本の紹介:「マンション防災の新常識」 /災害にどう備えるか

本書はマンション防災士の釜石徹氏が長年の経験に基づき、従来言われているマンションの防災対策とは少し異なる視点から防災対策をまとめたのが本書です。目から鱗の記載が複数あり、勉強になりました。

目次

目次は以下のようになっています。

第1章 マンション防災を始めるために
第2章 マンション防災の考え方と備え方
第3章 自宅で備える
第4章 家庭の防災
第5章 災害発生時に行うこととやってはいけないこと
第6章 避難所とはどんなところ?

災害時に避難所に行かない

本書では災害時に避難所に行かず、在宅避難することを何度も書いています。在宅避難を勧めているのが特徴で、これは最近は注目を集めている考え方です。東京の品川区では、「高層マンション防災対策の手引き」「高層マンションの防災対策ハンドブック」を配布し、高層マンションに住んでいる人に在宅非難を推奨したことが話題になりました。

品川区
高層マンション防災対策の手引き

これらの冊子の中で、品川区は災害時の避難所が人で溢れかえり、避難所生活のストレスから健康を害した例もあることから、住み慣れた自宅での避難生活を続けることを推奨しています。これは避難所の不足も関係していると言われていますが、避難所生活をした人からは予想外のストレスが報告されたことも大きく影響しているようです。

在宅避難をする場合のやり方

本書は避難所よりも在宅避難を勧め、どうやって在宅避難を行うかを解説しています。事前に何を準備し、何をやっておけば良いかが書かれています。とても有用な情報が多く、一読に値する本だと思いました。記載されているものには家具の転落防止措置や食品のローリングストックなど一般的によく言われる内容から、携帯トイレを使用した後の保管方法など、個人的にはそこまで考えていなかったと痛感させられる内容まで網羅されていました。

エレベーター閉じ込め時の救出訓練

本書ではエレベーターの閉じ込めを事故と書いていますが、閉じ込めは事故ではなくかごの中にいる人を守るための措置です。ここを誤解して閉じ込められたからこじ開けて脱出しなくてはと考えるのは早計ですし、エレベーターを壊すことになりかねません。その後の復旧時に恐ろしく時間がかかったり、高額の修理費用が発生することになりかねません。

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もちろん本書にも管理組合が閉じ込め者を救出する際の条件として、大災害が起こってエレベーターの保守会社と連絡が取れない場合か、連絡が取れても保守会社の保安員がいつやって来られるかわからない場合で、閉じ込められた人に命の危険が迫っている場合と書かれています。個人的にはここをもっと強調して欲しかったと思います。世間的に閉じ込めは事故だと思われているため、閉じ込めが起こった場合に安易に救出活動をすることはエレベーター復旧を阻害することになるからです。

排水管の確認方法

災害の後にトイレの排水が可能かを知るために、食品用着色料で着色した水をトイレから流す方法が記載されています。これは新築マンションの竣工検査でも行われる方法で、私はプチトマトを使って排水管が繋がっているかを検査したこともあります。ですので排水管が破損していないかを知るために、このような方法は有効だと思います。

しかしこの方法で知ることができるのは、排水管が折れたりせずに汚水枡まで繋がっているかどうかです。途中でヒビが入って汚水が染み出している可能性もあるので、使っていくうちにどこかの部屋で汚臭が充満してくることも考えられます。またマンションの汚水枡まで繋がっていても、そこから公共枡や公共の配管が生きているかはわかりません。汚水を流し続けていると、敷地内の汚水枡から汚水が溢れてくることも考えられます。あくまでも一時的な検査方法として捉え、トイレを使用するならその後の状況も観察する必要があります。

やってはいけないこと

本書には災害時や災害後にやってはいけないことが多く記載されています。例えば以下のようなことが書かれています。

・あわてて家を飛び出さない
・避難はしごは使わない
・災害弱者を無条件に運んではいけない
・安否確認後の集計作業をやってはいけない
・マンホールトイレをあてにしてはいけない
・コミュニティをあてにしてはいけない

なぜこれらのことをやってはいけないかは本書を読んで頂くとして、防災について深く考え試行錯誤を繰り返さないと得られない知見だと思いました。個人的にはコミュニティはコスパが悪いという表現は、日頃から思っていることを突かれた気がしました。理事会の運営だけでも大変な中、コミュニティ運営というのはかなりの労力を要します。もちろんできているマンションもありますが、全てのマンションに気軽に勧められるものではないと思っています。

まとめ

防災対策を考えているマンションは多いと思いますし、理事会でもたびたび議論に上がると思います。その際に、一読する価値がある本だと思いました。本書にはマンション防災スマートシートと呼ばれるものが紹介してありますが、このようなものを作る過程がとても重要だと思いました。マンションの防災を考えるのは大変で、それだけで理事会の大部分の時間を使うこともあります。そういった場合に、本書はとても有用だと思いました。

本の紹介:「マンション防災の新常識」 /災害にどう備えるか” に対して2件のコメントがあります。

  1. 釜石 徹 より:

    拙著「マンション防災の新常識」を取り上げていただきありがとうございます。
    内容をしっかり読まれたうえでのご意見は大変ありがたく思いました。
    最後の「コミュニティはコスパが悪い」ということにも同意いただき大変うれしく思います。
    大災害にあっても生き続けるために必要なマンション防災対策を広める活動を続けて参ります。
    これからも研究を重ねてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

    1. TaCloveR Tokyo より:

      釜石様

      コメントいただき、ありがとうございます。
      本書はコンサルタントを行なっている私にとって、とても参考になりました。
      先生の防災に特化した深い見識は、多くの方に役立っていると思います。
      今後一層のご活躍をお祈りいたしております。

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