ウクライナ情勢がマンション業界に与える影響 /なぜ建築資材が高騰するのか

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻が、世界経済にさまざまな影響を与えています。マンション業界もその例に漏れず、大きな影響を受けています。なぜ遥か遠くのウクライナで行われている戦争が日本のマンション業界に影響を与えているのか、そしてマンション業界にどのような影響を与えているのか解説したいと思います。

ロシアのウクライナ侵攻の開始

ロシアのウクライナ紛争がどのように始まったか、そして企業がこの戦争にいつどのように反応したか、時系列に並べてみたいと思います。

2022年2月21日

ロシアのプーチン大統領が演説を行い、ウクライナ東部の親ロシア派地域(ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国)の独立を承認する大統領令に署名した。ロシアは両地域からの独立承認と、ロシアとの防衛協定締結を求めていたと主張しました。

2022年2月22日

NATO(北大西洋条約機構)がロシアへの経済制裁(第一弾)を行うことを決定する。

2022年2月23日

ウクライナ全土に非常事態宣言が発令される。

2022年2月24日

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始する。キーウ(キエフ)、ハルキウ、オデッサ、ドンバスへのミサイル攻撃と空爆が始まり、さらにマリウポリ、オデッサにロリア軍の上陸が始まる。ロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所を占拠した。ウクライナのゼレンスキー大統領が戦時体制を宣言する。

2022年2月27日

プーチン氏が核を含めた戦力を「特別態勢」にするよう命令する。イギリスの石油会社BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)がロシアとの合弁事業を解消し撤退を決めた。

2022年2月28日

石油会社のシェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)、ノルウェーのエネルギー会社エクイノールがロシアからの撤退を決定。ダイムラートラックはロシアとの合弁事業の凍結、ボルボグループはロシアでの生産と販売を停止しボルボのロシアへの輸出を停止、GMはロシアへのロシア向け自動車輸出の停止、通信機器のエリクソンはロシアへの輸出を停止した。

ベッラルーシのホメリ地方で、第一回の停戦協議が行われるが不調に終わる。

2022年3月1日

航空機大手のボーイングがロシアへの輸出、メンテナンス、技術サポートを停止、フォードモーターBMWはロシア国内の製造を停止、ジャガーランドローバーハーレーダビッドソンがロシア向け輸出を停止した。またアップルはロシアでの販売を全て停止した。さらにエクソンモービルが、ロシアとの合弁事業から撤退を開始する。

2022年3月2日

トヨタ自動車がロシア工場での生産停止を決定した。国連総会緊急特別会合で、ロシア非難決議を採択した(賛成141、反対5、棄権35)。

この日以降

以降も続々と大手企業がロシアとの関係を断つ動きを見せました。そして5月8日には、アメリカが追加の経済制裁を発表しています。

ロシアへの経済制裁の主な内容

このロシアの戦争行為に多くの国がロシアに制裁を与えています。そのため世界経済の一部が停滞することになりました。制裁の内容は主に5つあります。

①金融制裁

SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除が行われました。SWIFTは1973年に設立され、約200の国と約1万1000の金融機関が参加している、世界各国の金融機関を結ぶネットワークです。国際貿易には必須の組織で、ロシアは排除されたことで決済が難しくなりました。ロシアはルーブルでの決済のみで、輸出を行うことを決めています。

②ロシアへの輸出規制

37カ国が参加しており、国によって輸出規制の内容が異なります。例えばアメリカは、処理能力の高い半導体などのハイテク関連、エネルギー分野への投資などを禁止しました。イギリスは通信機器や航空部品関連など、日本は石油関連設備などを輸出禁止にしています。

③最恵国待遇の取り消し・撤回

WTO(世界貿易機関)の協定で、最恵国待遇を受けると関税が低く設定されます。これを取り消されるということは、ロシア製品が外国で販売される場合、高い関税がかけられることになります。アメリカでは平均30%、イギリスやカナダでは約35%の関税がかかることになりました。

④ロシアからの輸入規制

ロシアが外貨を稼ぐことを防ぐもので、これも国によって品目が異なります。多くの国が原油や石炭などのエネルギーの輸入を禁止している国が多く、日本はそれ以外に木材やウォッカなどのアルコールも含まれています。

⑤オリガルヒの資産凍結

オリガルヒはロシアの超富裕層です。政権に近い人物も多く、彼らは巨万の富を海外に移しています。その資産を凍結し、使えなくしました。海外に停泊しているヨットやジェット機も含まれており、日本やアメリカはプーチン大統領の2人の娘も対象に含まれています。

ロシアからの輸出禁止

ロシア政府もこれらの経済制裁に対抗して、ロシアからの輸出を制限しています。プーチン大統領は輸出制限に関する大統領令に何度もサインしており、これまで多くの国が対象になっています。当然、日本も対象国に含まれています。主な対象品には医療品、木製品、石材、鉄鋼製品、機械類、光学機器などが含まれています。

原油価格の高騰が続く

ロシアは産油国として世界のトップ3に入る国で、そのロシアが戦争を始めたというだけで原油価格は安定しなくなります。それに加えて各国の経済制裁、ロシアの輸出制限が始まったことで流通量が減っており、原油価格の高騰を招きました。中東の産油国で作られているOPECプラス(石油輸出国機構)は、原油の高騰を歓迎しており生産を制限しています。彼らにとって原油価格が上がることは国益に繋がるので、この状態が長く続くことを望んでいるのです。

2022年9月14日現在、WTI原油先物価格は1バレルあたり87ドルと高騰気味ですが、ロシアのウクライナ侵攻が始まってから100ドル前後で高止まりしており、一時期は120ドルに達しました。しかし近年では石油は投機の対象となっており、急な高騰も珍しくなくなりました。2008年には1バレルあたり147ドルの史上最高値を更新しました。第四次中東戦争が勃発しても40ドル程度だったにも関わらずです。単に需要と供給の問題だけでなく、利益を掠め取ろうとする投資家の目論見がここに介在していたのは確実でしょう。今後も原油価格は不安定な世界情勢に乗じて、高値で推移すると予想されます。

建設資材が高騰中

輸送費の高騰

原油価格が高騰しているため、全ての輸送費が値上がりしています。飛行機、船、トラックなどの輸送手段は、全て石油を燃料にしています。そのため原油価格の高騰は輸送費の値上がりに繋がっており、製品そのものの価格が上がらずとも結果的に値上がりになってしまうのです。

木材の高騰

2021年にも木材の高騰がありました。これはアメリカの住宅建設ブームにより木材が高騰したのですが、2022年は木材の輸出大国のロシアが戦争を始めたため、ロシアの輸出制限により木材の価格が高騰しています。ウッドショックと業界では呼ばれていますが、価格の高騰が続いています。

セメントの高騰

セメントは石灰石を焼成して作ります。その焼成に使う燃料には石炭が使われているのですが、石炭はロシアから輸入していました。ロシアは石炭の輸出を制限しているので、セメント価格の高騰が始まっています。

鋼材の高騰

ロシアは鉄鋼製品の輸出大国で、中国に次ぐ世界2位の輸出量を誇っていました。主に半製品を輸出していて、スラブ・ブルーム・ビレットなどと呼ばれるものでした。これらは安価で価格競争力が高いため、ヨーロッパや中央アジアに輸出していました。しかしロシアが輸出規制の対象にしたため、これらの国は東南アジアから半製品を調達するようになりました。

日本は東南アジアから半製品を購入していたため、結果的に日本への輸出量が減ってしまい、日本国内の鋼材の価格が上がってしまいました。これによりマンションを建設する際に必要な、鉄筋や鉄骨の価格が上昇しています。

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塩化ビニルの高騰

塩化ビニルの製造にはナフサが必要になります。ナフサは原油を上流分離して得られるもので、ガソリンなどの原料になります。ウクライナ情勢により原油価格が高騰しているため、ナフサの価格も上がっています。塩化ビニルはクロスや長尺シートなど、多くの建築資材に使われているため、塩化ビニルの価格が高騰するとクロスなどの価格も上がっています。

まとめ

産油国として大手にあたるロシアが戦争を始めたことで、原油価格が高騰しています。さらにOPECプラスは石油の減産を決めて原油の高価格化の維持に努めているため、世界的な原油の高騰が続いています。さらにロシアへの制裁として多くの国がロシアからの輸入を止め、その仕返しでロシアも輸出を止めました。その結果、ロシアとの貿易が途絶えたために様々な物資が値上げになってしまいました。さらに原油の高騰は輸送費の高騰につながり、値上げに拍車をかけています。建設資材もその影響が大きく、値上げが続いています。いつまでこの高値が続くのかと議論されていますが、ウクライナ侵攻が停戦になっても簡単には価格が下がらないと思います。この件は、新たな動きがあればまた書きたいと思います。

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