事例 壁の剥落が起こったマンション

※リブの参考写真です。実際の物件ではありません。

関西方面にある、築13年目のマンションからのご相談です。外壁が剥落して落下したそうですが、幸い怪我人はいなかったそうです。売主は築10年を過ぎているので、管理組合の負担で補修を提案してきましたが、当然ながら理事会の皆さんは納得していません。ここの理事の1人は弁護士で訴訟も検討しているそうですが、建築の専門的な知識がないため相談されました。

事故とマンションの概要

物件が特定されない範囲で書いていきます。マンションは地上8階建ての鉄筋コンクリート構造で、総戸数は70戸を下回る中規模物件です。地元の不動産業者が売主で、設計も施工も地元の業者です。2年前の築11年目に大規模修繕工事を行っています。外壁の仕上げはタイルと吹き付けの併用で、今回剥落したリブの部分は吹き付け仕上げでした。

外壁の剥落は2階のバルコニー部分で起こりました。バルコニー手摺部分に厚さ約30mmのリブが水平に付けられているのですが、その部分が落下しています。1階から高枝切りハサミなどで他の部分のリブを突くと、ポロポロと落下してきたそうです。大規模修繕では足場を架けず、外壁の工事は行っていませんでした。そのため大規模修繕時に発見されることはなかったようです。

売主の言い分

10年の 瑕疵 担保責任があるが、それは構造に関する部分と雨漏れに関する部分に限定されている。さらに10年を過ぎているため瑕疵担保責任の範囲外になる。外壁は5年のアフターサービス保証期間を設けているが、こちらも期間が過ぎている。経年劣化により外壁が破損しているため、マンション住民の費用負担で補修工事を行うことにしたい。

施工業者の言い分

工事写真を見返しても施工に問題はなく、竣工検査でもリブの浮きなどは指摘されていない。そのため新築時には問題なかったと考えられる。今回のリグの剥落は、経年劣化に加えて地震の影響も考えられる。いずれにしても自然現象が原因の剥落で工事に問題があったとは認められないため、マンション住民の費用負担で補修工事を行うことをお願いしたい。

落下したリブ

リブの厚みは30mmありました。バルコニーの手摺り壁をコンクリートで真っ平らに打設し、その後に 左官 工事でリブを付けています。そもそもこの付け送りという手法が論外で、こんなことをしていたら落下するのは当たり前です。本来はリブもコンクリートで壁と一緒に打設するべきです。

施工会社の説明によると、急な設計変更があり、3階から上のバルコニーはコンクリートで打設したそうです。2階だけが間に合わず、 モルタル で作ったと説明していました。マンションの建設ではいかにもありそうな話です。しかしこの説明が本当だとしても、この施工方法は、あまりにもお粗末です。

共通仕様書を確認

国土交通省の大臣官房庁営繕部が出している「公共建築工事標準仕様書」(リンクは令和4年版)というのがあります。これは文字通り公共建築物を建設する際の仕様書ですが、民間の建築でも広く利用されている建築工事のバイブルみたいなものです。この他にも日本建築学会が出している本もあり、建設工事はこれらの仕様書を見て施工計画を立てます。

※共通仕様書の表紙

民間工事は、この共通仕様書通りに作らなければならないという決まりはなく、違反しても罰則があるわけでもありません。しかし国土交通省がまとめた仕様書と異なる施工方法を行うなら、その技術的な根拠が必要になります。そのためほとんどの工事が、この仕様書を元に行われています。多くの裁判の際にも、この仕様書通りになっているかが重要なポイントの1つになっています。

これによると、左官工事で壁にモルタルを塗る場合は25mmまでと書いてあります。このマンションで剥落したリブは30mmですから5mmほど超えています。しかし共通仕様書は何がなんでも25mmを守れとは書いていません。25mmを超える場合はステンレス製アンカーピンを200mm程度の間隔で打ち、ステンレスのラス網等を貼るように書いています。しかし落下したリブには、ステンレスのピンも網もありませんでした。

さらに共通仕様書には、左官工が1回に塗る厚さも定めています。最大7mmとなっているので、30mmもの厚さを塗るには5回に分けて重ね塗りをしなくてはなりません。剥落したリブの写真を見ると、とてもそんなに塗り重ねているようには見えませんでした。

共通仕様書から逸脱した施工方法が行われているにも関わらず、施工会社は施工に問題がないと言っています。施工会社には、なぜ共通仕様書通りに施工しなかったのかを問わなくてはなりません。

施工会社との話し合い

私がこれらの情報を理事会に渡すと、理事会はすぐに施工会社を呼んで協議しました。てっきり有償補修工事の打ち合わせだど思ってやってきた施工会社は、共通仕様書を突きつけられて焦ったようで、内容を社に持ち帰って検討するとしたようです。

私が渡した資料が効いたのか、弁護士の理事が「無償での補修に応じていただけないなら、司法の判断を仰ぎましょう」と言ったのが効いたのかはわかりませんが、施工会社の費用負担で補修工事を行うと連絡してきました。それまでの管理組合の費用負担という姿勢が、共通仕様書を持ち出しただけで一変したのです。

まとめ

あらゆる施工方法には決まりがありますが、守られていないことが多々あります。そして、それが原因でトラブルが起こることは少なくありません。信じられないかもしれませんが、これら施工方法の決まりを知らないで工事をする建設会社や工務店が存在しますし、知っていても費用や手間がかかるので、勝手に簡略化してしまうことがあります。

滋賀県の「大津京ステーションプレイス」というマンションが欠陥マンションだとして裁判になっていますが、こちらも施工方法に問題が多かったようです。こちらのマンションでは数々の問題が指摘されているので、近いうちに紹介したいと思います。

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