大阪の傾く賃貸マンション /問題は地盤か杭か?

大阪市城東区の賃貸マンションが、まるでピサの斜塔のように傾いていると話題です。実に8年も前に専門機関が調査を行い、2棟のマンションがハの字に倒れていることが確認されていたそうです。それが今日まで放置され、今でも人が住んでいるというのですから驚きです。今回はなぜこのようなことになったのか、報道されている内容を元に考えていきたいと思います。

物件概要

  • 構造・規模:鉄骨造(S造)5階建ての2棟構成
  • 物件所在地:大阪市城東区野江
  • 最寄駅:JRおおさか東線 野江駅
  • 竣工:1番館1986年(昭和61年) 2番館1991年(平成3年)
  • 施工者:兵庫県加古川市の工務店

竣工から今日までの経緯

兵庫県加古市の工務店が1986年に建設し、賃貸経営を始めました。この工務店は、2012年3月に大阪市の不動産屋に2棟とも売却しています。しかしこの不動産屋は購入直後に傾いていることに気づき、工務店に抗議をしています。弁護士にも相談しますが、契約条件が建物をそのままの状態で引き渡す「現状有姿」だったため、訴訟を起こしても勝ち目がないと言われて断念したそうです。

この不動産会社は2013年に専門家に調査を依頼し、2棟のマンションがハの字に傾いていることがわかります。そしてこの不動産屋は2013年7月に南側の1番館を、2015年2月に北側の2番館を売却しました。その後も転売があり、傾きが問題になって所有権が戻ったりしています。つまり業者間でババ抜きをやっていたような状態で、今日に至っているようです。

現在も住み続けている人がいる

このような状態なので引っ越した人も多いのですが、今もなお住み続けている人がいます。賃貸契約をした人は契約時に建物が傾いているとの説明はなく、現在は引っ越したくても経済的に無理なので仕方なく住み続けているようです。当然ながら斜めの床で生活を続けているため、体調を悪くしている人もいるようで、今後の健康状態が心配されます。

バブル期の竣工物件

1986年竣工と言えば、バブル景気の初期にあたります。1985年にニューヨークのプラザホテルで行われたG5(先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議)で発表された為替レートの安定化のための合意(通称、プラザ合意)によって1ドル240円が1ドル200円になったため、1986年の日本は円高不況に見舞われていました。輸出産業は大きなダメージを受け、政府は経済対策を打ち出します。

経済対策の主な内容は、公共事業の拡大、都市・地域開発に対する規制の緩和、民間投資の拡大、中小企業経営の支援などの措置でした。この中には市街地の再開発や住宅建設も含まれていて、これがその後のバブル景気での不動産価格の高騰に繋がっていきます。こうしたバブル景気の最初期の頃に建設されたのが1番館になります。

また2番館は1991年竣工なので、バブル期に建設されてバブル崩壊が始まる頃に竣工したことになります。バブル期のマンションは高品質と言う人もいますが、そうとは言えないことが多々あります。確かに今では考えられないような贅沢な材料を内装材に使っていることも多く、見た目は豪華なので人目を引きます。しかし建設ラッシュの中で、激しい人手不足が起こっていたため、高品質とは言えない物件が多く含まれています。

建物が傾く原因は何か

建物が傾く原因の大半は、地盤と関係があります。このマンションでは22メートルの杭を打設しているそうです。建物が傾いているということは、この杭が効いていない可能性があります。多くの場合、杭は支持層と呼ばれる硬い地盤に刺しています。そのため周辺の地盤が崩れたとしても地中深くにある硬い地盤に杭が刺さっているため、建物は傾きません。

※支持層に達した杭

また支持層が深い場合は、摩擦杭と呼ばれる杭と土の摩擦で建物を支持する杭を使う場合もあります。この場合、なんらかの原因で地盤沈下を起こし、杭の周辺の土が崩れたら杭が建物を支えきれなくなる可能性があります。

この大阪のマンションの杭がどのようになっているかわかりません。しかし支持層に到達していないか、摩擦杭の周辺の土が地盤沈下などで崩れて支持力を失っていると思われます。横浜のパークシティLaLa横浜でマンションが傾いた原因は杭が支持層に届いていないからでした。また福岡のベルヴィ香椎六番館の場合も同様です。これらと同じ原因とは限りませんが、杭の設計か施工に問題があったのではないかと推察されます。

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杭が原因で建物が傾くのか

建物の構造計算をする際に、建物の荷重は長期荷重と短期荷重の2種類に分けて考えます。長期荷重は建物そのもの重さに加えて、家具や住んでいる人の体重を加えたものになります。一方、短期荷重は地震の際に加わる力が加わったものです。今回の件は長期荷重だけでマンションが傾いているので、地震の際にはかなり危険な状態だと推測されます。

マンションの建設現場を経験した者としては、杭が支持層に到達していないという最近の事例は信じ難いのですが、仮に届いていなくても建物が傾くというのも信じ難いのです。日本の建築の構造計算は余裕度が多分に含まれているので、極端な話をすれば杭の3本のうち1本が支持層に届いていれば、長期荷重には耐えられることがほとんどです。このように傾くということは、何本もの杭が届いていないことになります。

また摩擦杭の場合、ハの字に倒れていることから1番館と2番館の間の地盤が大きく沈下していることになります。大阪は阪神淡路大震災で大きな揺れを経験していますが、これほど極端な地盤沈下が起こるなら周囲一帯の建物が倒れかけていると思います。そのためこのマンションの設計か施工に当初から大きな問題があったのではないかと考えられるのです。

施工者に責任はあるか

このマンションを建設した工務店は、亡くなった先代の時に建設したものなので事情はわからないと説明しています。また図面などは全て売却した不動産屋に渡しているので、資料も持っていないと言っています。施工に問題があれば工務店の責任を追求できるように思いますが、法律的に工務店の不法行為を追及できるのは築20年までです。そのため仮にどのような施工ミスや手抜き工事が発覚しても、この工務店に法的な責任を負わせるのは難しいのが現状です。

まとめ

詳細は不明ですが、設計か施工に大きな問題があったのは間違いないと思われます。しかしそれ以上に、まるでババ抜きをするように転売が繰り返され、その間にも賃借人の募集が続けられていたことに驚きます。住んでいる人のことが無視され、利益優先と損失回復ばかりが優先されてきたことも問題です。現在も住み続けている人の健康状態が心配ですし、傾いたマンションをどうするかも決まっていません。現在の所有者は、工事をしてマンションを戻すことは経済的に不可能と言っています。しかしこのまま放置されれば、周辺の住宅に被害が及ぶ可能性もあります。このような利益しか考えない人たちによって起こった悲劇的な事件ですが、この先どのようになるのかは誰にもわかりません。

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