修理を安い業者に発注する前に考えたい5つのこと

最近はマンション理事会が管理会社に依頼することなく、自分たちで業者を探して修理の発注をすることが増えています。管理会社に依頼すると工事費が高くなりがちですから、自分たちで業者を探して安くしようというのは当然のことだと思います。しかし発注をする際に、値段ばかりを見ていくと落とし穴が待っています。

①材料費は業者ごとに違う

よく「トイレの便器を交換したいのですが、いくらぐらいかかりますか?」みたいな質問を受けますが、正直言ってかなり難しい質問です。それはまず便器の価格が業者によって違うからです。便器はTOTO(トートー)やLIXIL(リクシル)が有名ですが、これらのメーカーの便器は納入する業者によって価格が全く違います。

施工業者は便器を商社から買い付けるのですが、商社の卸売り価格は業者ごとに違います。水回りのリフォーム専門で毎年800個の便器を発注する施工業者と、小規模リフォーム業者で毎年5個程度しか発注しない業者では、商社が提示する価格は全く違うのです。毎年多く買ってくれる会社には、大幅な値引きをして卸していますし、あまり買ってくれない会社にはそれなりの値段になります。そのため業者によっては仕入れ価格が倍ぐらい違うことも珍しくありません

ちなみに私がいたデベロッパーは、一時期は毎年1万戸以上のマンションを竣工していました。便器を毎年1万個買っていたのですから値引き幅も大きく、驚くほど安価で仕入れることができました。金額は言えませんが、とにかく町の工務店が聞けば驚愕する安さでした。これは照明でもフローリングでも同様で、「相場はいくら?」と質問されても答えにくいのが現状です。

②職人の価格は業者によって違う

職人に1日働いてもらうといくらかかるのか?よく「1人工(にんく)いくら?」なんて言いますが、これも業者によって価格が違います。例えばクロス工事の職人にしても、業者によって3倍くらい違う事があります。私が付き合った中で最も高かったのは、美術館や大企業の応接室などに使われる布生地を使ったクロスを専門に張る業者でした。これは特殊な技能になるので、どうしても割高になります。この業者にビニールクロス張りの応援をお願いすると、目が回るような金額を請求されました。

スーパーゼネコンの下で大規模な工事を行っている会社と、個人のリフォームを中心に仕事をしている会社では単価がかなり違いますし、店舗を中心に仕事をしている会社でも金額はバラバラです。価格が高い業者は、高い価格を設定しても仕事をもらえるから高いのであり、安い業者は安くしないと仕事を取れないという資本主義の原理が働いているのです。

③職人が不足している

現在は職人の高齢化が顕著です。マンションの部屋の壁を造る造作大工の会社など、50歳が若手になってしまうところが珍しくありません。職人の平均年齢が60歳を過ぎている会社は多く、深刻な若手不足になっています。そして若手だけでなく、職人全体の絶対数が不足しています。これはオリンピック開催や安倍政権の公共事業拡大路線などが相まって工事が増えているのに対し、2008年のリーマンショックで廃業した会社が多いからです。

※出典:国土交通省webサイト

職人の絶対数が不足している中で、若手が不足しているのは大問題で、今後はますます職人の数が不足すると予想されています。そのため工事費は年々上がっていて、国土交通省が発表している「建設工事費デフレーター」などを見ても、近年の価格の上昇が確認できます。人手不足の中でも工事が増えているので、各社が職人を確保するために動くので価格が高騰しているのです。

④それでも「安くします」と言う人達

このような状況でも、安く工事をすると言う業者はいます。なぜ全国で職人が不足して価格が高騰しているのに、安くできるのでしょうか。私の所にも「仕事はありませんか?」と連絡してくる業者がいるのですが、そういう人達は仕事がないのです。職人が不足している中で仕事がない人というのは、腕がそれなりの人という場合が多く、安心して任せられない業者が多く含まれます。

もちろん仕事がないのには様々な理由があり、一概に腕が悪いと決めつけられるわけではありません。リフォーム専門で仕事をしてきた業者さんにとっては、現在の人手不足はあまり関係ありませんし、大手ゼネコンの下で働くのを嫌って小規模工事を専門に行う業者さんも同様です。それでも何かと価格が上がっている現在において、最初から「安くします」と言う業者には気をつけた方が良いと思います。

⑤その業者を選ぶメリットは?

工事費が高い業者より安い業者を選ぶ方が、お得なのは間違いありません。しかし安い業者を選ぶ際に、安いという以外にどんなメリットがあるかが重要で、これは業者を選ぶ際に重要なチェックポイントになります。アフターサービスがしっかりしている、特許などでその業者にしかできない工法で工事ができるなど、自分達の要求にかなった何かを持っている業者を選ぶべきなのです。

中にはアピールポイントが全くなく、単に安とばかりを言う業者がいますが、なぜ安くできるのでしょうか。単に安くするというだけなら、規格外の安い材料を使ったり工程を省いたりしているだけかもしれません。以前、私が相談を受けたマンションでは、左官屋が5回に分けて塗らなくてはならない部分を1回で塗っていました。5回に分けるより1回で塗ってしまった方が安く済みますが、その部分が剥落してしまいました。明かな手抜き工事です。

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このように安いというだけで選ぶのはなく、その業者を選ぶことによってどんなメリットがあるかを十分に吟味するべきなのです。

まとめ

業者を選ぶ際には、安いというだけで選ぶと失敗するかもしれません。金額も大事ですが、自分たちのニーズとその業者が合っているかが重要になります。上記のポイントを気にかけながら、より良い業者さんを選ぶように心掛けましょう。

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