談合はなぜ無くならない?/大規模修繕工事の闇の遠因
建設業界の談合は古くから言われている問題で、1990年代にはゼネコン汚職事件が世間を騒がせました。しかしその後も談合はなくなることはなく、2008年には西松建設の汚職事件も発覚しました。マンションの大規模修繕も談合問題が言われており、建設業界は談合問題を払拭できずにいます。なぜ談合が起こるのでしょうか。今回は建設業界の談合とマンションの大規模修繕の話です。
談合とは何か
工事などにおける競争入札において、競争する業者同士が事前に話し合ってどの会社が落札するか決めておくことです。これは公正かつ自由な取引を阻害する行為として、談合罪という罪になる行為です。しかし公共事業だけでなくマンションの大規模修繕工事でも談合が行われており、それが問題視されて国土交通省からも通達が出ています。悪質なコンサルタントによる談合とキックバックが問題視されている中で、ついに国が警鐘を鳴らしたというわけです。
国土交通省通達
・設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注
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1990年代のゼネコン汚職
建設業界と談合は根深く、古くから談合が行われていることは公然の秘密と言えました。しかし平成に入ると世間がそんなことを許さなくなり、警察の捜査が入ることになりました。1990年代に露呈したゼネコン汚職は、連日のようにメディアを賑わす大事件へと発展しました。これまで世間が薄々感じていたゼネコンの汚職が、白日のもとに晒されたのです。
①金丸事件での発覚
大物政治家で、自民党の副総裁だった金丸信の巨額脱税事件です。1992年8月、佐川急便から5億円の闇献金があったことが発覚しますが、すでに時効を迎えていたことから政治資金規制法違反でのみ書類送検されました。5億円もの闇献金を受け取りながら、わずか20万円の罰金で済んだことに国民の怒りが爆発します。
1993年3月、東京国税局は脱税の疑いで金丸信の家を家宅捜索しました。その際に金の延べ棒が出てきたとか、さまざまな噂が飛び交いました。この捜査で金丸信は18億円以上の所得を隠していたことがわかり、逮捕されています。この家宅捜索で金丸信の金の流れを追うために多くの資料が押収されましたが、この資料からゼネコン各社が政界に多額の賄賂を送っていたことが発覚します。
②仙台市汚職事件
1993年6月、仙台市長の石井亨氏と鹿島建設や間組のゼネコン幹部ら9人が逮捕された事件です。この事件はJR仙台駅の再開発事業に絡み、石井市長がゼネコン4社から合計1億円の賄賂を受領していたことがわかっています。特捜部が家宅捜索をしたところ、玄関先に置いてあった段ボールの札束がぎっしり詰まっていたそうで、石井市長は懲役3年の刑を受けています。この事件の発覚から、ゼネコン汚職は始まりました。
③続くゼネコン汚職
宮崎県の公共工事に絡む事件で、本間俊太郎宮崎県知事が東京地検特捜部に逮捕されました。裁判で懲役2年6ヶ月の判決が下されました。さらに茨城県で県庁の移設工事、茨城県植物園、茨城県立医療大学などの公共事業において、賄賂を受け取っていたとして茨城県知事の竹内藤男氏が逮捕されました。竹内はゼネコン4社から9500万円を受け取ったとして、逮捕されています。また建設大臣だった中村喜四郎氏が埼玉土曜会の談合事件に関して、公正取引委員会に刑事告発阻止を働きかけて逮捕されています。
現職の市長、県知事、建設大臣が収賄側として逮捕され、贈賄側として清水建設、鹿島建設、大林組、大成建設、三井建設、西松建設の副社長が逮捕され、清水建設、ハザマらの会長も逮捕されています。これらの事件は前代未聞の汚職事件として、連日のようにメディアを賑わせていました。これら一連のゼネコン汚職事件により、公共事業は一般競争入札が義務付けられ、外資の参入障壁を取り払う動きが加速しました。
リニア中央新幹線のゼネコン汚職
2018年3月2日、リニア中央新幹線の談合を巡り東京地検特捜部は、独占禁止法違反で大成建設の常務と鹿島建設の部長を逮捕しました。さらに3月23日、法人として大成・鹿島・大林・清水の4社と大勢の元常務と鹿島の部長が起訴されました。事前に受注業者を決める談合が行われていたとして、刑事告訴されたわけです。それぞれ有罪判決が下され、罰金刑が下されました。また公正取引委員会から課徴金納付命令があり、各社とも数十億円の課徴金を支払いました。
談合の原因となる公共工事の入札
では、なぜこのような事件が起こったのでしょうか。原因はさまざまなことが言われていますが、最も大きいのは公共工事の入札システムです。リニア中央新幹線のよう大規模土木工事の入札に参加するには、まず見積書を作成する必要があります。見積書を作成するには現地調査が必要で、ボーリング試験や測量などさまざまな調査を行うことになります。この調査は重要で、ここに時間とお金を掛けなければ入札して工事に入った後に、費用が不足してしまいかねません。
リニア中央新幹線の調査がどのくらいの費用と時間を使ったかわかりませんが、東京から大阪までの距離があるので1年程度では終わらないでしょう。その間の人件費も含めて、調査には数億円が必要だと思います。そして入札で仕事が取れなければ、この調査費用は全て無駄になってしまうのです。仕事を取れなければ、大きな損失になってしまいます。一度だけでも大きな損失なのに、何度も入札して仕事を取れなければ損失額は莫大になってしまいます。会社の存続すら危ぶまれるかもしれません。
そこで談合が生まれました。事前に打ち合わせをしてどこが落札するか決めておき、それを順番に回して大手ゼネコン全てが受注できるようにしておけば、無駄な調査費を使わなくて済みます。すでに受注する会社が決まっているのですから、その会社から資料をもらって少し高額の見積書を作れば良いのです。こうして確実に受注ができるうえに、無駄な費用もかからない談合が行われるわけです。この調査費用など見積書作成にかかる費用を払わないという慣習が、談合を生む要因の1つなのは間違いないと思います。
談合を悪びれない人達
私がゼネコンに勤務していた頃、社内で談合が話題になることが度々ありました。法律で禁じられていることを行うのはハイリスクだという意見もあれば、談合は必要悪だと主張する人もいました。その必要悪だという意見の中で、特に印象に残っているのは現場の主任クラスの人の意見です。
その主張は次のようなものでした。100万円の工事を談合で120万円にするのは絶対にダメだが、現状は100万円の工事を60万円でやれと言われている。だから談合で本来100万円の工事を100万円で受注するのは会社の存続のために必要だというのです。確かにこの時期は受注価格が抑えられていて、ゼネコンは受注価格の安さに苦しんでいました。そのためこのような考え方は、社内では支持する人が多くいました。
談合を望む大規模修繕業者
これまで説明してきたように、談合は見積書作成して受注できなかった場合の無駄な費用を削減することが可能で、さらに確実に何度かに1回は仕事を受注できます。ですから大規模修繕業者の中にも、談合を望む会社があるのです。この件については、以下の記事で詳しく書いています。
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このように業者にとってメリットが大きいので、談合はなくならないのだと思います。不当に安く発注されるのを食い止めるために談合と言っても、歯止めがなければ不当に高い利益を得ようとする業者が出てくるのも止められません。どのような発注方式にすれば良いのか結論をすぐには出せませんが、現在横行している談合を必要悪と認めるのは問題があります。
まとめ
談合は大手ゼネコンが公共事業で繰り返し行われており、逮捕者も何度も出ています。しかしどうしても是正されないのは、見積書作成にかかる費用が支払われないという事情があります。そのため談合が常態化し、大手が行っているので多くの建設業者で慣習のようになっているのだと思います。マンションの大規模修繕工事も、見積書作成にかかる費用を支払うケースを聞いたことはほとんどありません。今後、こういった慣習も見直しが必要なのかもしれないと思います。