免震構造の基本知識 /地震に有効だがコストは大丈夫か

大きな地震が起こるたびに、免震構造が話題になります。地震に対する有効な手段である免震構造は、すでに多くのマンションが導入しています。その一方で、免震構造は維持費が高いとも言われていて、修繕積立金の高騰を心配する声もあります。そこで今回は、免震構造の基本知識をまとめてみたいと思います。

地震に対する構造は3種類ある

マンションの地震に対する構造は3種類あります。ここではその違いを簡単に説明していきます。

①耐震構造

マンションの9割以上が、この耐震構造だと思って間違いないでしょう。耐震構造は、建物の主要構造部材の柱・梁・壁・床の強度によって、地震の揺れから建物を守ります。各部材の耐力で地震に耐えるため、各部材がどうしても大きくなりがちなのが欠点と言えます。

②制震構造

建物内や屋上に設置した制震装置で、地震の揺れを吸収する構造です。揺れによる建物の変形を制震装置が吸収してくれるので、建物の損傷が少なく済みます。また高層建物の場合、風による揺れに対しても制震装置を作用させることもできます。

③免震構造

建物と地面を切り離し、免震装置によって建物を浮かせいる構造です。ゴムでできたアイソレーターが変形することで地震に追随し、免震装置のダンパーが地震の揺れを吸収します。そのため建物の揺れが少なく、建物の損傷も少なく済みます。

免震装置は主にアイソレーターとダンパーでできています。この2つの働きは自動車が好きな人なら、サスペンションのバネとショックアブソーバーの関係に似ていると説明すれば、理解できると思います。

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免震装置の歴史

世界初の免震構造には諸説ありますが、日本では建築家の河合浩蔵が、1891年に丸太を二方向に何段も敷き並べ、その上に建物を建てる「地震ノ際大震動ヲ受ケザル構造」と題した演説を行っています。これを世界初の免震技術とする意見が、長らく言われていました。その後、1909年にイギリスの医師カランタリエントが「建物の下にタルクという石を敷き地盤から建物を絶縁する方法」を提案しました。ところがカランタリエントは友人に宛てた手紙の中で、「自分の発明は25年前に提案された日本の免震構造よりも良い」と記しているのが見つかりました。この手紙から25年前は1884年にあたるため、河合浩蔵が免震構造を提唱する前から、日本には免震技術があったと言われています。

※ジョン・ミルンと河合浩蔵

当時の日本では、明治政府が数千人もの技術者を欧米から招聘し、日本にさまざまな技術を導入していました。イギリスの高山学者ジョン・ミルンは1876年に講師として日本に招かれています。ミルンは1880年に日本地震学会を創設し、1891年の濃尾地震では現地調査も行っています。来日中にミルンは免震構造の研究も行っており、その論文を欧米で発表しています。カランタリエントが手紙書いていた日本の免震構造は、このミルンのものではないかと言われています。ジョン・ミルンに関しては、ドキュメンタリー映像があるので、そちらを見ていただくのが良いでしょう。

ジョン・ミルンのドキュメンタリー:The Man Who Mapped the Shaking Earth(日本語字幕版)

また1889年にはオーストラリアのメルボルンで、ゴム板を用いた鉄骨高架橋支承が作られています。さらに1906年のサンフランシスコ大地震の直後には、ヤコブ・ベクトールドという人物が「地面に穴を掘り玉石を入れその上に建物を建てる方法」をアメリカで特許出願しています。これを最初の免震構造の特許とする意見もあるようです。このように100年以上前から、あちこちで免震技術が考案されていたのです。

第二次世界大戦後に免震構造の研究は盛んになり、免震構造と制震構造の基礎が固まっていきます。1970年代に入ると原子力発電所の地震対策が世界各国で本格化し、南アフリカやアメリカの原子力発電所で免震装置が設置されています。日本では80年代に入ってから大手ゼネコンが免震構造の研究を本格化させ、80年代後半から集合住宅にも採用されるようになります。

免震構造のメリット

免震構造の最大のメリットは、地震時の建物の揺れが少ないことです。地面が激しく何度も揺れていても、免震構造のマンションはゆっくり大きく揺れます。そのため地震時の建物の損壊が小さくなります。また建物が揺れないということは部屋の中の揺れも少なく、家具が転倒する可能性も低いということです。免震構造を採用したマンションの良さは、一般財団法人 日本免震構造協会が、東日本大震災の後に実施したアンケートを見ても明らかです。アンケートの詳細は以下のリンクから見ることができます。

参考:一般財団法人 日本免震構造協会のアンケート

以下の動画は、東日本大震災の時にマンション側から撮影した映像です。マンションが免震構造になっているため、マンション以外の地面が揺れているのがわかります。0:55あたりから激しく揺れて画面中央の人物が立っていられなくなる様子が映っています。このような激しい揺れでも、免震構造のマンション内部では揺れが少なくなっています。

免震構造のデメリット

免震構造は地震の際に前後左右に揺れて、地震のエネルギーを緩和していきます。そのため建物が動く幅が必要になるので、敷地いっぱいにマンションを建てることはできません。また単純な形状の建物でなければ免震にできず、L字型の建物など免震構造に向かないマンションも多々あります。免震構造は建物の形状を選ぶのです。

また一般的な耐震構造に対して、建設コストが高くなります。ピットの形成や免震装置の設置に加えて、電線や給排水管も免震に対応しなくてはならないので、どうしても建設費が高くなってしまうのです。また同様に維持費も高額になりがちです。免震装置が寿命になれば入れ替えをしなければならず、そのための費用を修繕積立金で貯めておかなければなりません。免震構造は、お金がかかると言えます。

地震が起こる度に修繕費が発生するのか

小さな地震はともかく、大きな地震が起こって免震装置が働いた後は、メーカーが点検をすることになっています。そして不具合が発見されると、部品の交換が必要になります。そのため地震の度に修繕費が必要になると言う人もいます。確かにその通りで、地震の度に修繕費が発生するなら修繕積立金をどの程度貯めておけば良いのか、計画が立てにくいと言えます。

しかし免震装置が破損するほどの大きな地震であれば、耐震構造の建物もそれなりに損害を受けていることが多いのです。耐震構造のマンションで、地震のための修繕費を積み立てている例は聞いたことがありません。免震構造も耐震構造も、地震のたびに修繕費用が必要になるのは同じなのです。

免震装置の寿命

かなり前から免震装置の寿命は話題になっていて、正確な年数はわかっていません。まだ寿命を迎えた免震装置がないため、明確なことが言えないからです。先に歴史のところで書いた1889年にオーストラリアのメルボルンに作られた鉄骨高架橋支承のゴムは、まだ現役で使えています。そのため免震装置の寿命は100年以上と言う人もいます。

しかし各メーカーが熱劣化促進試験などを行ったところ、寿命は60年から80年となりました。もちろん各種環境条件によって寿命は異なり、さらに短くなる場合も長くなる場合もあります。ですが大地震などに遭遇したり長期間に渡って浸水したりしない限りは、マンションそのものの寿命と免震装置も寿命は、一般的に同程度と考え得られています。今後さらに時間が経てば、免震装置の寿命が明らかになってくると思います。

まとめ

免震構造は地震時の揺れが少ないので、建物の損壊が少なく室内の揺れも大きくありません。そのため家具の転倒なども少ないですし、建物の外に出るより安全だと言えます。地震の多いエリアでは免震構造のマンションが高い人気を得ていますが、実際に住んでいる人からの評価が高いので人気になったようです。その一方で寿命が尽きた免震マンションがないため、免震装置の交換などにかかる費用が未知数の面があります。そのため維持費がどれだけ必要なのか正確なことがわからず、修繕積立金にも影響してきます。免震構造はメリットが多いですが、費用面も含めて本当に必要なのか十分に検討することをお勧めします。

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