欲しいと思うでしょう。それなのになぜ等級3のマンションがほとんどないのは、主に2つの理由があります。

①コストが合わない

耐震性能が1.5倍にするため、購入者は果たしていくら多く払ってくれるでしょうか。そもそも住宅販売は購入者の年収から借りられる限界の金額まで借りてもらい、ローンを組むことで販売してきました。価格が上がるということは、購入可能な人が減ることになり、販売に苦戦するとデベロッパーは考えているのです。

②間取りに制限が多い

柱や梁が太くなり壁や床が厚くなるため、間取りの自由度が制限されてしまいます。実際に等級3で設計した図面を見たことがないので正確なことは言えませんが、普段から大きな梁や柱をいかに上手く見せないようにするか悩んでいる設計士からすると、さらに巨大な梁や柱が出てくるのは大変でしょう。梁が大きくなると窓の大きさも制限されますし、バルコニーの面積などにも影響してくると思います。魅力的な間取りが作りにくいため、先のコストの問題と合わせて敬遠してしまうのです。

壊れにくいマンションを選ぶ

絶対に壊れないマンションはないのですから、壊れにくいマンションを選ぶようにするしかありません。旧耐震基準より新耐震基準の方が壊れにくいですし、等級1より等級2の方が壊れにくいので、耐震性を気にするならそちらを選ぶ方が良いでしょう。そして建物そのものだけでなく、土地も重要になります。その土地の地盤がどうなっているかを知る必要があり、特に液状化マップでその土地が液状化しなかなどを知る必要があります。

まとめ

地震が報じられると壊れないマンションが欲しいと言う人がいるのですが、壊れないマンションはありません。日本のマンションは地震に強い構造になっていますが、絶対に壊れないということはないのです。自然の力は人間の想像を超えることがたびたび起こるので、どんなに手を尽くしても絶対ということはありえません。また日本のマンションは自然災害による倒壊・崩壊には備えていますが、飛行機がぶつかったり爆弾などの人為的な破壊行為に備えて作られてはいません。また壊れにくいマンションであっても、地震保険や火災保険などで備えておくことも忘れてはなりません。

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