マンション大規模修繕に優先図書という考え方を

マンションの大規模修繕工事と新築のマンション工事では、工事の行い方にさまざまな違いがあります。それはもちろんさまざまな要因があってやり方が違うのですが、大規模修繕工事にも新築工事のやり方を真似た方が良いと思うものもあります。その一つとして、今回は優先図書という考え方を説明したいと思います。新築工事では契約書に記載されていることが多いのですが、大規模修繕工事では優先図書が明記されていないことがほとんどではないでしょうか。

大規模修繕中の仕様変更

大規模修繕工事の契約をする時に、契約書に仕様書や設計図を添付すると思います。これはどこをどういう風に修繕するかを明確にするためで、後から言った言わないで揉めることを防ぐためのものです。大規模修繕は細かい部分の修理が多いので、予め書類にしておかないとトラブルになりやすいのです。

大規模修繕工事は長期間に渡るので、その途中に修繕会社と管理組合との間で打ち合わせが行われます。打ち合わせの名称は報告会であったり定例打ち合わせであったり様々ですが、修繕会社が工事の進捗を報告して問題点の検討が行われます。問題点とはバルコニーを片付けるように連絡しているのに片付けない人がいるとか、工事中は駐車禁止にしているエリアに車を停める人がいるとかなどです。

この打ち合わせの中で、工事の仕様を変更することが議論されることもあります。例えば契約時に決めていた材料の販売が終わってしまったとか、同じくらいの価格でもっと性能が良い材料を見つけたとか理由は様々です。また管理組合側からも「白で塗ることにしていたけど、汚れが目立たない色に変えたい」なんて要望が出ることもあります。こうして契約時に決めた仕様は打ち合わせの席で変更されることがあるのです。しかし契約書とは違う内容で工事することにすると、その後にトラブルになることもあります。

どれが正解かわからなくなる

上記のようにさまざまな事情から、契約時とは違う形で修繕工事の完了を迎えることは珍しくありません。工事中にあれこれ変えてしまうのですから、打ち合わせの議事録をキチンとまとめて保管しておかないと、何が何だかわからなくなってしまいます。そして途中で変更したにも関わらず結果に満足せず「やっぱり最初に決めた通りが良かったな」という思いが残ると、心情的に複雑な想いが残ってしまうこともあります。

そうなると結果に満足できない人が、契約書と違うと文句を言い出すことが稀にですが起こります。また途中で変更した経緯を知らない人からも、契約書と違うというクレームが出ることもあります。揉めた中には「途中で変更すると管理組合から申し出があったとしても、契約は契約なので契約書にある通りに工事をするべきだ」と主張する住民がいたケースもあります。普通はここまで揉めることはありませんが、何かしらの対策をしておく必要はあると思います。

施工方法のトラブル

修繕時に施工方法で揉めることもあります。以前にも修繕後にトラブルになり、修繕方法について揉めたことがあります。以下の記事は新築マンションの例ですが、コンクリートの手摺のリブと呼ばれる部分が落下してしまい、管理組合と売主の間でトラブルになった例です。

関連記事
事例 壁の剥落が起こったマンション

上記の例は適切な施工方法で工事されていなかったために起こったトラブルですが、契約書に施工方法が明記されていたら揉めることも少なくなるでしょう。そのため新築工事の場合、優先図書というものが記載されていることが多いのです。

優先図書とは何か

優先図書とは、工事をするうえで何を優先するかの順位を決めたものです。工事の際には契約書や図面など多くの書類があります。その中で、書類の優先順位を決めたものです。例えば公共工事の仕様を記した「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」には、優先順位として以下のように書かれています。

(4) 優先順位
全ての設計図書は、相互に補完する。ただし、設計図書間に相違がある場合の適用の優先順位
は、次の(ア)から(オ)までの順番のとおりとし、これにより難い場合は、1.1.8 による。
(ア) 質問回答書 ((イ)から(オ)までに対するもの)
(イ) 現場説明書
(ウ) 特記仕様書
(エ) 別冊の図面
(オ) 標準仕様書

マンションなどの民間工事ではどの書類を優先するかは契約ごとに決めれば良く、工事によって異なる場合があります。しかし上記の公共工事に準じて、マンション新築工事では以下のような順位になっていることが多いようです。

①質疑応答書(打合せ記録、回答書を含む)
②現場説明書
③特記仕様書
④実施設計図
⑤標準仕様書

考え方としては、契約時の約束より工事が始まってから行った打ち合わせで決まったことを優先します。工事を進めていく中で、契約時には想定していなかった問題が発生することがあるので、最新の打ち合わせ内容を優先すると決めているのです。こうやって決めておくことで、出来上がった建物と契約書の内容が違うというトラブルを避けています。また施工方法で悩んだ際には、標準仕様書を使うことになっています。

大規模修繕工事の優先図書

マンションの大規模修繕工事では、優先図書が決められているケースは稀です。しかし新築工事同様に、工事中の打ち合わせで工事内容を変更することがあります。そのためトラブルにならないため、優先図書を決めておくことは良いことだと思います。大規模修繕工事の契約書は民間(七会)連合協定の雛形「マンション修繕工事請負契約書」を使うことが多いのですが、その契約書に優先図書の項目がないため、優先図書を定めないことが多いのです。そこで私は契約書に優先図書を加えることをおすすめしています。順番や書類名はマンションによって変わることがありますが、大体以下のようなものです。

①質疑応答書(打合せ記録、回答書を含む)
②契約書類(仕様書、設計図を含む)
③建築工事標準仕様書(日本建築学会、国土交通省大臣官房官庁営繕部の最新版)

新築工事と同様に、着工後の打合せで決定したことを契約時の取り決めより優先します。③の建築工事標準仕様書は日本建築学会が出している書籍で、JASS1からJASS27まであります。建築物の質の向上のため、各工事の合理的かつ経済的な一定の標準を定めたもので、例えばJASS5は鉄筋コンクリート工事、JASS8は防水工事の標準を定めています。JASSはJapanese Architectural Standard Specificationの略で、日本建築工事標準仕様の意味です。

また国土交通省大臣官房官庁営繕部が出している公共建築工事標準仕様書(建築工事編)も、優先図書に含めています。こちらもJASSと同様に新築工事では常識のように使われる仕様書で、工事を迷った時に指針になります。工事をどのようにするか迷った時に、これらの書籍を使って確認するように優先図書の最後に書いておくのです。

優先図書の注意点

定例打ち合わせなどで決まった内容が、契約時の書類より優先されることになるので、議事録の管理をきちんと行わないとトラブルの原因になります。打ち合わせの後は速やかに議事録を作成し、出席者の押印をして原本とコピーを作成する必要があります。議事録にあやふやなことが書いてあれば、それが原因で揉めることになりかねませんし、押印がしてなければ書類としての強制力を持ちません。議事録の作成、確認、保管を丁寧に行うようにしなくてはなりません。

まとめ

マンションの大規模修繕の契約書には、優先図書というのはほとんど記載されていません。しかしここに書いたように、優先図書を明記してあれば何に従って修繕工事を行えば良いかが明確になります。契約前に施工業者と話し合って契約書に記載するだけなので、簡単に盛り込むことができますし、明記したくないという業者もあまりいません(会社の契約書の雛形を変更したくないという業者もたまにいます)。大規模修繕工事の際は、施工業者と相談してみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。