騒音やカビに悩むマンション/ 戸境壁の構造に注意
中古マンションの人気が高まり、古いマンションをチェックする時の注意点を質問されることが増えました。注意点はいくつもあるのですが、今回は戸境壁のチェックポイントを解説したいと思います。戸境壁は単なる壁に見えて、その構造は何種類もあります。今回は騒音やカビに悩むマンションを例に、騒音やカビの原因とそれぞれの特徴を紹介していきます。
戸境壁とはなにか
住戸と住戸の間にある壁を戸境壁と呼びます。ファミリータイプのマンションでは、ほとんどの場合コンクリートで形成されていて、構造壁と呼ばれる建物を支える壁になっています。この壁の厚さは遮音性に大きく影響し、厚けば厚いほど隣の音が聞こえにくくなります。
上記の赤く塗られている壁が戸境壁になります。柱も赤く塗られていますが、柱は無視してください。住戸と住戸の間の壁が戸境壁になります。
断熱が必要な戸境壁
外部に面する壁に断熱材を入れることで、結露を防止することができます。もし断熱材が入っていなければクロスの上に結露が発生し、壁がビッショリと濡れることになります。そして外部に面した壁に断熱材を入れても、戸境壁で結露が起こることが分かりました。熱橋またはヒートブリッジと呼ばれる現象で、柱などが熱を伝えることで戸境壁で結露が起こるのです。
そのため外部から1m程度の範囲(この範囲は時代により変わります)までを断熱することが必要になりました。そのため戸境壁の途中まで断熱材を入れることになり、マンションの作り手を悩ませることになりました。壁に段差を作るのか、段差をなくす工夫をするのか、なくす場合はどうやるかで様々な工法が取られることになります。
パターン1 断熱がない
1980年代までの住宅には、断熱材が入っていないことがほとんどです。北海道では1970年代から採用されていたようですが、日本全国で断熱材を入れるようになるのは、1989年に住宅金融公庫が公庫の融資を受けて建てる住宅に断熱材を義務化しました。そして92年に断熱材を入れている住宅への割増融資を行うようになり、ようやく住宅に断熱材を入れることが定着しました。
なにせ1970年代までのエアコンの普及率は7%です。真夏には窓を開けて風を入れることで暑さをしのぐ人がほとんどでした。冬にはストーブを使っていたようですが、1年を通じて室内で極端な温度変化が起こることが少なかったのです。断熱材が入っていないため、立地条件によっては、1980年代までのマンションでは室内で結露が起こりやすくなっています。戸境壁には断熱材が入っておらず、コンクリートの上にクロスを貼って仕上げています。そのため壁を叩くと鈍い音がするので、断熱材が入っていないことがすぐに分かります。
パターン2 GL工法の壁
断熱材が入っていて、断熱部分の壁をGL工法と呼ばれる工法で作っています。断熱材を吹き付けた後にGLボンドと呼ばれる接着剤を団子状に貼り付け、そこにボードを圧着する工法です。外部に面する壁のほとんどが、このGL工法で行われているので、戸境壁も同様にGL工法で行ったわけです。
GLボンドとボンドの間は空洞なので、叩くとポコポコとした音がします。そのため音が内部で共鳴して太鼓現象を起こし、隣の部屋の音を増幅させてしまいがちです。壁の端の位置はテレビを置いていることが多いため、隣の部屋のテレビの音がよく聞こえてくるという問題が多く起こり、今では採用されていません。
パターン3 S1工法の壁
S1は住宅都市整備公団で使われていた工法で、断熱材がついた石膏ボードをコンクリートに圧着張りする工法です。上記のGL工法と比べてコンクリートとボードの間に隙間ができないため、多くの デベロッパー がS1工法を採用しました。しかしこの方法でも階高が高いマンションでは、騒音問題が発生しました。工場で作られた断熱材は真っ平にできているのに対し、コンクリートは平滑ではないため隙間ができていたのです。
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・S1工法が招いた騒音問題
GL工法にしてもS1工法にしても、壁に段差ができるのが問題でした。見た目が美しくないことに加えて、家具のレイアウトが段差のために難しくなってしまいます。そこで多くのデベロッパーは、段差をなくす工夫を始めました。
パターン4 ふかし壁
GL工法やS1工法を使って断熱した場合、壁に段差ができてしまいます。そこで段差をなくすために、壁をふかして平にするようになりました。ふかし壁は木軸やLGS(軽量鉄骨材)にボードを貼って作られており、壁全体に隙間ができてしまいます。そのため隣の部屋の音が太鼓現象を起こして増幅され、騒音問題が起こりやすくなりました。なぜか一部のデベロッパーでは今でも採用されているようですが、多くのデベロッパーは行わなくなりました。
パターン5 断熱材打込みの壁
GL工法やS1工法ではコンクリートの上から断熱材をつけていましたが、型枠に断熱材を取り付けてコンクリートを打設する工法が断熱材打ち込みです。この工法ではコンクリートと断熱材の隙間がなく、太鼓現象によって騒音が増幅する心配がありません。騒音面からは最も安心できる工法になり、断熱性も維持できます。2000年代半ばぐらいから、この工法を採用するデベロッパーが増えました。デメリットとしては、部屋の内法寸法が狭くなることです。
パターン6 特殊なふかし壁
長谷工コーポレーションでは、ふかし壁を採用していました。上記のようにふかし壁は騒音を増幅させる問題がありますが、長谷工は独自に研究所で研究を重ねて騒音が出にくいふかし壁を考案しています。ポイントになるのは、木軸を壁に固定しないことだそうで、上下に流した木やランナーに壁を固定しています。どうして壁に固定しないと騒音が増幅しないのか私は理屈を理解できませんでしたが、研究所で行った騒音測定試験では明らかに等価損失が大きくなっていました。
まとめ
戸境壁の種類を6種類紹介しました。断熱材が全く入っていないマンションでは、今日のようにエアコンを多用すると結露が起こりやすくなっています。ビル影などで日が当たらない面があるマンションで、エアコンで部屋を温めると結露が発生することが多くあります。結露が状態化するとカビの発生に繋がります。中古物件の内見で黒カビが壁に付着していたら、結露を疑いましょう。
またマンションでは騒音問題が起こりやすいですが、安易なふかし壁やGL工法では騒音問題がより起こりやすくなります。戸境壁がどのような構造になっているかは不動産屋に質問しても良いですが、壁を叩いてみるとわかることがほとんどです。ぜひ中古マンション選びの際は、壁を叩いてどの工法で作られた壁なのか確認してください。