2000万円ほど安くさせますよ /失敗するコンサルタントの値下げ交渉

関西のマンションの修繕委員の方から、メールを頂きました。大規模修繕工事をするにあたり、価格が適正なのかマンションコンサルタントに見てもらったところ、かなり揉めてしまっているようでした。今回はコンサルタントの値引き交渉について、書いてみたいと思います。

相談を受けたマンション

関西某所の分譲マンションで、3LDKと4LDKの間取りが中心になっています。14階建で総戸数が85戸という中規模マンションであり、今年で築11年目になっています。そのため昨年から大規模修繕工事の準備に入っていて、修繕委員会が立ち上がっています。写真でマンションの外観を見ましたが、一般的な四角いマンションで、外壁の修繕工事が困難になるような歪な形ではありません。

写真で見る限りは敷地も広いので、足場を掛けるのも難しくはなさそうです。大規模修繕工事を行ううえで問題になりそうなマンションには見えませんでした。しかし話を聞いてみると、ちょっとした迷走が始まっていました。

高額な修繕費用に驚いた理事会

管理会社から大規模修繕の時期だと言われ、準備に取り掛かりました。管理会社が紹介する施工会社による事前調査が行われ、10年以上経っているのであちこちが痛んでおり、かなり広範囲の工事が必要だとわかりました。そこでその施工会社に見積書を依頼すると、1億円近い金額が提出されました。

これには多くの理事が困ってしまいました。修繕積立金が足りないのです。管理会社からはお金を借りることも可能だと言われて検討を開始したのですが、自分たちだけでは無理だと判断して、メンバーを募って修繕委員会を立ち上げることにしました。こうして理事以外の5人のメンバーが集まり、修繕委員会が発足しました。

外部コンサルタントに依頼

修繕委員会のメンバーは、外部のコンサルタントを招いて客観的な意見を聞くことにしました。コンサルタントの選考はネットで情報を集め、3社から話を聞きましたが、最終的に個人でコンサル業を営んでいるA氏に依頼することにしました。A氏は大手管理会社に20年以上勤務し、大規模修繕工事の経験も多く、幅広い知識を有していました。

そして何より、修繕委員会のヒアリング時に見積書を一瞥して「これは高すぎます。私なら2000万円ぐらいは安くさせますよ」と、力強く言ってくれたのが修繕委員の心をつかんだようです。2000万円安くなれば、借金をせずに修繕積立金だけで行うことができます。他のコンサルタントは、ここまでハッキリと断言しなかったので、A氏の力強い言葉に惹かれたのです。

値下げ交渉の苦戦

A氏は早速施工会社と打ち合わせを行い、値下げの交渉を始めました。しかし値下げ交渉が完了する予定の4月には終わらず、6月にA氏から報告がありました。約800万円の値下げができているのですが、さらに交渉を重ねて価格を下げるため、もう少し時間が欲しいとのことでした。

価格交渉が苦戦している理由を修繕委員が質問すると、施工業社が強気に出ているのが原因であり、別の施工会社にも見積もりを出してもらった方が良いとの回答でした。そこで修繕委員はネットで探した施工業社に連絡し、見積書を作ってもらうことにしました。

安くならない焦り

もう一社から出してもらった見積書は9000万円程度で、A氏が交渉している施工会社よりも安いものでした。そこで修繕委員会はA氏に、2社に対して値下げ交渉を依頼しました。しかしA氏の値下げ交渉は進まず、ほとんど安くなりません。そこで今度はA氏が自ら別の施工会社を連れてきて、見積書を出してもらうことになりました。

当初は2022年の春頃から大規模修繕工事を予定していたのですが、こうなると全く間に合いません。理事会は早く決めるように修繕委員会に言ってきますが、修繕委員会もどうしてここまで遅れているのかわかりません。そこで理事も出席してA氏からヒアリングすることになりましたが、A氏は過去に何度も値下げ交渉をしてきたけど、ここまで強気なのは珍しく、建設業界の潮目が変わってきているのかもしれないと言います。とにかく時間が欲しいとのことで、10月末を期限に待つことにしました。

最終的に9000万円弱の金額が最安値になりました。これではわずかですが、修繕積立金が足りません。理事会からはコンサルタント選びの時点で失敗したのではないかと批難のする声が上がり、大規模修繕工事が始められないとなりました。管理会社からは、住宅金融支援機構から借入することを勧められていて、どうするべきか理事会でも結論が出ない状態になってしまいました。

何が悪かったのか

私のところにメールで連絡があったのは11月の初め頃で、A氏の交渉結果が9000万円弱と出た頃です。内容を聞いて、私なりに問題を列記してみました。

1.金額の交渉だけに終始している

修繕委員会のコンサルタントへのオファーは、とにかく金額を下げることでした。しかし大規模修繕工事の本来の目的は、安く済ませることではなく建物を長持ちさせるためです。借金をしなくてはならないかもしれないという現実の前に、修繕委員会は本来の目的を見落としているように思いました。今回の問題の9割は、この点にあると思います。

2.コンサルタントの選び方

安くすることばかりに気を取られた修繕委員会は、2000万円は安くできるという力強い言葉でA氏を選任しました。しかしこのA氏の経歴を見ると、コンサルタントとして独立してから期間が短く、最近まで管理会社に勤務していました。つまりA氏がアピールする100棟以上の大規模修繕工事の経験は、ほぼ管理会社の頃に行ったものだとわかります。

後で詳しく書きますが、交渉力は立場がものを言います。コンサルタントを選ぶ際に、経歴や本人の考え方をよく吟味せずに、安くできるという1点において選んだのは、あまりに大きなリスクを抱えることになったと思います。

3.スケジュールがない打ち合わせ

修繕委員会がコンサルタントと最初に行うべき打ち合わせは、スケジュールのすり合わせです。今回は2022年3月頃から大規模修繕工事を始めたいと修繕委員会は考えていました。そのことをコンサルタントに伝えて、いつまでに何をするべきかスケジュールを作るべきでした。しかし具体的なスケジュールを作ることなく始まったので、ズルズルと時間を浪費することになっています。

そもそも2022年3月に開始する必然性はあったのでしょうか?遅らせても良かったのか、なんらかの事情で動かせないスケジュールだったのか、私にメールをくれた修繕委員の方は理解していませんでした。こういった曖昧なスケジュールは、混乱と遅延の原因になります。

4.特定の業者に固執しすぎた

当初、修繕委員会は見積を出してきた施工会社に値下げを求めるためにコンサルタントを雇いました。この業者に拘る必要は全くなく、値下げ交渉が難航すると分かると、他の業者にも見積を依頼しています。それなら最初から、他の会社にも依頼すればよかったのです。複数の会社に依頼して相見積を取得し、その中からベストな会社を選ぶ方が良かったと思います。

いつ大規模修繕工事を行うべきか

このブログでは繰り返し書いてきましたが、そもそも12年に1度大規模修繕工事をしなくてはならないという決まりはありません。12年という数字は国土交通省の「長期修繕計画ガイドライン」に書かれていらからですが、2000年までは10年と記載されていました。最新の改訂では12年から15年になっています。

これはマンションを販売するデベロッパーが、大規模修繕工事のスパンをいたずらに長くして、月々の修繕積立金を不当に安くして販売するのを抑制する狙いがあります。そのため絶対に12年で行う必要はなく、マンションの劣化の仕方次第で15年や17年で行なっているケースもあります。築10年になったから、大規模修繕工事の準備を始めなくてはと考える理事会や管理会社が多くいますが、劣化していなければ焦る必要はないのです。重要なのは必要な時期に必要な工事を行うことなのです。ですからこのマンションも、本当に慌てて大規模修繕工事を行うべきだったのか疑問が残ります。

なぜ価格交渉は難航したのか

先にも書いたように、A氏の経歴を見ると、大規模修繕工事の経歴の大半は管理会社に在籍した頃のものだったと思われます。関西ではそれなりの大手管理会社のようなので、会社の影響力は極めて大きかったでしょう。A氏はその影響力をフルに活用して、価格交渉を行っていたと思います。

1億円の工事を8000万円にするとA氏は修繕委員会に豪語したそうですが、管理会社在籍時なら可能だったのでしょう。また、そういう仕事のやり方をしてきたのだと思います。なぜ管理会社なら可能なのかというと、定期的に仕事を発注するからです。ここから先10年間、毎年1億円の工事を発注してくれる相手なら、業者は多少の無理をしても安くしてくれます。業者にとって仕事がないというのは最大の恐怖で、安定的に仕事があるというのは、大きな魅力だからです。

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しかし今やA氏は、単なるコンサルタントに過ぎません。管理会社時代と同じように交渉しても、業者は再び仕事をくれるかわからない人を相手に無理して安くしようとはしません。A氏やこのマンション管理組合が、毎年多額の工事を発注するなら、施工会社は大幅な値引きをしても受注したいと考えたでしょう。しかし次にいつ発注してくれるかわからない相手に、施工会社も無理な値引きはしないのです。A氏が修繕委員会に提出した報告書を読む限り、A氏は単なる値引きの依頼に終始していたとしか思えず、管理会社にいた頃は上手くできたと考えながら、何度も安くしろと言い続けたのでしょう。単なる値引き交渉は、ほとんど効果がないのです。

価格交渉の前に行うべきだったこと

修繕委員会にもA氏にも、2つの重要な視点が抜けていたと思います。その2つとは「いつ大規模修繕工事を行うべきか」と「その工事は本当に必要なのか」です。この2つを抜きにして、いきなり価格交渉に入ったため迷走してしまったのだと思います。

いつ大規模修繕工事を行うべきか

先に12年ごとに大規模修繕工事を行う必要はないと書きました。ではいつ行えば良いのかという問題が発生します。これは一律に何年で大規模修繕を行えば、良いというものではありません。マンションごとに異なるので、調査をしなくてはなりません。目安としては10年を過ぎたあたりで建物調査を行い、何年後に大規模修繕を行うか決めます。もししばらく大規模修繕工事が必要ないと判断されれば、3年後に再び調査を行うようにしてもよく、適切な時期はいつなのか調査を行うことになります。

その工事は本当に必要なのか

長期修繕計画に書かれている項目全てを行うと、無駄に費用がかかります。調査をして、本当に必要な工事はどれなのかを判断する必要があります。まだ痛んでいない部分を工事する必要はありません。大規模修繕工事の際には外部に足場を掛けるので、足場がないとできない工事は全て行います。しかし共用廊下の長尺シートや屋上防水などは足場がなくてもできるので、絶対に大規模修繕時にやらなければならないということはありません。大規模修繕時どの工事を行うか決めることは、極めて重要なのです。

最も大事なのは、本当に必要な工事はどれかを見極めることです。長期修繕計画に書いてあるからと言って、全ての工事を行う必要はないのです。

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大規模修繕工事の進め方

では大規模修繕工事をどのように準備すれば良かったのでしょうか。これについては長くなるので、次回説明したいと思います。私が主に行っている大規模修繕工事のやり方を紹介することで、参考になればと思います。

次回記事
大規模修繕業者をどうやって決めるのか /無駄な費用を掛けないやり方の紹介

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