マンションの自室内での喫煙をやめさせることはできるか?

マンション管理組合の理事から、住民同士がタバコの煙を巡ってトラブルになっていると相談を受けました。マンションのバルコニーでの喫煙が裁判になった事例はありますす。しかし今回はマンションの自室内での喫煙を止めるように訴えている人と、そのことに憤慨した喫煙者が、共に感情的になってトラブルになっているので、かなりやっかいな事になっていました。互いが感情的になると、穏便な解決策がなくなってしまいます。

問題の発端

煙山(仮名)さん夫婦はともに40代で、12年前に現在のマンションを購入して住んでいます。子供はなく共働きで、夫婦揃って愛煙家です。平日は食後などに、1本から2本のタバコをバルコニーで吸っていました。水山(仮名)さんは30代後半の独身の方で、2年前に現在のマンションを中古で購入しました。タバコの臭いが大嫌いな水山さんは、購入した部屋は煙山さんの真上の部屋です。タバコの煙が大の苦手で、煙山さんがバルコニーでタバコを吸うたびに、窓を閉めていたそうです。

しかしついにタバコの臭いに我慢できなくなった水山さんが、煙山さん宅を訪問してバルコニーでの禁煙をお願いしました。洗濯物に臭いがつくだけでなく、窓を開けることすら出来なくなってしまったことを訴えられて、煙山さんはバルコニーでの喫煙を止めると約束しました。

こじれ出す喫煙問題

煙山さん夫婦は、バルコニーでの喫煙を止めてキッチンの換気扇の下で吸うことにしました。それからしばらくして、玄関に水山さんからの手紙が入っているのに気がつきました。約束通りバルコニーで喫煙を止めてもらえるのはいつからでしょうか?という質問の手紙だったので、煙山さんは水山さんのお宅を訪問して、バルコニーでの喫煙は止めていることを説明します。水山さんは、タバコの臭いがするのでバルコニーでの喫煙が続いていると思っていたのです。そこで煙山さんは、キッチンで喫煙していることを説明しました。

これで一旦は落ち着いたのですが、再び煙山さんは玄関のポストに水山さんからの手紙を見つけます。手紙には臭いが酷いので、キッチンでの喫煙を止めるようにと書いてありました。煙山さんは自室の中での喫煙を止めろというのは行きすぎだと憤り、水山さんに会いに行きますが話し合いは決裂しました。そして煙山さんはバルコニーでの喫煙を再開しました。これに怒った水山さんが管理会社に電話して抗議すると同時に、マンション管理組合の理事長に助けを求めたのです。

水山さんの言い分

このマンションを購入する際にも、前の入居者がタバコを吸っていたかを確認したほどタバコの臭いが苦手です。しかし煙山さんの喫煙で部屋中にタバコの臭いが染みついて、家の中でくつろげなくなってしまいました。煙山さんは以前からバルコニーで喫煙していたのだろうし、自分は後から入居した身だからと我慢していました。しかし毎晩9時頃から11時すぎまでひっきりなしにタバコを吸い続け、窓を開けて生活できなくなってしまいました。普通の生活を送る権利は誰にでもあり、さらに抗議を受けてバルコニーでの喫煙を再開した煙山さんの態度は節度を欠いていると思いました。

煙山さんは、バルコニーでタバコを吸わないと約束したのに守られていません。今もバルコニーでタバコを吸っています。

煙山さんの言い分

入居してから12年間、バルコニーでタバコを吸っているけど文句が出たことはありませんでした。それがある日突然水山さんがやってきて、「タバコが迷惑だ」と一方的に文句を言われました。水山さんは怒っていて話し合いができる雰囲気ではなく、妻が怖がっているのでバルコニーでタバコを吸うのを止めてキッチンで吸うことにしました。しかしバルコニーで吸うのを止めたら、次はキッチンで吸うなと言い出して、脅迫状みたいな手紙を送りつけてきました。

水山さんは私達が9時からひっきりなしに吸っていると言っているけど、私も妻も平日は10時前に家に帰ることはありません。それにタバコの本数も、せいぜい夫婦で2本ずつぐらいです。手紙が来てからすぐに水山さんに会いに行きましたが、一方的に怒鳴って私達夫婦を犯罪者呼ばわりして話し合いになりませんでした。こういう人に配慮するのがバカバカしくなって、今まで通りバルコニーで喫煙することにしました。

理事会の事実確認

マンションの管理規約には、タバコに関するルールは記載されていません。従ってバルコニーでの喫煙を禁止するルールは、現在のところ何もありません。過去にバルコニーでの喫煙に関するクレームは、管理会社にも理事会にも寄せられておらず、議事録にも記載がありませんでした。

煙山さんの隣の方に理事会がヒアリングしたところ、煙山さん夫婦の帰宅時間は10時から11時の間が多いとのことで、煙山さんの証言と一致しました。一方で、両隣の人は煙山さん夫婦が、バルコニーで喫煙していることを知らなかったそうです。

水山さんの両隣にもヒアリングを行おうとしましたが、片方は空き家になっていました。もう片方の住人は帰宅が12時頃になることが多いため、タバコの臭いが気になったことはないとのことでした。

煙山さんから、水山さんが書いた手紙を理事会の全員で確認しました。文面には「やめろ」「しろ」などの命令口調が多く、「どうなっても知らないぞ」といった脅迫的な言葉が使われる攻撃的な文面でした。

バルコニータバコ裁判

2012年(平成24年)12月13日、名古屋地方裁判所でマンションのバルコニー喫煙に関する判決が出ました。この裁判は、70代の女性が真下の部屋に住む60代の男性が吸う煙草の煙が原因で体調が悪化したとして、150万円の損害賠償を求めたものです。裁判所は男性の不法行為を認めて、男性に慰謝料5万円の支払いを命じました。

この裁判ではポイントになる点がいくつかあります。まず女性はストレスから帯状疱疹を発症していて、男性に何度もバルコニーでの喫煙を止めるように依頼しています。しかし男性はそれらを無視して喫煙を続けています。そのため判決では、専有部分・専用使用部分での喫煙について「マンションの他の居住者に与える不利益の限度によっては制限すべき場合があり得る」と言及しています。

さらに他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら喫煙を続け、喫煙行為を防止する措置をとらない場合には「喫煙行為が不法行為を構成することがあり得る」としました。さらに、このことは使用細則がベランダでの喫煙を禁じていない場合でも「同様だ」としています。同時に「マンションに居住しているという特殊性から、原告も、近隣のたばこの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務がある」とも述べています。

この裁判では、相手が不利益を被っていると知りながら、再三の注意を無視して喫煙を続ければ不法行為になる場合があることを示しました。同時にマンションに住んでいるんだから、ある程度のタバコの煙は我慢しなさいということも述べています。女性の体調不良とタバコの煙の因果関係を否定し、150万円の損害賠償に対して5万円の慰謝料が命じられました。

騒音問題と似ている

マンションにバルコニーの喫煙を禁じる決まりがないので、煙山さんはなんらかの違反行為を犯しているわけではありません。一方で、水山さんは喫煙による被害を受けています。水山さんは換気口からタバコの臭いがするため、煙山さんに室内での喫煙もしないように求めています。水山さんがタバコの煙で不快な思いをしているのは事実で、煙山さんにはタバコを吸う権利があります。この件では、どちらかの主張が間違っているというわけではないと思います。

この件は、住戸間の騒音問題に似ていると思いました。自分の部屋でテレビを見るのは当然のことですし、それを他人が止めさせることはできません。しかし大音量でテレビを見始め、他人の安眠を妨害したり生活に支障が出るようになると話は別です。テレビの音量を下げるように求めるのは当たり前のことになりますが、どの程度の音量なら問題ないかというと、これには大きな個人差が出てきてしまいます。耳は個人差が大きいうえに、どこからが騒音という明確な線引きは存在しないのです。

この喫煙問題も同様で、煙山さんが室内でタバコを吸うことを止めさせるのは難しいと思います。しかし換気口から出てくる煙で水山さんの生活に支障が出だり健康被害が出ていて、それが客観的に認められる状態なら止めさせることも可能かもしれません。しかし上記の名古屋地裁の裁判でも、タバコの煙と健康被害の因果関係は認められませんでした。これが認められるのはかなり難しいと思われます。

決定的な解決策はない

この問題は、感情のもつれから喫煙問題を超えてしまっているようにも見えます。水山さんは我慢を重ねて抗議したので、感情的になっていたようですし、感情的な抗議を受けた煙山さんも同じく感情的になってしまいました。こうなってしまうと、双方が完全に納得する解決は難しいと思います。

理事会としてできることは、バルコニーでの喫煙を禁じる規約改正です。もちろん住人の同意がどこまで得られるかは不明ですが、他にも喫煙で悩んでいる方もいると思われますので、これを機会に問題提起を行うのが良いと思います。問題提起が新たな火種になる可能性もありますが、放っておいても煙山さんと水山さんのような問題が出てくる可能性もあります。あちこちで住人同士のトラブルが起こる事態を避けるため、早めの対応が必要だと思います。

また煙山さんと水山さんを理事会に呼んで、互いに冷静になって話し合ってもらう必要があります。どちらも当然の権利を主張していることを前提に、互いの考えを理解して貰う場を設けなければなりません。水山さんは再三に渡り被害を訴えているのですから、煙山さんはバルコニーでの喫煙を止めた方が良いでしょうし、水山さんは名古屋地裁の判決文にある「マンションに居住しているという特殊性から、原告も、近隣のたばこの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務がある」を受け止めなくてはならないでしょう。弁護士を理事会に呼んで、法的な見解を客観的に述べて貰うことなども必要かもしれません。

まとめ

残念ながら、この問題の抜本的な解決方法はないと思います。しかしこの事例は、タバコのように社会的に問題になっていることについては、理事会としても早めに対応を考えることが必要だと教えてくれます。中古マンションを購入する際に、このマンションではバルコニーでの禁煙が総会で話し合われて否決されたという情報があれば、この件の水山さんのような方は購入しないでしょうし、バルコニー喫煙を禁止していたら、煙山さんも報復のような形でバルコニー喫煙を再開しなかったでしょう。こうした問題は、理事会として早めの対応が望まれます。

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