マンション建設現場で発掘された鉄の塊 /近隣住民が避難する騒ぎに

これはデベロッパーに勤務していた頃の話です。マンションの建設現場で、金属の塊が発見されました。これが警察、消防、自衛隊、近隣住民を巻き込んだ大騒ぎに発展しました。今回の話は、マンションの建設現場ではさまざまなことが起こってるんだと思って読んでいただけたら幸いです。

都内某所の建設現場

4月に着工した都内某所のマンション建設現場ですが、問題なく工事が進んでいました。ただ着工時にデベロッパーとゼネコン、設計事務所の3社で施工検討会を行い、施工上の問題になりうる事項を洗い出しており、いくつかの課題を抱えていました。しかしこれはどのマンション工事現場でもあることで、むしろこのマンション工事現場では問題が少ない方でした。デベロッパーの担当者であるT課長は、この現場については安心しており、所長もしっかりしている人だから任せていても大丈夫だと思っていたようです。

マンションは200戸程度の大規模マンションで、14階建ての鉄筋コンクリート構造です。敷地も広かったので、工事の重機の出入りや運用も容易でした。現在は根伐りと呼ばれる基礎を作るために地面を掘る作業を行なっていました。何台もの重機が投入され、土を掘ってはダンプカーで搬出が繰り返されていました。そこに土工が土留を作成し、工事現場は巨大な穴のようになっていました。そんなタイミングで、T課長は1階から上の工事について懸案事項になっていたことについて、所長と話をするために電話を掛けました。朝9時に電話をしたのですが、所長の電話は通話中でした。

連絡が取れなくなった現場

所長の電話が通話中だったため、T課長はしばらく経ってから電話することにしました。9時30分を過ぎた頃にもう一度電話をしますが、所長の電話は通話中でした。T課長は忙しいんだろうなと思い、自分も処理をしなくてはならない書類が溜まっていたので、そちらに集中していました。そして10時30を過ぎた時にもう一度電話をするのですが、再び通話中になっていました。午後には別の担当物件に行きたかったT課長は、午前中に所長と話しておきたかったので、事務所に電話します。しかし何度コールしても電話には誰も出ませんでした。

ここでT課長は何かが変だと感じました。この現場には所長と副所長、主任に加えて現場員が3名と現場採用の事務員がいます。これだけの現場で、誰も電話に出ないのは不自然です。事故などの大規模なトラブルが起こったのではないかと心配になってきました。T課長は目の前の書類を片付けながら、何度も所長の携帯電話に掛けていきました。しかし時間が無情にも過ぎていき、誰か様子を見に行かせることはできないかと考えます。しかし課員も多忙なので、すぐに誰かを行かせることもできません。そんな中で、T課長は品質管理室の私に「午前中に出かける用事とかない?」と尋ねてきたのです。あいにく私も午後一番に始まる会議の準備に忙殺されていました。

大混乱していた現場

T課長が所長と連絡がついたのは、12時近くになってからでした。所長から電話がかかってきたのです。今日の作業を全て中止にしたので、その段取り変えと会社への連絡に加えて、警察や消防への連絡と協議などでデベロッパーへの連絡が遅れてしまったと謝罪していたそうです。何が起こったのか尋ねると、それは意外な出来事でした。

①午前8時

その日の現場は、いつものように朝8時に始まりました。ラジオ体操をして朝礼を行い、日中は30度を超えると予報が出ていたので暑さ対策の徹底を促して朝礼は終了します。所長は現場員にも作業員の顔色に注意して、様子がおかしそうならすぐに休ませるように指示したそうです。そしていつも通りに作業が始まります。その日の作業のメインは根伐りと土留でした。

②午前8時30分頃

重機で土を掘っていたオペレーターが、岩か何かがあることを感じます。そこで周辺を大きく掘って、岩を取り出しました。敷いてある鉄板の上にその岩を置くと、ゴーンと鈍い音が響いたそうです。土工が岩を割れないかスコップで叩いたところ、カーンという鈍い音がしたため金属だと気づきました。重機のオペレーターと土工は金属なら売れるかもしれないぞと軽口を叩き、こびりついた土を落とせばどんな金属なのかわかるだろうと、水で洗って土を落とすことにします。幸い金属塊は卵型なので、転がして運ぶのは容易です。土工は水道があるところまで金属塊を移動させることにしました。

水道は現場事務所の真下にあるので、土工は金属塊を蹴って転がしながら運びました。途中何度かあちこちにぶつかりますが土工は構わず蹴り続け、現場事務所の真下にある水道まで運びました。そこでホースを使い水を掛けながらスコップで泥を落としていきました。水を含むと土は柔らかくなりガリガリザクザクとスコップで土を削り落とします。すると姿を表したのは、鉄製の卵のようなもののお尻に羽が生えたようなものでした。

③午前8時50分頃

土工はその形状を見て、映画やドラマで見たことがあると思いました。そこで目の前の事務所の2階に行き、所長に話をします。「さっき掘り返した土の中から出てきたものを洗ってみたら、爆弾に見えるんだけど」と言われた所長はすぐに外に出て、現物を確認しました。どこからどう見ても戦争映画に出てくる爆弾に酷似しています。地中から出てきたこと、土がこびりついていた頃から長年にわたって地中にあったと予想されることなどから、所長は警察に電話しました。

※参考画像

警察によると、その一帯から戦時中の不発弾が見つかったことが何度かあることから、不発弾の可能性が高いと言われたそうです。土工が現場事務所の真下に運んできたことを伝えると、念の為にそこから全員で退避することを勧められました。そこで所長は全職員と作業員に連絡し、作業を中止して現場から出るように指示しました。自分達も身の回りのものを持って、現場の外に出ることにしました。これ以降、現場事務所には誰もいないことになり、電話をしても誰も出ませんでした。

④午前9時10分頃

最寄りの警察署からすぐに警察官が到着し、現物を遠巻きに確認しました。不発弾の可能性が高いと判断し、自衛隊に連絡を取ります。また警察は絶対に現場内に入らないように指示を出すと同時に、近隣住民へのアナウンスと一部住民の避難を開始しました。所長は作業員の職長を集めて事情を説明し、事態が落ち着くまで待機を依頼します。同時に自身の建設会社にも事情を連絡すると、安全担当の部署から職員と作業員の安全、そして近隣住民の安全を最優先に行動することをキツく言われました。

⑤午前10時30分頃

警察が規制線を張り、現場近くに一般の人が立ち入れないようにしていましたが、状況説明を求めたために警察と所長が一緒になって説明を開始しました。住民たちも普段の生活ができなくなったために憤っており、不安を抱える方々の説明に追われていました。その一方で、所長は仕事の段取りを全て変えなくてはならず、職員らと手分けして各社に連絡を取り続けます。明日予定されている材料搬入などもあり、受け入れが可能か調整する必要があったのです。

⑥午前11時30分頃

自衛隊の爆発物処理班が到着し、調査を開始しました。この日は都内の幹線道路路で事故があったらしく、予定よりも自衛隊の到着が遅れました。到着した自衛隊は現地内外で調査を開始します。規制線が広げられ、警察や消防が見守る中で自衛隊の調査が始まりました。彼らは傍目から見ていてもとても慎重で、現場に緊張感が広がります。それまで怒っていた近隣住民も口を閉じて、自衛隊の調査を見守っていたそうです。この調査が続いている頃、所長は慌ただしい中でデベロッパーに電話していないことに気づき、T課長の携帯電話に連絡を入れました。T課長は唖然としましたが、こうなっては何もできることはありません。あとは自衛隊に無事爆弾を撤去してもらうしかないのです。

※参考画像

⑦午後12時30分過ぎ

自衛隊の慎重な調査が終わり、爆弾周辺が囲われて撤去作業が始まりました。所長は遠目から見ていますし、爆弾周辺が囲われているので、何が行われているのかわかりません。しかししばらく経つと、自衛隊員が爆弾を肩に担いで現れたそうです。所長の目には映画の主人公のように、その姿が神々しく見えたと言っていました。これまで周辺住民を巻き込んだ大騒ぎになった爆弾を、普通に荷物を担ぐように抱えて出てきたのですから、その頼もしさに惚れ惚れしたそうです。そして自衛隊員は爆弾を特殊なケースに詰めると、作業の終了を伝えて去っていきました。

後日談

東京は戦時中に何度も空襲を受けているので、あちこちに不発弾が眠っているそうです。その不発弾は墜落した衝撃で信管が壊れたり、そもそも爆弾の製造過程で不備があったりで、地面に落ちても爆発しなかったもののようです。しかし爆弾の中身の火薬などはそのままなので、爆発する可能性があるので、発見したら近づかないようにして通報することが大事だそうです。

今回のように掘り起こしてから鉄板の上に落としたり、スコップで引っ叩いたり、蹴って転がして運ぶなどは絶対にやってはならないと警察と自衛隊から言われたそうです。これで事故など起こらなくて幸いでした。何気なく信管がある先端部分を叩かなかったのが、良かったようです。先端部分から落としたり叩いたりすれば、爆発する可能性もあったと言われたそうです。

まとめ

マンション建設現場では、さまざまなものが地中から出てくることがあります。しかし爆弾が出てきたというのは私にとっても初めての経験で、この話には驚かされました。このようなことは滅多にないのですが、マンション建設現場ではさまざまなことを乗り越えて完成しているという一例です。

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